第5話 奴隷商
馬車は街へと違いづいていたが、城門の列には並ばずそこから脇へと逸れていった。そして南門と西門の間付近で馬車が止まる。そこにはもう一台馬車が止まっていた。その馬車からでっぷりと太った男が現れ、こちらの馬車の中を覗き込んだ。
「今回も十分な数の奴隷を連れてきたな。それで文字と計算は仕込んだのか?」
「文字は仕込みましたが計算はまだです。しかし、一人だけ計算ができるものがいます」
こちらの馬車を運んできた男は簡潔に答える。
「まあよい。それで全員引き渡しでよいのか?」
「構いません。一人頭金貨一枚でお願いします」
「計算ができるものも同じ値段でよいのか?」
太った男は疑問に思ったことを質問したが返事はすぐに帰ってきた。
「その子供は鑑定の儀で才能が現れなかったらしいのです。このようなことは私も聞いたことがありませんでしたが奴隷の首輪をつけ本人から聞き出した情報のため間違いないでしょう。それで、計算はできますが売れるかどうかが分からないため同じ値段で結構です」
太った男は購入を断ろうとも考えたが、男は貴重な違法奴隷を連れてくる貴重な顧客だったために断ることを止めて全員購入することにした。
太った男が金貨を支払うと次の到着予定日を話し、男は役目を終えたと言わんばかりにその場を立ち去った。
「さあ、今からお前たちの主人は私、ブサイロン様だ。お前たちはこれから奴隷商にて商品となる。これからレーウールの街に入るので馬車に乗るように」
そう言ってアルトたち奴隷は馬車の荷台にある鉄格子へと詰め込まれた。そして、それぞれの得意なことと鑑定の儀の結果を書き上げた木の板を持ち、レーウールの街に入る。街の中に入ると人であふれかえっており、活気に満ち溢れていた。だがその者たちがこちらを見るとその目は汚いものを見るかのような目つきへと変わる。
そこでアルトは自分が奴隷になったのだと実感した。とその時、馬車へ近寄る男がいた。その男は身なりが良く、今まで周りで自分たちを見下していた人よりも上の階級の人間だということが分かった。
「お久しぶりです。ブサイロン様。今日は新しい奴隷を入荷したご様子。どうか農業の才能のある奴隷を私に売ってもらえませんか」
「お久しぶりです。ムゥ様。今日入荷した奴隷の中に三人、該当する奴隷がいます。お売りしますので人数はいかがしますか。値段は一人金貨四枚です」
ムゥと呼ばれた男は三人全員を購入し、その場を立ち去った。ブサイロンはほくほく顔で金貨を見つめている。その後、馬車を走らせ大きな商館の中へと入っていった。
商館の中はきれいに掃除されており、他の奴隷と思われる人達も身ぎれいに整えられていた。幸いこの奴隷商は思ったよりも扱いが悪くなさそうで安心したアルトであったが、ブサイロンよりアルトに命令が下る。
「アルトよ。お前の役目はここにいる者たちへ計算を教えることだ。一日八時間計算を教えるまで休憩することは許さん」
その命令を下された瞬間、アルトは周りの子供たちに計算を教え始めるのであった。
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