第3話 隣村

アルトは無我夢中で町の外に走り続ける。道を歩く人々は何事かといった風にアルトのことを見つめるが止めるものはいなかった。しかし、小さいとは言え町である。魔獣もいるこの世界では当然のように城門がある。そこにはいつも剣術を教えてくれる自警団の男がいた。


「おい、そんなに焦ってどうした?鑑定の儀で変な才能でもあらわれたか?」


自警団の男はアルトにそう語りかける。アルトはむしゃくしゃしながらも返答する。


「そうだよ。俺は何の才能もない無能なんだとよ。だから門を開けてくれ。俺はこの町じゃ生きていけない」


それを聞いた自警団の男は、自分の何気ない一言でアルトのことを傷つけてしまったことに気が付いた。そして真剣にこう語りかける。


「本当に町から出るつもりなのか?何の装備も持たず丸腰のままで。ここから一番近い村まで歩いて二日はかかる。それに両親に話はしてみたのか?一度冷静になって考えてみろ。それでも行くと言うなら門を開けてやる」


アルトは真剣に語りかけられたこともあり、少し冷静になったがそこでシャイドからかけられた「近寄るなよ。無能が。無能が移ったらどうするんだ?」という言葉がよみがえる。それで両親からもこの言葉をかけられることを恐れたアルトはこのまま門を出ていくことを決める。


自警団の男はもう説得しても無駄だと感じたため、門を開け、アルトに水筒だけを渡した。町の中に鍛冶屋はなく剣は支給物資であるため渡すことができなかったのだ。


アルトは水筒を受け取り、一礼して門を抜けた。時間は正午、隣村まで歩いて移動しているアルトに時折魔物が襲い掛かってくる。襲い掛かってくる魔物の種類はゴブリンやコボルトといった小物である。たいていの魔物は走って逃げやり過ごしたが、ナイフを持ったゴブリンだけは近くの石で殴りかかりナイフを奪った。


夜になると木に登り幹を背にして眠りについた。深く眠ると木から落ちてしまうため何度も目が覚め全く眠れた気がしない。それに、ウルフの遠吠えが遠くから聞こえてくるためそれにおびえながら一夜を過ごした。


次の日の日が沈む前に隣村までたどり着いた。門番には荷物が水筒と錆びたナイフしか持っていないことを不審に感じたが少年がとても疲弊していることが目に見えてわかったためナイフを預けることを条件に村に入れることにした。


また、何かあってはいけないと門番が考えたため、村長のところへ一緒に行くことにした。


「そんなに軽装でどこに行く気じゃ」

と村長に質問された。アルトは簡単に説明する。


「鑑定の儀でよくない結果が出たため町を出た。このまま街へ向かい冒険者にでもなる予定だ」


村長はアルトのことがかわいそうだと感じたため二、三日村に滞在することを認め、村長の仕事を手伝うことで物資を少し分けることを提案した。


アルトはあまりに条件がいいことに警戒したが、他に生き残る手段を思い浮かばなかったため村長の提案に乗ることにした。

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