成り上がり・冒険・失敗  作:神宮

「おう、今日も畑やるぞ」

「おうよ」

 ジョンは父に続いて麦わら帽をかぶる。小さな弟たちもジョンに倣う。実を言うと父も弟たちもみなジョンなのだが、それをあげつらうことに意味はないと思う。

 誰が何と言うでもなく、それぞれが持ち場についていく。やっていることは数週間前から同じで、要するにキャベツの畝から雑草を抜くということだ。

 ジョンは長さ30フィートぐらいの畝を2つ持つことになっている。昨日やった場所、一昨日やった場所、一昨昨日、その前の日………雑草の生え方がそれぞれ違うので、いつどこの草を抜いたか一目でわかるようだ。

 それ今日はここからだとジョンは畑にかがみ込む。それで何とも知れぬ葉の長い草をかき分けて、根元をひっつまんでぐっと引っ張る。そうしているとだんだん慣れてきて、少し別のことを考える余裕が出てくるのだが、ジョンは決まって自分が冒険家になる想像をするのである。

 ジョンの頭の中には凛々しく成長した自分の姿があって、やれ山刀だ、やれ頭陀袋だなどと周到に身支度を調える。そしていざ出発だという時になって、麦わら帽をかぶった父が目の前に立ちはだかる。

「この家を出ていくことは許さん」

「そりゃあどうしてだい、父さん」

「おめぇは長男じゃ。長男は嫁さんをもらって、家を継いで、畑を守らにゃあならん」

「おらぁ外で嫁さんもらって、帰ってきて家を継いで、そんで畑を守るんだ」

 それを言うと父はやれやれと首を振って、何も言わず家から出してくれるのだ。

 さて冒険に出たはいいが、喉は渇くし腹も減る。そういうとき近くに都合よく小川があったりして、そこで汲んだ水を水筒いっぱいに入れるのだ。その想像をしている現実のジョンも、額の汗をぬぐって水筒の水を飲む。

 2日も歩けば領主の館に着く。館の周りはちょっとした町になっていて、そこで財宝の噂を仕入れることができる。どうもそこからさらに数日歩いたところに、ドラゴンが住む洞窟があって、ドラゴンは人々から奪った金銀をその奥にため込んでいるらしい。

 噂を聞いたジョンはいきり立ち、山刀を引っさげて洞窟に向かう。野を越え山を越え、背丈ほどもある草をかき分けながら突き進む。夜は疲れてぐったり眠る。そんなこんなを繰り返して(この部分は往々にして作り込みが雑だ)ついに件の洞窟にたどり着くのだ。

 ひんやりと湿った空気に怖気づきながらも、ジョンは山刀を抜いて洞窟の奥を目指す。天井から落ちた水滴が水たまりに落ちて高い音を立てる。奥のほうからは大きないびきが聞こえてくる。ジョンは膝をがくがくさせながら、それでも進み続ける。

 ジョンの冒険はそこまでで終わる。続きなどというものは存在しない。それがお約束だ。それはなぜかって?

「おう、昼飯にするぞ」

 麦わら帽子の父がそう言うからである。それでジョンはついさっきまでの想像を全部捨ててしまって、母がかまどから上げてくる麦のお粥をかき込むのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る