第9話

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 翌日、俺は七時半にはダンジョンに到着して更衣室へ入っていた。

 駐車場は広いため、相田さんパーティーが来ているかは分からなかった。

 前回と前々回同様に作務衣の上に鎧を着ていく。

 周囲に人はいないため、相田さん達もまだ来ていないのだろうと思う。

 革鎧を着ていくとやはり微妙だなと思うのが頭防具、ヘルメットみたいな形をしている防具だ。

 髪が結べるくらいには長いから被り続けるのが少しつらい。

 リュックも背負い、用意が完了した為、新しい武器を納める箇所を決める。

 ククリナイフはベルトに鞘を付けようて腰に付けて後ろ手に抜くつもりだったのだが、リュックがあって抜けない為諦めた。

 結局、両腿に付けた。右側は回復薬のホルダーの下に、左側はベルトと腿にレッグバッグ用のナイロンベルトで固定している。

 ククリナイフが気にならず動けるのと、最後まで抜ききることができるから、鞘の途中から抜き出す用のボタンを外さなくていいのは、急な戦闘において助けになってくれそうだ。

 念のために木刀を担ぎ、更衣室から出る。時刻は七時四十五分だった。

 更衣室の外、ダンジョンの入り口近くにはパーティーメンバーは誰も来ていなかった。

 準備運動をしながら待っていると、女子更衣室から橘さんと白石さんが出てきた。

「おはよう」

「銅さん、おはよう」

「二人ともおはよう。他の人っていた?」

「ロビーでゆっくりしてた、大体の人って八時半とか九時とかから探索始めるから」

 橘さんが大体の探索者の動向を教えてくれた。

 仕事開始と同じくらいから始めるのか、朝から入っている人って探索者専業だろうからそうなのか。

「タクトとコウキもすぐ来ると思うから。それより昨日買ったククリナイフってそれ?」

「これ。昨日車に乗せたままだったから、橘さんの近くにはあったんだよ」

「そうだったんだ。それで探索に使えそう?」

「どうだろう、実戦で使ってみないと使いやすいかも分からないから、この前みたいに一体を相手に試させてもらうよ」

 そう話していると、相田さんと米沢さんが出てきた。

「おはようございます」

「銅、おはよう」

「銅さん、おはようございます」

 米沢さんとは交流が少ないからまだ、ため口が聞けそうにない。

 女性陣も交流は少ないが、コミュ力高いから俺から会話を引き出している。基本話さないタイプなのに。

「おっ! そいつが昨日買ったっていうククリか」

「はい、この前の時みたいに六層で試させてもらえませんか?」

「いいぞ、俺たちも平日に階層の更新はしてるからな。試しとはいえパーティーの新人が育っていく様はワクワクする」

 俺は相田さんのワクワク材料だそうだ。

「六層とは言わず、一から五層までは銅に任せよう。道は教えるから先行してくれるか?」

「わかりました。行きましょう」

 俺は一先ず、ダンジョンの入り口である洞穴に入った。

 俺が先行するとはいえ、そこまでパーティーと離れているわけではない。すぐに手を貸せるようにある程度の近さにいるようだ。

 一層の道は覚えている。複雑ではなかったからだ。

 入り口から真っすぐ言って突き当りを右に曲がると二層への下り坂がある。

 魔物は表層魔物が出てきて、稀にパーティーで出てくるらしいというのも覚えている。

 先行して歩いていると魔物は二階層に通じない通路ばかりで見つかった為、戦闘もなく二階層の下り坂まで来られた。

「こういうこともあるんですか?」

「魔物と出くわさないことか?」

「はい」

 下り坂で待って、相田さんが来たときに質問をした。

「他のパーティーが先に行ってるんだろう、時々ある。初心者はこういう時、いつもと同じ階層までしか潜らない方がいい」

「どうしてですか?」

 戦闘で無理をしないと勝てないような相手が出てくるからとかだろう。

「魔物が強いのもそうだが、先行したパーティーがバレないように魔物を押し付けて手を貸すのに金を請求してくることがあるからな。銅も気を付けろよ」

「はい。先行してきます」

「最初の通路の分岐は右だからな」

「はい」

 坂を下りながら話していたら二階層への出口が見えてきた為、先行するために走る。

 相田さんが言ったように最初の分岐は右だ、覚えている。道路みたいなきれいな分岐だったから。

 出口から出ると五十メートルほど先に分岐が見える。

 分岐の内の一つから魔物が移動してきているのが分かる。

 こちらが警戒を緩め、少し音を立てて歩き始めると両耳をピンと張り周囲を見始めた。

 うさぎだ。

 気にせず分岐へ向かっていると、うさぎが俺の前に出てきた。

 魔物とはいえ、うさぎはかわいい。

 つぶらな瞳で軽く首を傾げるような仕草は目を奪われる。

 しかし、うさぎとはいえ、魔物でその大きさはフレミッシュジャイアントとタメを張れる。

 うさぎは真上に二度ほど飛んでウォームアップした後、こちらに向かって体当たりをしてきた。一般人は受けたくないだろう速さだ。

 俺は左腿のククリナイフを右手で抜いてそのまま、飛んでくるうさぎに切りつけた。

 真っ二つとはいかなかったが、ククリ越しに骨を折ったような感覚が腕に来た。

 ククリを見てみると刃が欠けていたりはしていなかった。鉈のようにも使われるから安心して気を張らずに使えそうだ。

 うさぎはしばらくすると砂のように崩れて、魔石を残した。

 魔石を拾っていると相田さんパーティーが追い付いたようだった。

「ククリはどうだった?」

「結構適当に使ってもどうにかなりそうです。頑丈だし使い勝手がいいです」

 相田さんは新しい武器に興味津々だ。

「そうか、それならもう少し先行してもらおう。この先の道は分岐を右に行き、十字路を左に行けば三層への下り坂だ」

「分かりました、先行します」

 それから合流して道を聞き、先行することを繰り返していった。

 今は五層、時間も特にかからずここに来ているがパーティーを組んでいる敵達が目立っている。

 六層へのルートにはいないが、わき道に時々魔物が見える。

 静かに進んでいると六層へのルートに魔物のパーティーが待っていた。わき道のない直線の道だ。

 相田さんパーティーを待って、攻撃を仕掛ける予定だ。相手はうさぎ、犬、ねずみだ。もちろんサイズは二回りほど大きい。

 うさぎは体にククリを叩き込めれば倒せる。

 犬は首元だろうか。俺よりちょっと小さいだけの犬は犬と言えるのか。今なんて口から涎をダラダラ垂らしてダンジョンの床を掘ろうと頑張っている。

 ねずみは思ったよりも手足が長く、爪も長い。特徴的な歯が体とともに大きくなっていることもあり、犬やうさぎよりも強そうだ。

 相田さんパーティーが追い付いた為、状況を知らせると、米沢さんと橘さんが俺と一緒に戦闘をしてくれることになった。

「私が一体減らすから、あとはよろしくね」

「わかった。ただ歩いてきただけだから体も鈍ってる、少しくらいは動かないとな、犬行きます」

「わかりました」

 二人とも余裕そうだ。確かに俺からしても三人で挑めるなら余裕だ。

「それじゃ、いくよ」

 その掛け声とともに俺と米沢さんは走り出した。

 俺と米沢さんの間を高速で通った矢はねずみに当たった。ねずみは一鳴きすることもなく倒れた。

 攻撃に気付いた犬とうさぎはこちら目掛けて走ってくる。

 先に到達した米沢さんが俺の方に走ってきていた犬に傷を与えて犬の視線を釘付けにしている間に、俺はうさぎが飛びかかってくるのを蹴りで対応した。

 蹴りでぐったりしているうさぎの首にククリを振り下ろし、倒した。

 米沢さんはショートソードを血振りして鞘に納めているところだった。

「よし、このペースだったら六層を抜けて休憩に入りそうだな。銅、先行できるか?」

「はい、パーティーの視界に入っている状態で相手が一体の場合戦闘してもいいですか?」

「ああ、無理だと思ったらこっちに走ってこい。この先真っ直ぐで六層への坂だ」

 頷き返して俺は魔石を拾ってから先行した。

 その後、六層に来たが七層へのルートには魔物も今のところ見かけていない。先行したパーティーは協会の言う中級者レベルなのだろう。

 六層の途中、今日はじめての表中層魔物に会った。

 コボルドだ。

 ゴブリンと同じくらいの大きさで顔中に皺が刻まれた人型の犬面だ。醜悪な顔と胸の心臓付近に鱗が生えていているのが特徴だ。

 後方を確認すると相田さんパーティーがちょうど角を曲がって出てきたところだった。

 ククリを抜き、コボルドの所まで走って一撃入れようとしたのだが、足音に反応して迎撃態勢を取った。

 様子見で素手の左手でジャブを打つと素早い動きで避けられてしまうが、こちらも離れてコボルドのカウンターを回避する。

 回避した直後にコボルドはチャンスだと思ったのか連撃を放ってくる。

 素手で打ってくるコボルドの攻撃は直線的で狙いが分かりやすい。顔ばかりを狙ってくるのは習性があるのかもしれない。

 体の大きさ、攻撃が特に恐ろしくないのはE級ダンジョンによくいる敵だからだろう。F級ダンジョンのボス狼の方が遥かに怖かった。動物的な本能が理性に降参を求めていたのを覚えている。

 F級のボスと同等と聞いていたのだがそれは誤情報みたいだ。

 コボルドの次の攻撃はもう放たれている。右のフックで俺の顎を狙っている。

 やることは簡単だ、フックが到達する前に踏み込んだ。

 至近距離では攻撃直後だと動きようがない。

 打ったフックを使い、俺の首を腕でつかみたいだろうが、その前に俺の攻撃が届く。

 右手に持っていたククリナイフをコボルドの首に走らせる。顔の横に右ストレートを打ち込むかのような軌道だった。

 コボルドは攻撃をやめて首に手を当てようとして倒れた。そして土のように崩れて魔石が出てきた。

 魔石を拾いながら、この前から師範の動きもゴブリンの動きも少しずつ見えるようになってきていると感じていた。

 俺自身も型稽古や刃立てたりだとかで細かい調整が、前よりも利くようになっているのが分かっている。ダンジョンに入って魔物を倒すことで上手くなっているのだと思う。

「コボルドは初めてだったよな、どうだった?」

「ゴブリンよりも機敏でした、他は特にないです」

 実際機敏だったことしか気にならなかった。パーティーになると厄介になったりするんだろう。

「普通の奴は顔が気持ち悪いとか、臭いとかで気を取られて機敏さに倒されるんだがな」

 確かに少し臭かったし、気持ち悪くはあったが魔物がそういうものだと思えばそれまでだ。

「あと少しで七層への下り坂だ。気抜くなよ」

「はい」

 その会話の後、十分後くらいに七層への下り坂に到着した。

 七層近くまで降りていって、出口付近で休憩を取り始める。

 俺も背嚢を降ろして中からコンビニで買ってきたおにぎりとカロリーフレンド、飲み物に『こーい、お茶』を出した。

 五人で集まって昼飯を食べているため、自然と話は始まった。

「銅さん。ククリどうだった?」

 橘さんはカロリーフレンドと『クィダーインゼリー』を両手に持って聞いてきた。

「コボルド相手で適当に振っても切れたから使いやすい、それに頑丈だし」

「俺、歩きながらコボルドとの戦闘見てたけど、攻撃しっかり見えてたし、冷静だった」

「武道とかどうこうじゃなくて気の持ちようか、その辺は」

 米沢さんに相田さんが答えているが、冷静とかそういうのではない。

 俺自身、冷静であればいいと思っているが、戦闘に意識が集中して他を考えてないだけだ。

 相手が魔物で弱かったからいいものの、強い魔物になれば考える暇すら与えられずに逃げるだけになるかもしれない。

 二人の手には案の定、カロリーフレンドがあった。

「銅さんは戦闘の時に何を考えてるの?」

 今まで話していなかった、白石さんが難しい質問をしてくる。

「何考えてるって……何考えてるんだろう?」

「こういう風に倒すとか、こうしたら次につながるとかそういうの」

 白石さんが俺にイメージを伝えてくる。

「あんまりそういうのないかな。武道続けてきたおかげで体は条件反射で動くし、隙があれば相手の急所を斬れば殺せるわけだから」

  実際そういうものだ、考えて動けるならもっと上手く戦闘できただろうし、考えて行動に移せるならもう少し早くダンジョンへ入っていただろう。俺は考えすぎて行き詰るタイプだから体で覚えてる方が戦闘は楽にできる。

「銅、普通はそんなに簡単にコボルドは切れないからな」

「そうなんですか?」

「切り傷くらいは付けられるだろうが、急所を切って殺すなんて動く相手だと難しいんだよ」

 そういうものか。俺自身も体の動きが良くなっているから、そこのところ上手くいくようになっていたんだろう。

「私も魔物に大剣当てるの下手だった」

「それは大きくて重いからじゃない?」

 白石さんは結構的外れなことを言った。

「そうかもしれないけど今みたいに切れたりしなかったから、あの時は鈍器みたいな使い方になってた」

 そうやって聞いてみると武道経験がとても役に立っているのは間違いないと思える。

「銅が武道してるにしたって上手く切れてる、今日が初めてのククリなのにな」

 確かに。考えればそうだ、今日、初めて肉を切ったのに、動揺もなく初めての武器で上手くいくなんて。

 魔物を倒して、ダンジョンで動くものを切る器用さと図太さを身につけたみたいだ。

「七層からは、いつもの列になって移動する。それに魔物がいれば絶対戦闘するからな」

 戦闘をすることに否はない。俺自身も魔物との戦闘経験を積みたいと考えていた。

 相田さんがそう言ったころには皆、食事が終わり、体を休ませていた。

 相田さんが呼びかけてきたのはそれから十分後のことだった。

「そろそろ準備しとけよ、今日も適宜休憩を入れながら十五時まで探索するから」

 相田さんの呼びかけに皆休憩を終了して軽く体を動かしたりしている。

 俺もそれに触発されて準備運動をしている。

「よし、銅はシオンの後ろで移動してくれ」

「はい」

 初めてのダンジョン七層の探索が始まった。

 七層は六層と魔物の分布は変わらず、表中層と表層のパーティーがいるだけだ。

 米沢さんが先行して安全の確保をしてくれている。

 六層の時と何が変わるわけでもなく、七層も進んでいく。俺が先行していた時よりもペースは速い。

 そして進行方向に魔物が見つからない。

 別のパーティーはまだ、先を行っているらしい。ここは十五層までしかないはずなのでこれだけ行って出会わないのはダンジョンを攻略してボスを倒しに行っているのだろうか。十三層以降は中級者パーティーが間違いなく必要になるとか駐車場でいるときに話が聞こえてきたから、もう少しで出会うと思う。

 そして初のダンジョン七層は一度も接敵せずに終わった。

「一度も敵に合わないなんてあるんですか?」

 パーティーのみんなに下り坂を移動しながら聞く。

「探索者からするとないわけじゃないけど、俺たちの場合はどれだけ酷くても一層につき一回は出会うな」

「聞いたことはあるけどね。でもそれだけ」

「そうなんですか」

 あんまり起こらないことが起こったみたいだ。

 八層に出てみるとここも魔物の姿は見えなかった。ただ、声が聞こえてきている。

 米沢さんの先行が重要になりそうだ。

 先行をたよりに進んでいくと、米沢さんが止まってこっちの到着を待っていた。

「前にパーティーです。狼、うさぎ、犬、ゴブリン」

 少し声を潜めて米沢さんは報告してくる。

 方針を決めるのは相田さんだ。

「よし、ナナカが初撃でうさぎか、狼を倒す」

「うさぎで」

「じゃあ、うさぎを倒す。コウキは犬、シオンはゴブリンに、銅は狼を相手にするが、いけるか」

「はい」

「もしもうさぎが倒せなかった場合は俺がゴブリンを受け持つから、シオンはウサギを倒した後に来てくれ」

「わかった」

 話が終わり、皆が準備を整えたところで橘さんが弓に矢をつがえた。

 前を向いて狼を確認したとき、近くで弦の戻る音がした。

 そのまま前を見ていると小さな的に橘さんは確実に当てた。

 俺たちは走り出して魔物にどんどん近づいていく。

 狼は吠えながら威嚇をしていたが、その場からは動かなかった。

 ゴブリンはどうなのか分からないが、大剣が地面をたたく音が聞こえた。走った力をのせてそのまま振り下ろしたのだろう。

 こちらも似たようなものをして、走ってそのまま狼の右側に行こうと動くと、狼はこちらに向きを変えてきた。

 そのままククリを抜いて一気に距離を詰める。

 距離を詰めてきた俺にまずは右の前足で引っ搔きとともに噛み付きをしてくる。

 前足の引っ掻きに左手のククリを合わせて、自分の攻撃で怪我をさせる。

 そして右手のククリを順手に持ちかえて、開いた口の下からククリを付きこみ塞がせる。

 考えていた以上に思い通りに攻撃が進み、狼は絶命した。

 米沢さんと白石さんを見てみると、米沢さんはちょうど、とどめを刺していた。

 白石さんは棍棒をもったゴブリン相手に何かを練習しているのか、まだ倒せていなかった。

 米沢さんは白石さんの近くでそのまま戦闘を見ていた。

 棍棒を弾いて突きを入れようとするが、血がにじむくらい薄く切るだけ。少し離れて一気に距離を詰めるが棍棒で攻撃の出を潰されたりと白石さんは何かをしているようだ。

 しかし、結局諦めたのかガードのために出された棍棒ごと叩き切り戦闘を終わらせた。

 その後、各自魔石を拾い、集まってさっきの戦闘の改善点を洗いだす。

「最初の動きは問題なかった。俺が遠距離攻撃のナナカを守りながら周囲の監視、ナナカも周囲の監視。銅は戦闘を素早く終わらせてその後、二人の戦闘の状況を見て入らなかった。コウキもいつもより肩の力が抜けてるようでよかった。問題はシオンだ」

「シオン、何かしてるようだったけど何してたの?」

 白石さんが何かしているのは、皆分かっていたのか心配そうに聞いている。

「この前、もっと軽い動きができるって言われたから、それをしようと思ってたの」

「どうだった?」

「思ったように動けなかった」

 白石さんがそう言うと、皆がこちらを見てきた。

「普通そうです、したことないことをすぐできませんから。それに大剣自体も重いですから軽い武器の方がいいと思います」

 ダンジョンに入って一般人以上の膂力を発揮できるようになっていたから、力以外も上手くできると思っていたのかもしれない。

 全く練習をしていなければできるわけがない。魔物を倒して少しは上手くなっているかもしれないが零から百まで一足飛びというわけではないだろう。

「よし、それじゃあシオンはいつも通りの動きを意識してくれ」

「わかった」

「九層の下り坂で休憩のつもりだから気を抜くなよ」

 そう言われ、米沢さんが先行し、俺達はさっきの順番に並んで歩き始めた。

 周囲を警戒しながら、先ほどの戦闘を思い返す。

 狼に最初走っていき近くを通り過ぎるかのような動きをして、狼の動きの隙を突くつもりだった。

 しかし、ゴブリンやコボルドのように、隙を作れずに動きを知るのも難しかった。F級でもっと大きな狼を相手にしていたから、気圧されなくて済んでいたのかもしれない。

 人型の相手の方が人相手に訓練してきた俺からすると簡単なのかもな。

 戦闘からおよそ三十分後、九層前の下り坂に到着した。

 十層前で各々休憩をとる。

 俺は背嚢から出した『こーい、お茶』の残りを飲んでいるとパーティーは話し合いをしていた。

 内容を聞く為に少し近づくと、相田さんが気づいたようで顔を向けた。

「銅、今日は十層で終わりにしたいと思ってるんだが問題ないか?」

「はい」

 何が起こっているか俺自身は分からないが厄介なことなのか、皆しかめっ面に見える。朝仕事中の俺みたいだ。

 それから五分程休憩して、再度探索を開始した。

「さっきと一緒だ、先行はコウキに任せる。もし何かあれば撤退の指示を出すから集中してくれ」

 そう言って相田さんは列の最後尾に並んだ。

 さっきと一緒かと言われるとそれは違うと言いたい。やはり何かがあったようだ。

 撤退を考えているってことは中級者でも難しい魔物が出てくるってことなのか。

 それを教えてくれるのはパーティーの空気感だ。

 どことなく張りつめているというか、ピリピリとは言わないがここで無駄な話をすると白い目で見られそうな感じがある。

 それに前を歩く白石さんの動きも力が入っているし、後ろの橘さんも歩調が一定でじゃないときがある。

 非常事態なら俺に知らせてくれてもいいんじゃないかと思うのだが、中級者の判断を信じよう。

 何だかモヤモヤしたまま、十分程歩いていると米沢さんが止まっていた。

 硬い表情をしているのが分かる。非常事態か?

「ゴブリンの集団です。数は八体、棍棒四体、棍棒と盾三体、ショートソードと盾一体です」

 非常事態です。

 ここは九層、出てくる魔物は表中層の魔物単体と表層魔物のパーティーだ。表中層魔物のパーティーは十三層からと聞いている。

「俺は戦闘してもいいと思っているが、皆はどうだ?」

 そう言ったのは最年長の相田さんだ。

 他の皆は少しの間悩んでいたが、強気な笑みを浮かべる。

「ふん。準備良さそうだな。銅、お前はどうする?」

 そう言われ悩んだが、何に悩んでるか分からなかった。

 たくさんゴブリンがいることで悩んでいるのか、強そうだから悩んでいるのか。

 米沢さんがいた場所に静かに歩いていき、少し頭を出してゴブリンがいる場所の様子をうかがった。

 八体のゴブリンがいて、剣と盾を持ったゴブリンは棍棒持ちのゴブリンに何かを教えているようだった。四体の棍棒持ちは首を捻って傍でチャンバラを始めた。

 棍棒と盾を持った三体のゴブリンは棍棒持ちのゴブリンから矛先を変えた剣と盾のゴブリンに何かを言われている。

 そんな彼らの動きや体つき、人の身体と変わらないことを確認して相田さんに返事をした。

「いけます」

 相田さんは笑いながら、作戦を伝える。

「俺が棍棒達を相手にする、ナナカは棍棒達への攻撃、それが終われば他の援護。コウキは棍棒盾一体を相手してくれ、シオンは剣盾と棍棒盾を相手にしてもらいたいが、無理なら剣盾だけでも相手にしてくれ。無理だった場合はナナカ、頼む。銅は棍棒盾一体を相手にしてくれればいい。それぞれが上手く狙われなかった場合は、声掛けと周囲を見ることを忘れるな。準備しろ」

 それぞれが防具や武器の状態を確認していくなか、俺も運動前のストレッチをしてククリを見る。

 表面に少し傷が入っているが、使い始めたばかりだとあってきれいだ。

 これから起こる、予想しなかった戦闘を乗り越える武器はできるのなら刀が良かったが、ないもの仕方ない。

「よし、銅。今から起こることは少数の探索者が知っていることだ。誰もが知っている事ではない。だから人に話すなら考えて話すんだぞ。コウキ、頼む」

 そう言われ、米沢さんは一歩前に出て一列になっているこちらの方を向く。そして、武器を掲げて一言。

『がんばれ』

「え? なにそれ?」

 思わず素の口調で聞いてしまう。どういうがんばれ、なの?

 しかし、直ぐにどういうものだったかを理解した。

「体がさっきよりも動きますけど……」

「そう、ダンジョンで魔物を倒せば授かる能力の一つがこれ、個人個人で違うけどね」

 魔法とか近接攻撃の武技を手に入れたいと思っていたが、まさか手に入るかもしれない。

「個人個人ってみんな持ってるんですか?」

「技能は探索者協会で中級者と見なされれば教えられる。鑑定技能で見えるからだ。シオン、銅の技能はなんていうんだ?」

「人体理解」

「だそうだ、そろそろ行くぞ。俺がカウントするからな」

 戦闘前のゴチャゴチャしてる時にすごい情報教えてもらったかもしれない、それよりも人体理解ってどう考えても無意識に使ってる類のものじゃないか。

 ゲームで言うとパッシブスキルだ。

 俺は技名叫ぶ免罪符が欲しかったのに。なかったのか、流星剣みたいな叫ばせてくれる技は。

「十、九、八、七、六」

 そういう技能だったら、「シューティングスター・セイバー!」って叫ばざる負えないと思わせるのにな。

「五、四、三、二」

 悲しい気持ちが少し出てくるが、ククリナイフを両手に持ち、この気持ちを棍棒盾のゴブリンにぶつける。

「一、おおおぉぉぉー!」

 相田さんが大声を上げて走り出した。俺達もその後に続く。

 相田さんが、まとまってチャンバラしていた棍棒ゴブリンに向かって行く。

 米沢さんは相田さんの少し後ろから右にそれて、盾持ちが三体集まっている場所の棍棒盾ゴブリンに向かって行く。俺も米沢さんに続き棍棒盾ゴブリンへ向かうため、米沢さんの後ろに隠していた体を出すと。

「グギャギャギャガグガ!」

 初めて聞いたゴブリンの鳴き声は恐らく威嚇だった。

 鳴き声の主、剣盾ゴブリンが俺へ一直線に向ってくる。俺自身の速度を緩めて白石さんを前に出そうと思ったが距離が近すぎた為、すぐに間合いに入った。

 俺に向かってきた勢いのまま、盾を持って突進してくる剣盾ゴブリン。俺の間合いに入っているが双方が走っているため、ククリよりも盾の方が速い。

 盾を構えながら目元が笑っているのだけが見える。口元も歪んているんだろう。

 こいつの余裕が、にやけ面が見えてないけどムカつく。

 体に巡る血液を意識する、それがドンドン心臓に戻り、心臓から出ていく。そしてそのスピードが上がっていく。

 ゴブリンの持つ盾が近くに迫っていたが速度が少し遅くなり、ククリを振れる時間ができたように感じた。

 今は右手が前に出て左足と右足が付いて速度を緩めようとした状態。

 ゴブリンは右手に剣、左手に盾を持っている。突進して俺が体勢を崩せばとどめを刺れるだろう。

 俺よりも少し小さいゴブリンの頭上は俺に見えている。やることは決まった。

 段々近づいてくるゴブリンの盾を左腕で受ける状況をつくると同時に、盾を受ける前に順手で持ったククリを首に刺した。

 左腕と体に重さを感じると同時に時間が感覚的に早く進み始めた。

 膝を付きながら、体重を預けるゴブリンを見てみると、首にククリが刺さったまま虫の息だった。

 左手のククリを右手に持ちかえて、左手で半ばまで入ったククリを引き抜いた。

「グャ……」

 一瞬、血が混じったような吐息とともにゴブリンは死んだ。

 倒して一息つく前に周りを見回して、俺の本来の担当である棍棒盾ゴブリンを探すと白石さんが大剣の重さで圧倒していた。ゴブリンが倒れるのは時間の問題だろう。

 米沢さんも堅実な戦い方でゴブリンに傷を多く作っていた。動きが鈍くなったところを倒されるだろう。

 棍棒ゴブリンは一体が矢を受けて弱っている所だった。他はまだ生きていて相田さんの盾に攻撃をしている。橘さんを気にしているようだが、相田さんが時々してくるシールドバッシュを無視はできないらしい。

 俺は白石さんと米沢さんの後ろを通り、棍棒ゴブリン達の下まで移動した。

 しかしさっきの戦闘のミスを直す為に、一度止まってから攻撃に移る。

 まだ、相田さんに気を取られていて俺を視認していないゴブリンの後ろから近づき、左手で右のこめかみ付近から頭を掴み、左側に引き倒そうとしながら右手のククリで首を切った。

 物音でこちらに気付いたゴブリンへ近づき、振り返りざまに上げようとした棍棒を持つ右手の急所、わきを左のククリで攻撃する。痛みに腕が下がり、腕と体の隙間から首が出てきたところを右のククリで切る。

 これで二体目、弱っていた三体目は橘さんの矢が頭に刺さっている。四体目はシールドバッシュにより、倒れたところを盾で殴打されて今しがた殺された。

 棍棒達が終わったことを確認して後ろを向くと、白石さんと米沢さんも戦闘を終えていた。

「よし、一先ずどうにかなったな、回収したら集まってくれ」

 相田さんの言葉で皆、自分の倒した魔物の魔石を回収しに動き出した。

 俺も棍棒二体の魔石を取り、剣盾の魔石を取りに向かうと棍棒の魔石よりも少しだけ大きかった。

 拾い終わり皆が集まっている所に向かうと戦闘の改善点を話し合う。

「最初、俺とナナカは問題なかった。棍棒持ちの四体をひきつけ、他のゴブリンから距離を離した。コウキも棍棒盾を一体ひきつけていた。しかし、銅に問題があった。銅はどうしてあのゴブリンに目を付けられたか、分かるか?」

「どうしてなんですか?」

 心当たりがないわけじゃないが、そこまで絶大な効果を及ぼしているわけではないだろう。

「その防具の名前はなんていうんだ?」

「ラースオーガの革防具です」

「銅、お前のその防具が、この層にいる強い魔物をひきつけるんだ。知ってたか? その防具を使わないようにできないか?」

「え、と……どうしてこれがラースオーガの防具だってわかったんですか?」

「ラースオーガの装備をしている者に強い魔物が向かうこと。それに鈍い金属光沢のような艶がある黒色も特徴でな、合致してたんだ。それでどうなんだ?」

 どう、と言われても。

「これを着るのをやめてくれ、てことですよね?」

「そういうことだ」

「無理です。結構お金もかけたので装備します」

 俺の最高額の買い物ってわけではないが、手放す気にはならない、動きやすいし俺が自分を木刀で殴った感じ痛みを感じなかったから防御性能も高いのではないだろうか。

「確かに性能だけならピカイチなんだがな。いかんせん安全に新しい層に行こうという時には使えない。装備が外せないということは試用期間も終わりだ。今日、十層に向かって帰れば俺達とも関係はない、分かってくれるか?」

 そこまでのことなのか、と言いたいが反論すれば円満に分かれることもできなくなりそうだ。

「はい、今日はお願いします」

 もちろん、今日は、と釘を刺しておくことを忘れない。

「ああ、少し休憩してから十層を目指す。それからは休憩なしで帰るからしっかり休んでおけ」

 そう言って相田さんパーティーは、俺から少し離れたところで休憩を始めた。

 露骨にそういうことをされるが、特にそういう探索者としての必要な知識を学んでこなかった俺が悪い。それ、につながりがなくなった時は、それを修復させようとは思わない。壊れるべくして壊れたのだ。

 俺自身、それが言い訳に聞こえるときもあるが、誰に言われるでもなく俺がしたいから今、探索者をしているんだ。先達の言葉を聞いて行動するべきか否かは俺が決める。たとえこの防具が強い魔物をひきつけるとしてもそれで悔いて死んだとしても、これから一人で行動していく俺の責任で俺が決めたことだ。俺が俺の心に従って。

 休憩中、相田さんパーティーから離れてククリを振っていく。刀よりも近距離で敵を切らねばならないのは、刀に慣れている俺からすれば難しいと思ったのだが、戦闘を重ねていくうちに慣れていったようで、違和感が少なくなっている。

 元々はっきりと違和感があったわけではないが、それもどんどん少なくなっていった。

 今のところ、敵を切ることに苦労はしていない、魔物が弱いからだろう。

 例えば、俺をさっさと除けたいパーティーがいるとして、そいつらは俺を魔物がいるところに放置して逃げた場合、俺はそいつらを切れるだろうか。

 魔物を倒して切ればいいが、魔物は、中級者が、逃げるほど強いとすれば切ることはできない。それにそもそも俺は人に裏切られることはない、そこまで深くは関わらないからだ。

 しかし、裏切られたとき俺は切ることを厭わない、と思う。

 例えば俺の前に盾を持ったデカい男が現れたとする。どう戦う。

 シールドバッシュができるし、盾を持っていない状況でも戦えそうなのを知っている。

「銅、休憩は終わりだ。十層行くぞ」

 そう言って俺は後ろから声をかけられた。

 裏切られることはないと言ったが、俺が勝手に期待して勝手に裏切られたと思うことは多々ある。今もそうだった。

 このパーティーに期待して、優しい先達に率いられて、これから関係を深めていくような想像をしていた。俺が折れて防具を変えればいいのだが、俺はやりたいようにやれる範囲でやる。死なないようにやれることをやる。だから、ギリギリまで妥協はしない。

「はい」

 今日や先日、学んだことを活かしながら探索者を始める。再スタートだ。

 十層に行くまでの間に彼らから学べることは学ぶ。

 五分以上の休憩は層の間で行う。

 一人先行してもらい万全の状態で戦いに臨む。

 現状はトラップを警戒していないが、他のダンジョンへ挑むようになるとそれの対処もあるのだろう。

 知識量はどうにもならないから地道に増やしていくしかない。

 それにダンジョン内での戦闘で学ぶことは少ない、それぞれが役割をこなしているから声を掛け合うくらいしか戦闘以外でしていることがない。

 他にも何かあるはずだと、探していたが十層への下り坂に着いても何もなかった。

 これまた先ほどと同じく休憩は皆と離れて行う。露骨が過ぎる。

 俺は別に相田さんらパーティーを襲う可能性のある人じゃない。

 そう言いたいところだが、聞く耳もたないだろう。

 俺は背嚢から飲み物を取り出したとき気が付いた。

「すみません、トイレってどうしてますか?」

 最初は深い階層に向かわないから特に気にしていなかったが、トイレはどうしているのか。

「どこかの層に入ってからするか、下り坂途中の横穴に入って小部屋でするかだな。基本的には見られる可能性があるから何か隠すものを持って行くのがマナーだ」

「ありがとうございます」

 露骨に離れているからもっと邪険に扱われているのかと思っていたが、教えてくれるようだ。

 少し心が軽くなった気はする。

「よし、十層覗いて止まらずに帰るからな。行くぞ」

 相田さんの言葉に各々返事をしながら十層に出た。

 米沢さんが先行したのを確認して並んで探索を開始した。

 二つほど角を曲がり大きな広間が見える。米沢さんが広間に入る前で止まっている。

「オーガがいます。表層魔物とのパーティーです」

「うさぎと狼、オーガか」

 米沢さんから報告を聞いた相田さんが内訳を確認した。うさぎと狼が共に互いを意識することなくいるのはダンジョン特有じゃないか。

「数が少ないのは助かる。が、表中層魔物の中で一番強いオーガを相手するなら今日は帰るぞ」

 相田さんが先頭で広間を見ながらそう言った。

 そしてその後ろで白石さんが腰を曲げて何かを拾っているのを俺が目撃したとき、相田さんが一歩後ろに下がった。

 その一歩は相田さんの背負う盾と白石さんが背負う大剣を接触させた。

 金属特有の低く響くような音が、広間にまで届いたのが納得できる音量だった。

 オーガがこちらを捉えて無言で走ってくる。その後ろにはうさぎと狼が見える、二匹は並走している。

「まずい! 広間に出るぞ。俺がオーガをひきつける! ナナカはオーガ、三人は他を!」

 そう言って相田さんは広間に出てオーガをひきつけようとシールドタックルを行う。

 しかし、オーガは意に介さずこちらを、俺を見ている。

 俺は広間に向かって走った。相田さんの後ろに回り、狙いを俺から相田さんに移行させられるか試したが無理だった。

「銅! 言っただろう、その防具は強い魔物をひきつけるって!」

 相田さんが攻撃を受けている間に白石さんと米沢さんがうさぎと狼の相手をし始めた。

 俺は相田さんの後ろから、さらに数歩後ろに下がった。

 オーガは身長いくらあるか分からないが、大体三メートルくらいだろうか。

 そこそこ動きも早い、時折両手の叩きつけの後に頭突きをしてきて、その後、頭に生えた一本の角で突き上げをしてくる。体は筋肉質で肌の色が青黒い、肌の色により目の赤さが際立って見える。

 俺が少し後ろに下がったとき、橘さんが俺の背中に鏃を当ててその場にとどめる。

「どこ行くつもり?」

 一番コミュ力高い女性が一番恐ろしかったとは。

「オーガを倒すつもりですよ。相田さん、肩借りますから踏ん張ってください」

 そう言って鏃を気にせず、さらに後ろに下がっていく。

 後ろに下がり始めると同時に鏃が引かれ、オーガは頭突きを繰り出した。

 体の中の血を循環させるイメージ、それを加速させるイメージ、心拍数が上昇するイメージをして俺は走り出した。

 オーガの後ろではうさぎと狼をほぼ同時に倒している米沢さんと白石さんが見える。

「相田さん!」

 俺は恐らく、そう呼べたはずだ。すこし間延びして聞こえづらかった。

 俺の声が聞こえたのか相田さんは盾を地面に垂直に置き、その場で攻撃を耐える姿勢をとった。

 走っている途中でオーガが角による攻撃をしたのを見ながら、それを耐える相田さんの肩を借りて一気にオーガに距離を詰めた。

 伸びきった体、次の攻撃のために上へ伸ばしている途中の両腕、狙うはうっすらと脈打っているのがよく見える頸動脈。

 体の構造が人間と同じなのか、感覚的にそこを攻撃すれば殺せるのが分かる。

 角の部分が魔力を内包しているのも分かる、これが俺の技能なのだろうか。いや、薄っすら光っているから皆分かるか。

 左腿に納めているククリを右手で抜き、オーガの首に斬りこむ。

 腕に抵抗を感じながら、ゆっくり間延びした世界で首を、その一部を斬っていく。

 俺の下半身がオーガの上半身に当たり勢いが止まるのと、俺がオーガの頸動脈を斬るのは、ほぼ同時だった。

 ぶつかりながらオーガの肩で前転して着地しながら、オーガの下から急いで離れる。

 するとオーガは怒りの形相でこちらに振り返った。しかし、その後、首を両手で押さえながら倒れた。

 その後、砂のように崩れるまでその場の皆は動かなかった。

 俺はオーガが倒れた後、傍で魔石にならないか待っていたが、皆動いていなかった。狼とうさぎはすでに崩れている。

 オーガが崩れた後に残ったのは割と大きな魔石だった。ドロップアイテムがなかったため拍子抜けした。

 恐らく今日ぐらいしか少し強い魔物に挑戦する機会はなかっただろうから、ちょうどいいと思って挑戦したのに。

 相田さんパーティーがいなくなったら、十層まではいけないだろうな。行けて七層、いや六層で安全に戦闘をこなすくらいだろう。

「おし、皆回収したか、帰るぞ」

 今日はその後、魔物に出会うことなく帰ることができた。同業者に一回だけ出会ったのはダンジョンに入る前の他の人との接触だけだった。先行していたパーティーは疲れ知らずだ。

 帰ってきて、シャワーをして着替え、換金を済ませた俺は相田さんパーティーよりも一足先に駐車場へ出ていた。

 自動ドアから相田さんパーティーが、出てこようとしているのが見える。

 何か話し合いをしているのか、こちらを見ていない。

 しかし、そんなの俺は気にしない。そう思えば気にならない。

 彼らが近づいてくれば、することは決めてある。アドリブは苦手だから。

「相田さん、橘さん、米沢さん、白石さん、ダンジョンを共に探索させていただきありがとうございました。私はこれからも探索者を続けていくつもりですので、外で会ったときは挨拶させてください。今までありがとうございました」

 そう言って俺は、彼らの顔を一通り見てから車に向かった。

 特に呼び止められることもなく車に到着して後席に荷物を積み、車を走らせた。

 車を家に走らせている途中、これからどうしようかと考える。

 方針がないと行動を起こせないから初心に立ち返り、道を決める。

 俺は結局、ふんわりとした考えで、デカい男になりたい欲があった。

 今の時代というか今までのデカい男がダンジョンに挑み戦果を挙げてきたから、そうなりたいと望んだ。

 そうしてダンジョンに挑んでみて、いろいろと面倒なこともあるが戦闘にどことなく適性を感じるし、白石さんの言っていた技能のおかげか体の動かし方が日に日に良くなっているような気もする。

 デカい男になりたいのなら、俺はより等級の高いダンジョンへ挑むことになるだろうが、俺だけの力で無理なのは分かり切っている。パーティーが必要だ。しかも、俺の作るパーティーである必要がある。

 しかし、最大の問題はリーダー向きではないという事と初対面の人と話すのが苦手という事。これらを踏まえたうえでパーティー作りをしていって、いずれはというとこだろうか。

「現実見えてない人みたいな目標設定だぁ」

 それらを先延ばしにして、メリットがある事と言えば、俺が一人でダンジョンに挑み続ける事。

 今であればE級ダンジョンを攻略する。これが一先ずの目標。

 できるか、している人がいるのか、全く調べる気もないがこの目標を達成する過程で仲間を得ることもできるかもしれない。

「まあ、一先ずはゆっくりして仕事に備えよう」

 その日は寝た時間がいつもよりも二時間も早かった。探索もそうだろうが人に拒絶されたのも辛かったのだろう。それでも大丈夫だ、俺は寝れば忘れる。ストレスはそういうものだと思っている。


 ✚


 昨日、私は銅さんと出かけた。

 私の両親の友人である鍛冶屋に。

 鍛冶屋ではククリナイフを買うと思いきや、刀を注文してククリナイフをタダでもらっていた。

 お金をしっかり使うんだと思っていれば、車は古い車で乗り心地はいいとはいえなかった。フワフワしてよく跳ねる車だった。そこもお金を使えばいいのに。

 明けて翌日の今日、私とナナカがダンジョン前に行くと銅さんは来ていた。

 その後すぐにタクトとコウキが出てきた。

 タクトは一瞬沈んだような顔をしてからすぐに明るい声を出して、ククリナイフの事を聞いている。その流れで先行するのが銅さんになったが、先に入っている人がいるようで接敵はほぼなかった。

 銅さんは二度の戦闘をこなしてククリナイフを試していた。使い心地は見る限り悪くなさそうだった。

 私はその後も特に戦闘をすることなく七層前で休憩をとった。

 休憩中は魔物と相対したときに気を付けていることを聞いたりして、銅さんは普通の人よりも戦闘に適性があるということが分かった。

 休憩後、再度探索を始めて、七層で一度も魔物と出会わないという状況になった。

 奇妙だったが、八層ではすぐに魔物と出会った。

 うさぎ、犬、ゴブリンと狼の組み合わせだった。この前言われた動きが重いとかそういうのを改善するいい状況だと思い、練習台として任せられたゴブリンを使った。

 走って一気に距離を詰めて大剣を叩きつけたが、こういう事じゃないとわざと逸らした。

 それから自分なりに軽い動きをしようとしたのだが、うまくいかず耳に入ってきていた戦闘音が消え、私以外戦闘している人がいなくなったから、諦めて叩き切った。

 戦闘後に状況の確認と改善点の洗い出しをすると、案の定、問題は私だった。

 銅さんにはいつも通りの事をして、練習してから試してくれと遠回しに言われた。

 私はそれからいつも通りの動きをするように言われ、問題なく話し合いは終わった。

 その後、魔物と出会わずに九層前の下り坂まで着いた。

 私達は銅さんが休憩に入るのを見て軽く話し合いをした。

「まだ先行しているパーティーが見当たらないんだけど、どうしてだと思う?」

 ナナカの疑問に答えられる人はいない。

「分からんがまだ先にいると考えよう。それと今日は十層までにしよう。少し気になることもあるからな」

 銅さんが近づいてきたのをタクトはいち早く察して声をかける。

「銅、今日は十層で終わりにしたいと思ってるんだが問題ないか?」

「はい」

 タクトはそう言って背負っていた盾を降ろして休憩に入った。

 それから五分後、休憩を終えて再度探索を開始した。

 並んで歩きながら私は先行しているパーティーが、いるのか不思議に思った。

 いればもう会っていてもおかしくないのは、そもそもこの地域に中級探索者がいないというのがある。初心者がここに来て上手く探索していても、九層ともなれば魔物のパーティーと出会うし、表中層魔物に手こずって奥に向かおうとは思わないはずだ。

 まあ、初心者らしくない初心者も私の後ろで歩いているけど。

 それから少しして前の方でコウキが止まった。

 曲がり角の先を窺っているのか、少し見ては顔を引っ込めている。

「ゴブリンの集団です。数は八体、棍棒四体、棍棒と盾三体、ショートソードと盾一体です」

 近づくとコウキはそう言った。

 ここはゴブリンの集団が出てくる層ではない。表中層魔物は十三層からだ。

 タクトは少し唸った後。

「俺は戦闘してもいいと思っているが、皆はどうだ?」

 恐らく私たちは笑っていただろう。

 別に難しい相手ではない。武装がしっかりしているゴブリンが見つかっただけだ。

 防具もない、振り方が分かっていない相手なら集団でも勝てる。

 銅さんはタクトに聞かれて少し考えているようだったが、コウキがいた場所まで行き、ゴブリン達を見てから帰ってきた。

「いけます」

 銅さんがそう言ってすぐにタクトは作戦を伝えた。

 私は剣盾と棍棒盾を相手する。おそらくは誰よりも戦闘の終了が遅いだろうから、援護に行くことはないだろう。

 作戦を伝え終わった後、突入する前に軽く運動をして、タクトは技能の事を銅さんに教えだした。

 コウキが実演して銅さんはとても驚いてうれしそうな様子だったが、私から自分の技能の内容を聞いて肩を落として静かになった。

 欲しかった技能でもあったのだろうか。

 そして、タクトが叫びながら突撃をしていった。

 その後にコウキ、銅さん、私、ナナカの順でゴブリンのいる場所に出ていく。

 タクトは狙い通り、棍棒ゴブリンをひきつけることに成功した。コウキは攻撃を棍棒盾ゴブリンに仕掛けようと距離を詰めている。

 銅さんがコウキの後ろからゴブリン達に姿をさらした瞬間、剣盾ゴブリンが声を上げた。

 棍棒盾ゴブリンの前に出てきた剣盾ゴブリンは、そのまま銅さんに向かっている。

 両者とも走っているためすぐに距離は詰まった。銅さんは途中で速度を落とそうとしたけど、無駄だったようだ。

 そのまま剣盾ゴブリンと戦闘になると判断して、私が棍棒盾ゴブリン二体を相手することに決めた。

 私がやることは分かりやすい、右足を一歩踏み出して右肩に担いでいた大剣を横に薙ぐ。それだけで二体に同時攻撃できる。

 そして二体のうち、一体は盾が間に合わず息絶えた。

 振り切った状態から一度ゴブリンと距離を取り、大剣を構える時間を稼ぐ。そしてその頃には息絶えた方から剣の落ちる音が聞こえてきた。

 棍棒盾ゴブリンは動揺を振り払うかのように盾と棍棒を打ち鳴らしている。こういう状態になったゴブリンは捨て身で来るから少し面倒。

 大剣のリーチを活かして突きを何度もしてミスを誘い、安全にゴブリンを倒すのが怪我を負わない。

 そうして何度か突きをしていると、じれったくなったゴブリンが盾に身を隠しながら突撃してくる。表中層魔物の中でも武装しているだけのゴブリンは弱い。そして木の盾に木の棍棒は素手よりも少しマシというくらいだ。

 私は突くためにゴブリンへ向けていた大剣を担ぎ、盾に向かって振り下ろす。二体に向かって薙いだ時よりも力が籠めやすい振り下ろしは盾ごとゴブリンを叩き切った。

 私の戦闘が終わり周囲を見てみると似たようなタイミングで皆も終わったようだった。

「よし、一先ずどうにかなったな、回収したら集まってくれ」

 タクトがそう少し低い声で言った。

 私が回収を終えて向かうと、銅さんを皆が待っている状況だった。

 銅さんが来るとタクトは話始める。

「最初、俺とナナカは問題なかった。棍棒持ちの四体をひきつけ、他のゴブリンから距離を稼いだ。コウキも棍棒盾を一体ひきつけていた。しかし、銅に問題があった。銅はどうしてあのゴブリンに目を付けられたか、分かるか?」

「どうしてなんですか?」

「その防具の名前はなんていうんだ?」

「ラースオーガの革防具です」

 この発言に私も含め、パーティーは一歩下がりたくなる。

「銅、お前のその防具が、この層にいる強い魔物をひきつけるんだ。知ってたか? その防具を使わないようにできないか?」

 この防具を着ている人は基本的に自分を強いと信じたい人か、何も考えていない人だ。銅さんは何も考えていないみたいだ。

「え、と……どうしてこれがラースオーガの防具だってわかったんですか?」

「ラースオーガの装備をしている者に強い魔物が向かうこと。それに鈍い金属光沢のような艶がある黒色も特徴でな、合致してたんだ。それでどうなんだ?」

「これを着るのをやめてくれってことですよね?」

「そういうことだ」

「無理です。結構お金もかけたので装備します」

 どの防具で人が一番死んだかと言われれば最下級の革防具だろう。魔物相手にダンジョン産以外の防具を使う人は少数だが、ダンジョン産の最下級革防具を着る者は大勢いる。

「確かに性能だけならピカイチなんだがな。いかんせん安全に新しい層に行こうという時には使えない。装備が外せないということは試用期間も終わりだ。今日、十層に向かって帰れば試用期間は終了、分かってくれるか?」

「はい、今日はお願いします」

「ああ、少し休憩してから十層を目指す、それからは休憩なしで帰るからしっかり休んでおけ」

 タクトはそう言って銅さんから離れた場所で休憩をとり始めたため、私たちもそれに続いた。

 私はバッグから水筒を取り出して喉を潤していると離れていた、銅さんがさらに離れ始めた。

 少し離れたところでククリナイフを取り出して振り始めた。

 右手で袈裟に振ったかと思えば、左手を使い袈裟の軌道をなぞるような袈裟よりも速い切り上げを行う。朝、振っていた時よりも確実に上手く扱っている。時には徒手も入れて見えない人型の相手と戦っているみたいだった。

「銅、休憩は終わりだ、十層行くぞ」

「はい」

 銅さんは試用期間が終わった現状に困ったような感じがない。私だったら入るつもりのあったパーティーから抜けてくれって言われたら悩む。

「すみません、トイレってどうしてますか?」

「どこかの層に入ってからするか、下り坂途中の横穴に入って小部屋でするかだな。基本的には見られる可能性があるから何か隠すものを持って行くのがマナーだ」

「ありがとうございます」

「よし、十層覗いて止まらずに帰るからな。行くぞ」

 タクトがそう声をかけて十層の探索が始まった。

 そして始まってすぐにオーガを発見した。オーガは広間にいてうさぎと狼とパーティーだった。

 コウキから話を聞くためにタクトは私の前に移動している。私の両隣に銅さんとナナカがいる。

「数が少ないのは助かる。が、表中層魔物の中で一番強いオーガを相手するなら今日は帰るぞ」

 その言葉を聞いた時、私は地面に落ちている魔石のようなものを手に取っている所だった。

 私が手に取った魔石のようなものは結局何か分からなかった。そして疑問を横に置き体を起こそうとした時、私の背負った大剣の柄頭が何かにあたった。

 まずい、と思い前を向くと、広間にいたオーガと狼、うさぎがこちらに向かってきている。

「まずい! 広間に出るぞ。俺がオーガをひきつける! ナナカはオーガ、三人は他を!」

 私はすぐに広間へ出たタクトから離れて狼に攻撃を行い、手傷を負わせた。

 うさぎを探しているとコウキがオーガから離れて、うさぎをひきつけていた。

 オーガはタクトの盾に拒まれているが、タクトの後ろにいる銅さんを狙っているように見える。

 銅さんの後ろにはナナカがいた。そのタイミングで狼が攻撃をしてきた。

「相田さん!」

 攻撃を避けてカウンターを狼に入れて殺した時、銅さんの声が聞こえてきた。

 オーガの方を向くと銅さんが中級者と同等かそれ以上の存在感を見せた。魔力による強化だろう。タクトも時折似たようなことをする。

 タクトの体をジャンプ台代わりにオーガへ向かって飛んだ銅さんは、オーガの肩付近で一瞬止まり、前転して着地した。そのまま少し離れてオーガを見ている。

 オーガは銅さんを振り返ったが、その後すぐに首を抑えながら倒れた。

 オーガを殺したのだ、初心者が。

 その後、私たちはオーガが砂のように崩れるまで動けなかった。

 私達がオーガと戦闘した時が少し前とはいえ、今と大きな実力の差があるとは思っていない。私達が銅さんのいない状況でオーガに出会えば、戦闘にもっと時間がかかるだろう。一本角とはいえ。

 タクトに耐えてもらいながら三人で攻撃しても、地道に足への攻撃するだろう。前もそうだった。

 足を攻撃して膝を付かせ、首など急所に攻撃を入れる。

 私達では銅さんのように最初から首に攻撃を入れて確実に殺し切れるとは思えない。

 跳んで切りつけたが最後、空中で撃ち落とされるかもしれない。気を捉え損ねて空中で捕まるかもしれない。

 それに銅さんのように魔力を使って意識的に行動を素早く行うことができない。上級者は魔法使って素早く力強く動くそうだ。銅さんのはそれではないだろう。私の技能でも特に確認できていない。

「おし、皆回収したか、帰るぞ」

 それからダンジョンを出てようやく、同業者と出会った。先行したパーティーはいないのだろう。

 シャワーと着替えを済ますと換金に向かったが、私がパーティーでは一番乗りだったのか他の人はいなかった。しかし、銅さんは換金を終えて出入り口に向かっている所だった。

 私が換金を始めるとパーティーメンバーが出てきだした。

 私の後にナナカ、コウキ、タクトだった。珍しく男が遅かった。

 皆の換金を待ちながら、パーティーで話が止まらない。

「タクトはいいの? 銅さんが逸材って分かったけど」

「そもそも逸材ってのは分かってたよ、黒川道場で師範が一対一で教えてるんだ。そうじゃない方がおかしい。ただ師範が気に入るだけあって、クセはあるみたいだがな」

「俺もまさかあそこまでとは思わなかったですよ。俺達も武術的なものをしっかり習った方がいいかもしれませんね」

 コウキが換金を済ませてそう言った。確かにそれですべてが上手くいくとは思えないが、変わるのは銅さんを見ていれば分かる。

「しかし、それをするなら件のオーガを倒した後の話になる。その頃にはまた誰かを勧誘するさ」

 タクトが出入り口に歩きながら話し出す。

 その頃になるとパーティーは解散しているかもしれない。

 自動ドアを通りながら、さらに話は続いていく。

「今回の十層での表中層魔物のパーティーは換金所で報告しておいた。件のオーガの所為で層の移動を魔物がしているのかもしれないから、探索制限が出るかもな。俺達はせっつかれるかもしれないが安全第一で行く」

「確かに十四層までは探索しきってるから、安全第一でいいかもね。それに—」

「相田さん、橘さん、米沢さん、白石さん、ダンジョンを共に探索させていただきありがとうございました。私はこれからも探索者を続けていくつもりですので、外で会ったときは挨拶させてください。今までありがとうございました」

 私達の前に銅さんがいて、言いたいことを言いきったのか、顔を一通り見てから帰っていった。

 互いに顔を見合わせた。気まずい雰囲気でも出してしまっていたのか、逃げるように銅さんは帰っていった。

 確かに銅さんがラースオーガの装備を付けているのも問題だが、ダンジョン内で着ているのが問題なのであってそれ以外は問題ない。お別れ会的なものを私としてはしたかったし、武術的なことも聞いてみたかったから、挨拶だけで帰られると悪いことをした気になってしまう。

「タクト、言いすぎてた?」

「さあ?」

「これから探索者続けるらしいから、言われたように挨拶して世間話でもできれば、今の気まずい関係も解決するだろ」

 タクトはコミュニケーションが得意なため、こういうところは楽観視している。

「それじゃ、今日はここで解散、ナナカお疲れ」

「お疲れ」

「ナナカ、バイバイ」

「皆、お疲れ」

 そう言ってナナカは一人車に向かって行った。

「それじゃ、俺達も帰るぞ」

 タクトの後について車に向かい、帰路につく。

「タクト」

「どうした、シオン?」

「さっき言ってた道場って、身体強化みたいなものも教えてもらえる?」

 タクトは銅さんと同じ道場の出って聞いたから知ってるかもしれない。

「さあな?」

「魔力を使っているのは分かったけど、それ以外は俺、分からなかったぞ」

 コウキも銅さんの動きを見ていたようで魔力が使われていたのを知っていた。

「武術で魔力は気と解釈するものもある、体の使い方でそう見えるものもあるんだが、あれは魔力だ。オーガの前のゴブリンでもあっただろう、あんな感じで素早く動いていたのが」

 タクトも知らないみたいだ。

「予定通り明日は休みで明後日と明々後日で十四層までのタイムアタックを行う。目的のオーガを倒す為、早い内に十四層まで行けることが望ましいからな」

 今日会ったオーガよりも、探索者を殺しているのが私達のパーティーが倒すことを望まれている武装オーガだ。表中層魔物と中層魔物の違いは武装が質のいいものか、それを扱う理解力があるかだ。理解力があると、ただ武装をしているだけの状態よりも殺しが上手くなっている。

「十五層へは何度かに分けて到達したいが、十五層を移動しているタイプらしいから十五層に行くときはオーガを倒すときだ。来週の日曜日を予定している」

 今回いるオーガは何の武装をしているかは情報になかった。でも武装をしているだけで私達が倒したことのあるオーガよりも厄介だ。

 先行きが不安だ。

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