第6話 出会い

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 相田さんのパーティーへ誘われ、試しに入ってみることになった。

 予定を合わせようと自己紹介の後、話し始めると最初から食い違いが生じた。

「俺は職業探索者だからいつでも予定は合わせられるけど、銅君は兼業なんだってね。いつだったら予定合わせられるか教えてくれ」

「平日は仕事なので、明日から金曜日まで仕事です」

「ん? 明日は祝日だよ」

「え? それなら明日は大丈夫です」

 仕事をしていると週末以外は休みの感覚がない為、こういうフェイントに引っかかる。

「明日? 昨日、ダンジョンに入ったんだろう?」

「はい、明日は予定入ってましたか?」

「いや、俺は最初ダンジョンに入ってから次入るまで結構長くてね」

 そう言いながら体を動かしている相田さんは精神が参ってしまったのだろう。確かに、手に伝わってくる感触が慣れないのは分かる。

「予定の事なんですけど、集合場所はどこですか? というよりもどこのダンジョンに今、入っているんですか?」

「今はここのE級へ入りに来てるんだ」

 他所から入りに来てるんだろうか。わざわざ、ここのってつけるくらいだ。

「E級の駐車場で待ち合わせですか?」

「そうしようか。俺の他にも三人いるから楽しみにしてくれ。何時だと都合がいい?」

「九時くらいがいいんですけど、いつも何時くらいに行くんですか?」

「うちはいつも十時くらいなんだけどそれでもいいかな?」

「はい、お願いします」

 それから相田さんは帰り、師範とダンジョンでの戦闘、呼吸法の確認をしてその日は帰った。

 そして今、駐車して日差し厳しい車内で冷房をかけて待っている。

 現在時刻は九時三十分すぎ、賑わっていたが祝日の朝ということもあるのか車が少なく早く着いた。F級ダンジョンよりも遠いのだが緊張からか時間が過ぎるのを早く感じたのだろう。

 持ち物の確認も朝のうちに終わらせていて、一昨日し忘れていた防具の整備も行っている。

 どんな人たちなのか、師範が時々話すくらいだから信用できると思う。

 それにパーティーで動くことを知れるなんて、ないと思ってただけにいい経験ができると楽しみだ。

 今、駐車している場所はダンジョン囲む建物の入り口から少しだけ離れた場所で、受付に向かう人達が見える。色々な武具があって俺の筋力じゃ持てないものを持っている人が複数いた。

 今も、持っている人の体を隠すほど大きい盾を持つ人と布で巻いている明らかに大きい剣を持つ女の子が遠くにいた。

 段々と入り口に近くなってきて、顔が見えてくると覚えのある顔だった。

「相田さんってあのパーティーにいたのか、あの女の子、あんな武器使うのか」

 しばらくボーっとしていたが気を取り直して荷物を持って車を降りる。

 一時的とはいえパーティーに参加させてもらえるんだ、初顔合わせ緊張する。


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 昨日、タクトからみんなに連絡があると呼び出しを受けた。

 最初に話し出したのは明日、ダンジョンに入るということだった。

「明日、予定になかったがダンジョンの探索をすることになった。場所は変わらず隣のE級だ。無理って人は?」

 そう尋ねるタクトにコウキが質問する。

「はい、なんで明日探索? 明後日からって予定だったけど」

「そこからがみんなを呼び出した理由みたいなものだ」

 タクトはいたずら気な笑みを浮かべて楽しそうにしている。

「あんまりこういうことを言うべきじゃないかもしれないが言うぞ。俺たちはそろそろ解散が近づいているよな」

 その言葉に集められた私達は首を縦に振った。言うべきじゃない言葉でもなかった。

「そこでだ、俺は次のパーティーのメンバーを募集していて一人見つけたんだ。パーティーでの探索をしたことがないみたいなでな」

「それで?」

 ナナカが先を促す。

「だからうちのパーティーで試すわけだ。わかったか?」

「質問。その人はどのくらいの強さがあるの?」

「さあな。隣のF級ダンジョンをソロで踏破したくらいしか知らんが、俺の武術の先生が紹介してたから最低限はできるだろう」

「私たちにはオーガの討伐があるわけだけどどうするの?」

 ナナカの言うことももっともだ。

 来る人の強さがどの程度のものか分からなくて判断が付かないから、来たときは私の鑑定で見てみよう。

「ついてこれるところまで一緒に探索すればいい、お試しだからそんなものだろう」

 その日の話は特に誰もが否定せずに終わった。

 これからの事をタクトは考えて新人を試しに入れるのだろう。

 私はこれからどうすべきか。

 ダンジョンに入って探索したいし、自分はもっと強くなりたいとも思う。

 ナナカやコウキのようになりたい職業があるわけでもないし、タクトのように人脈もあるわけではない。

 そもそも私は武術を学んでいないから、これから学んでみるのもいいかもしれない。

 でも、それはダンジョン探索の合間だ。

 ダンジョン探索のために新しいパーティーをつくらなければならないが、必要な人材はあふれているわけではない。

 ここはそもそも田舎でダンジョンも少なく、探索者も少ない。

 都市圏に行けば多くの探索者と巨大なダンジョンがある。そこならば人も探せるだろう。

 そもそも私が作る側ではなく、入る側の方を探すのが簡単なのではないか。

 それからも考えが特にまとまることはなく、明日の準備だけしてその日は寝た。

 そして翌日、E級ダンジョンの駐車場で集合とのことで、いつも通りにタクトの車でダンジョンに到着した。

 ナナカも時間を合わせてきていたのか車から降りると近づいてきた。

「おはよう。そう言えばタクト、新人ってどんな人なのか聞いてなかったんだけど?」

「そうだったか。男だ、奇抜ってわけじゃないが見ればわかる」

 答えになっていないタクトの言葉に頭を捻りながらダンジョン受付に向かっていく。

 ダンジョンまでの車内で聞いた話によると駐車場で待ち合わせらしいが、日差しの所為で暑いため、ダンジョン受付の前で待つことにした。

 受付前を素通りしてこちらに向かってくる男がいる、髪を頭の上部で結っている男だ。

「おはようございます、相田さん。早いですね」

「おはよう、銅君も早いな。みんな紹介するぞ、今日一緒に探索する銅蒼君だ」

「銅蒼です、よろしくお願いします」

 新人だったようだ。

「お願いします」

「お願いします、こちらこそ」

「よろしく」

 私は軽い返事をしながら当初の予定であった鑑定を行う。

 鑑定とは私がダンジョンで初めて魔物を倒したとき得た技能だ。

 誰もが初めて魔物を倒すと技能を得るらしいが、知らない人も多い。

 なぜなら使えることを自覚できる技能と勝手に使っている技能があるからだ。

 鑑定を得た私は使えることを無意識に理解できたが、彼は、銅蒼は勝手に使われているタイプだ。

 彼の魔力の馴染み具合は白色で技能は『人体理解』だそうだ。

 目に飛び込んでくる色と頭に勝手に浮かぶ鑑定対象の技能、技能の詳細は分からないが意識的か無意識的かは分かる。技能の名前から大体判断はつく。

「本格的な自己紹介はあとでしよう。まずは着替えてダンジョン前で集合だ」

 タクトの言葉に促され、私達は受付に向かった。

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