第3話 秘密を知られて……

 ある日のこと。マギサは買い出しに出かけており、ウィルは留守番をしていた。

 ただいるだけではもったいないと思った彼は、家の中の掃除をすることにした。


(よし!!頑張ろう!!)


 彼は気合を入れると、床を雑巾ぞうきんで拭きはじめた。



 しばらく無言で作業をしていると、ふとマギサの部屋が気になりだした。


(そういえば、マギサさんは『部屋には入らないで欲しい』って言っていたけど……。掃除はしているのかな……?)


 そんなことを考えているうちに、好奇心に負けてしまった。



 ウィルは恐るおそるドアを開ける。そして、ゆっくりと部屋を見渡してみた。


(うわあ……。なんだか凄いな……。これ全部魔法陣?なのかな?よく分からない文字が書いてある……)


 部屋のあちこちに、魔法陣が書かれた紙が落ちていた。その数は数えきれないほどだった。


 目の前のものに圧倒されていたウィルは、玄関からマギサが入ってくる音に気がつかなかった。


 ──その時だった。


 ガチャっと音が聞こえて、後ろを振り向くと、そこには買い物袋を持ったマギサが立っていた。


「見た、の……?」


 彼女は、持っていた買い物袋を落とし、震え声で尋ねた。

 ウィルは慌てて答える。


「すまない!悪気はなかったんだ……。掃除をしようとしただけで……」


 ウィルの返事を聞いてもなお、マギサは落ち着かない様子でいた。



(嫌、嫌だ……!この人に嫌われたくないわ……。でも……)


 "見られた"という事実に、マギサは絶望するしかなかった。

 彼女は顔を青ざめさせ、殺されるだろうという恐怖に腰を抜かしてしまう。


「やだ、やだ……!殺さないで……!!」


 ウィルは、マギサの悲痛な叫びに困惑していた。しかし、なんとか彼女を安心させようと、かがんで目線を合わせて声をかける。


「マギサさん、大丈夫です。僕はあなたを殺したりなんかしませんから」


「………本当に?」


「はい。ほら、僕は何も持っていません」


 ウィルは両手を上げて、何も持っていないことを示す。

 マギサは、彼の言葉を信じることにした。

 彼女は、まだ不安そうな表情を浮かべていたが、少し落ち着いたようだ。



 そこでようやく、二人はお互いの顔を見ることができた。


(『殺さないで』なんて……。何か辛い目にあったのかな……)


 ウィルは心配になった。


「……落ち着いたら、マギサさんの話を聞かせてください。話すのが嫌なら、無理強いはしませんから」


 そう言って、ウィルは優しく微笑む。

 すると、マギサは目に涙をためながら、ぽつぽつと話し始めた。



 魔女は珍しい存在だったため、自分はずっと昔から、魔女であることを隠して生きてきたこと。

 前に住んでいた街に、意地悪な魔女が現れたせいで、魔女狩りが行われたこと。

 街の人たちに自宅に押し入られて、魔方陣を見られてしまい、魔女だとばれて襲われ、逃げて来たこと。

 彼女は、これまでの全てをウィルに打ち明けた。


「そうだったんですね……。辛かったでしょう……」


 ウィルは、マギサの話を聞いて、胸を痛めた。

 自分がマギサの立場だったらと想像したら、胸が苦しくなったのだ。


 ウィルは、マギサの背中をさすってあげると、優しい声色で言う。

 彼女の苦しみが少しでも和らいでくれるようにと願いを込めて。

 ウィルは、マギサのことを抱きしめた。彼女の身体は、とても小さく感じた。



 しばらくして、マギサは泣き止み、ウィルから離れる。

 彼女は恥ずかしさで顔が真っ赤になっていた。

 そして彼女は、ウィルの目を見て言う。


「あの……。ありがとうございます……。あなたのおかげで落ち着きました……。その、ごめんなさい……」


「いえ……。気にしないでください……」


 ウィルも照れくさくなり、目をそらした。

 しばらく沈黙が流れる。



 マギサは、ウィルに自分の過去を話したことで、気持ちが楽になっていることに気づいた。


(不思議ね……。今まで誰にも言えなかったことを、彼には素直に言えた……。どうしてかしら……?)


 マギサは、ウィルに対して不思議な感情を抱いていた。

 それは、これまで経験したことのないものだった。


(私、どうしてしまったのかしら……。彼を見るとドキドキする……。それに、なんだか彼がまぶしく見えるような気がするわ……。まるで太陽みたい……。私、おかしくなったのかもしれないわ……。だって、こんなにも彼を愛おしいと思うなんて……)


 マギサは、ウィルのことが好きになってしまったようだった。

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