第2話 マギサの恩返し

 ある日、マギサが村を歩いていると声をかけられた。


 振り返ると、そこにいたのはラント村の村長だった。彼はニコニコしながら近づいてくる。

 そして、手を差し出して握手を求めてきた。


「ようこそ、ラント村に。この村では、誰もが家族のように暮らしています。どうかゆっくりしていってください」


 マギサが戸惑っていると、さらに言葉を続けた。

 どうやら、この村に住む住人達は、ウィルも言っていたようにみんな親切らしい。


(こんな私にも優しくしてくれる……。なんだか嬉しいわ!!)


 マギサの心の中に温かい気持ちが生まれた。


 それからというもの、マギサはこの村の人達と親しくなっていった。

 毎日が楽しく、充実した日々を送っていた。



 そんなある日のことだった。

 マギサはいつも通り、家事をしていると、ふと窓の外を見た。


(あら……?あの人は確か……)


 そこには、ウィルがいた。ウィルは一人ではなく、誰かと一緒にいるようだ。


(あの人、誰なのかしら……?何か話をしているみたいだけど……)


 マギサは気になって、二人の話を魔法を使って聞くことにした。



《……最近、雨が降らないせいで、湖の水が少なくなっていてね……。このままでは、作物に被害が出てしまう……》


《……それは、困りましたね……。どうしたらいいか……》


 どうやら二人は、干ばつについて話していたようだ。


 この村の水源は山にある湖だけだ。しかし、ここ最近はその水が減り続けているという。


(これは大変だわ……!なんとかしなくっちゃ!!)


 そう思ったマギサは、自分にできることを考える。


(そうだわ!!魔法を使って、雨を降らせましょう!!)


 そう思った彼女は早速行動に移した。

 まず、部屋へ戻って魔法陣を書き始める。大掛かりな魔法を使うには、魔法陣が必要だった。


 マギサは、ウィルに『自分の部屋には入らないで欲しい』と伝えていた。なぜなら、自分の書いた魔法陣を見せないためだ。

 その理由は誤魔化ごまかして伝えたが、それでもウィルは快く了承してくれていたので、安心して作業を進める。



 一時間ほどかけて、ようやく書き終えた。

 完成した魔法陣を眺める。そこには複雑な文字で、びっしりと書かれていた。


 マギサは、魔力を練り上げると、呪文を唱え始めた。すると、空はたちまち曇っていく。

 ポツリポツリと、雫が落ちてくると、やがてザーッと降り出した。


(良かった……。成功したわ)


 マギサはホッと息をつくと、部屋の中へと戻った。


 ウィルは、突然の大雨に驚いていたが、すぐに笑顔になった。彼は家の中へ入り、マギサへ声をかける。


「マギサさん!すごいですよ!急に雨が降るなんて……。運がいいですね!」


「えぇ!本当に!……あっ!ごめんなさい!洗濯物を取り込まなくては!!」


「あぁ!僕も手伝いますよ!二人でやった方が早いですからね」


「ありがとうございます……」


 マギサはウィルの言葉を聞いて、胸が高鳴った。


(こんなに喜んでもらえるなんて……。私って幸せ者ね……)


 彼女は、ウィルの笑顔を見ると、心が温かくなっていくのを感じた。



***

 それからというもの、マギサは村の人たちのために、たくさんの魔法を使っていった。痩せた土地の回復や、害虫退治など、さまざまなことをした。


 彼女の部屋は、魔法陣の書かれた紙でいっぱいになっていく。


 彼女のおかげで、村は豊かになっていった。そのことを知らない村人たちは、神さまが助けてくれたと喜んだ。


 魔女の仕業だとバレたら、村の人たちもおびえるに違いない。だからそれでいいと、マギサは思っていた。

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