第1話

   

 秋晴れの青空が広がる、平和な一日のはずだった。

 近所のショッピングモールで買い物をするのも、私の週末の過ごし方としては、ごく当たり前の出来事だった。


 五階建てのビルであり、例えば婦人服は二階、紳士服や子供用品は三階、本や家電は四階というように、上にはテナントが入っている。一方、一階はモール直営の食品売場になっており、私が利用するのももっぱらそこばかり。

 今日の夕食用の惣菜だけでなく、一週間分の食材なども買い込んで、いざモールから出ようとしたところで……。


「おや?」

 エントランスホールでは、並木道を模して、壁際に樹々が植えられている。その一本の根元に、土とは異なる茶色の塊が落ちており、それが私の目を引いたのだ。

 近寄ってみると、立派な財布だった。手に取れば、ずっしりと重い。

 客の落とし物だろう。落とし主は、さぞや困っているに違いない。

 見て見ぬふりは出来ず、私は踵を返して、サービスカウンターへ。


「これ、落ちていました。入ってすぐのところです」

「ありがとうございます。お手数ですが……」

 係員の女性から、手続き書類を差し出されて……。

「警察を呼んでくれ! 財布をすられたんだ!」

 冒頭の事件に遭遇したのだった。

   

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