第3話 片割れ

学校が無いと、ただでさえ長くて鬱陶しい一日が長く感じる。暇すぎる。

家にいた所で話し相手は居ないのだが、外に出ようにも暑すぎて出る気がおきない。

ひたすらベッドの上でゴロゴロと漫画を読んだ。

アイスが食べたくなったので重い腰を持ち上げてコンビニに向かう。


外は地獄だったがコンビニは天国のように涼しかった。危うく茹でダコになるところだった。

ソーダのアイスを買った。2つに割るような相手も居ないのだが、その分他の奴らの2倍食べられる。まぁ良いだろう。

良く考えたらぼっちに優しくないアイスだな、などと考えながら頬張った。


木陰を選んでゆっくり歩いていると後ろから声を掛けられた。

「あの、豊翔高の方ですか?」

何故僕の高校を?と不審に思いながら振り返ると、彼女が立っていた。

僕の顔を見て少しほっとしたように口元を緩めた。

「以前声を掛けていただいた者です。」

「あ、スミレの……」

「えぇ、そうです」

クスッと笑うとこう言った。

「知り合いに声を掛けた事が無いので、掛けてみようかと」

「ぼ、僕も声を掛けられたのははじめてです」

「そうですか、なら良かったです」

目元を少し綻ばせて静かにそう言った。

2人とも沈黙してしまい気まずい時間が続いた。

沈黙を破ってくれたのは彼女だった。

「暑いですね」

「そうですね……」

また静かな時間が流れる。手元に目を落とすと、さっき割ったアイスの溶けかかった片割れを持っている。

「アイス食べますか?」

「いえ、お気になさらず」

「僕はもう食べたので」

「ありがとうございます」

彼女はアイスの半分を受け取ると、静かに頬張ってくれた。彼女の目は伏せた時が1番美しい。口を開きかけたところで、こんな事言ったらただのナンパだと抑え込んだ。危ない。

彼女が食べているのを眺めているのも気まずかったので、下を向く彼女に言った。

「僕、帰ります。声掛けてくれてありがとうございました。」

アイスを飲み込んで彼女が言う。

「いえ、こちらこそ。アイスありがとうございます。」

ふわっと優しく微笑んだ彼女に少し堅い笑顔を見せ、家に帰った。


それから3日に1回程、コンビニに行っては彼女を見かけるようになった。

会う度に少しだけ世間話をしたが、敬語は抜けないし名前も知らないしでずっと顔見知りという関係が続いた。もどかしくもあったが、彼女と立ち話するのは何も無い腐りきった毎日の唯一の楽しみだった。

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