第16話 不死鳥かよ

 意味など無いと分かっていながら、俺が爆弾に手を伸ばすと。


 ぴい、と心の奥で鳴き声がした。


 俺の腕をロケットの発射台にして滑り抜けて――


 あの名前も無い野鳥が飛翔した。


 見たことも無い速さだった。


 野鳥は、唖然とするユウの手元の爆弾のコードに嘴を引っかけて、その勢いのまま、窓の隙間に突貫する。


 一瞬だったが。


 俺の脳裏に、はっきりと見えた。


 フリスビーをくわえて、どこかに捨てに行く――


 かつての愛犬、シルバの姿。


 何故、今?


 ドアが開いた。


 ラフなシャツの研究員の中年男性が、


「絵里子、お前かい? 弁当なら持ってきているんだが……」


 間の抜けた声で入ってくるのと、ほぼ同時に。


 窓の外で、轟音が響いた。


 真っ赤な爆炎の逆光が、室内を、俺とユウの背を照らす。


 俺もユウも、研究員も、ぽかんとして窓の外を見つめた。


「た……大変だ! 君達、すぐに逃げろ! 爆発事故だ!」


 動転した研究員はユウや俺の正体を詮索する余裕を一切見せずに、応接室の外へと飛び出した。


 人を呼びに行ったのだろう。


 眼前の少女が手製の爆弾を炸裂させた、などとは露知らず。


 壁が焦げた匂いの向こうから、嬉しそうな、甲高いぴいぴいという鳴き声が飛んできた。


 無傷の、あの名も無き野鳥が部屋の中を気ままに飛び回る。


 不死鳥かよ。


「こ、この子が、ど、ど、どうして……?」


 激しく動揺して、立ちくらみを起こすユウを肩で支える。


 その俺の手の平に――

 

 ユウの肩越しの手の平に自慢気に野鳥は乗ってきて、俺の顔を見つめてきた。


 俺は目を見張る。


 幻覚だと、信じたいのだが。


 こんな超展開は嫌なのだが。


 その野鳥の背後に、ゆらゆら陽炎のように揺れながら、しっぽを振るシルバの姿が、またしてもちらついて見えた。


 現世にまた、シルバがやってきた。

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