第11話 普通の友達に
翌日の放課後。
ユウのポテトとコーラは、一口分も減っていない。
いつものファーストフード店の二階席。
ユウはこの世の終わりのような悲壮な表情で、テーブルを見つめていた。
先日の顔の青さがより深くなって、最早藍色だ。
席に着いた俺を見て、ユウが深いため息をつき目尻が下げる。安堵したようだ。
「良かった、幹。来てくれたんだ」
「大事な話があるんだろ」
神妙な顔で、ユウはこくりと頷く。
「昨日、幹の叔父さんが飲んでた、インフルエンザの薬があるよね……あの薬、未来で見たんだ。正確には、あの薬の商品名だけど」
「未来でも、インフルエンザが流行ってるのか?」
「違うよ。未来ではあの薬の商品名は、奇病をもたらした悪魔の名前として知られている」
「あ、悪魔ぁ?」
「うん。昨日帰ってから、カマルとして、未来でもう一度確認してみた。間違いない。向こうの時代では、致死率がとっても高い、新しい病気が長年に渡って人類を苦しめている。治療法は見つかっていない。スズメの能力も追いつかないほどの……」
未だ現れていない、奇病。
「でも、この時代ではまだ生まれてもいないんだろ?」
「その奇病を生んだのは、人間なんだ。昨日、幹の家で見た薬……あれが、後の時代になって、動物から感染したインフルエンザウイルスと反応して変異させたんだと……」
「……俺はウイルスの専門家じゃないぞ」
「とにかく。あの薬が原因で、未来に死の病が生まれるんだ。分かるだろ?」
分かるだろ。
爛々とたぎる目で、ユウは俺を見つめている。
「…………分かんねーよ」
淡々と俺は告げた。怪訝そうにユウは首を傾げる。
「そっか、私の説明じゃ難しいかな? とにかく、あの薬を作ってる会社に説明出来れば」
「あー、悪い。俺、最初から信じてないんだ、お前の話」
「え……?」
「本当にすまん。けどさ、未来とか来世なんて簡単に信じる方がどうかしてるだろ? 暇つぶしだったんだ。お前、見た目可愛いしさ。友達面してると、なんつーか……彼女が出来たみたいに錯覚出来るしさ」
「…………幹?」
冗談めかした笑みを浮かべて、ユウは潤んだ眼差しを向けてくる。
「お前の――」
俺は、ユウから目を逸らして。
断言した。
「お前の妄想には、もう付き合えない。だから、これからは普通の友達ってことじゃ駄目かよ? たまに会って話すとかなら、いくらでも付き合うからさ」
「……………ただの、友達?」
ユウはしばし、愕然としていたが。
突然席を立ったかと思うと、弾けるように走り出して店を出ていった。
これでいい。
俺もあいつも、大人になる前に解放されるべきなのだ。
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