第10話 焦慮

 ユウが帰って、叔父はぐっすり眠ってしまった。


 無理をしていたのかと思ったけれど、俺に女友達がいると知って安心したようだ。


 未来の話はしないでおこう。


 俺は自分の部屋で、デスクトップのPCの電源を入れた。


 すぐにブラウザを開く。


 しばらく前に、俺は一つの画像をいくつかのSNSにアップしておいたのだ。


 ユウが幾度も彫刻刀で刻んできた未来文字を、携帯電話のカメラで撮った画像。


 俺はユウの未来文字を、ネット上で晒したという訳だ。


 最低な行為だと思われるかもしれないが、むしろ逆だ。


 俺は俺で、適当な自分の在り方に嫌気が差してきていた。


 ユウの妄想に法則があるとするなら、ある程度は知っておきたい。


 無いのなら、それでいい。


 今後の付き合い方の指針にしたいだけだ。


 期待していたのは、誰かが出した暗号に他の誰かが答える、という知的なゲームのようなうやりとりだったが、何日か経っても俺がアップした画像にレスはつかなかった。

 

 画像だけでは検索が難しいのだろう。


 諦めかけていたが、俺は別のSNSで自分宛てのレスを見つけた。


 そちらは、都市伝説などを語る手広いオカルト系のクラスタ。


 常駐しているらしいマニアの住人が、書き込んだらしい。


『その文字、お前が考えたものではないな? 高度なエスペラント語にも似た、独自の用法と文法を持った未だ現れていない言語だ。驚くほど理論的に構築されていて、一朝一夕で考えられるものでは無い。どこで見つけた?』


 真面目ぶった、大仰な文章だった。


 一読しただけでは信用出来なかったが、そのマニアは幅広い人脈と知識から一目置かれているらしい。


 それだけで、この書き込みを真に受けるのもバカバカしいが。


 ユウが迷いもせずに、同じ文字を毎回書いていたのは事実だ。

 リズムがあり、文節があり、書き損じがあり――


 一朝一夕や勢いで書けるものでは断じてないと、俺も感じていた。

 

 妄想だけで、そんなことが出来るのか。適当な物でないとしたら……?


 ユウの話を信じたりする訳ではないが。


 未だ、現れていない言語。


 ソースも無いその書き込みの一文に、俺は喩えようの無い焦慮と、恐怖を感じていた。 


 俺はここら辺でユウとの関係に、一区切り付けなくてはいけないようだ。

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