第7話 スズメのノロケ
その後も俺達はファーストフード店で待ち合わせをしては、いくつかのクエストに挑んでいった。
ユウの作戦は毎回過激だった。
未来に情報を『刻む』という意志が強すぎるせいか、国民の血税で作られた公共物の破壊、という行為を伴うことが多いのだ。
ある時は小学校の校庭に忍び込んで初代校長の銅像の背を彫刻刀で削り、未来文字を掘っていた。
すぐバレて修復されるだろう、と思ったが何の騒ぎにもなっていないらしい。
教員も生徒も、もうちょっと初代校長に興味を持ってあげて欲しい。
夜中に血の涙を流されても知らんぞ。
毎度毎度スリリングにも程があるので、俺はもっと安全なクエストを考案しなければならなかった。
フラグは危険なことをすれば立つものでは無い、と分からせなければ。
まず俺はユウに未来の世界の印象を詳細に訊いて、地層がどのように変化していくのかを推察してみた。
素人判断の出鱈目だが、それっぽく考えることは不可能ではない。
RPGでダンジョンのトラップを一つ一つ、慎重に回避していく感覚に近い。
今日は未来に人目に触れることを想定して、海岸に近い高台に向かうことにした。
未来でもこの地形は原型を残しているらしいが、一部が隆起して断層がむき出しになっているのだそうだ。
それを訊いた俺はユウといくつかのタイムカプセルを購入して、岸壁の地面を掘って埋めまくることにした。
「全部が無事に残るとは限らないが、いくつかは発見されるかもしれないだろ? 化石とか弥生時代の貝塚みたいによ」
堅い土や石をほじくって、遺跡を捏造する考古学者のように、俺は情報を埋めていく。
「なるほどー。石像とか石碑とか、物に彫り込むんじゃなくて、地形の変化を計算するんだね。幹はすごいな! 参考になる!」
ユウも感心しながら小さな手で土をほじくり、何とかタイムカプセルを埋める。
彫刻刀よりは、スコップやシャベルの方が怪しまれないし健全だ。死体を隠す訳でも無いし。
何組かのカップルが不審そうに見てきたが、気にしない。俺もタフになった。
「……これが見つかったら、スズメにも自慢出来るかな」
木訥に、ユウは呟いた。
「またスズメちゃんかよ。そんなに可愛いのか?」
「うん。髪が金色でふわっと長くて、目はルビーみたいに大きくて、赤くて。声なんか鳥のさえずりみたいだよ。まるで天使なんだ」
「それはまた、ベタな美少女描写だな……」
中学生時代のユウともまた違う、王道ヒロイン中世ファンタジー編だ。名前からして日本的少女を想像していたが、違ったか。
「スズメは、倒れてたら赤ん坊も動物も病人も放っておけなくてさ、触っただけで怪我も病気も治せてさ……」
「はいはい。何度目だよ、その話」
俺はユウの未来ノロケ話に辟易していた。
曰く、スズメは誰にでも優しい。
スズメはユウ=カマルにしか頼らない。
スズメは何でも治す。
スズメはどんな能力者より大切だ。
スズメは誰よりも可愛い。
「何度でも私は出来るよ、幹。今日もベッドの中で私はスズメに会うからね」
激しく誤解を生みそうな発言を、何の屈託も無く言うユウ。
「お前は未来と、そのスズメって子のことしか頭に無いんだなあ……」
苦笑しながら俺が述べると、ユウは
「当然だよ」
と言ってにっこり笑う。
空想上の恋人もいいが、俺だってここで努力してるんだ。などとは勿論言えない。
妄想に嫉妬するのは馬鹿らしいし、嬉しそうな人間に水を差すのもどうかと思う。
そもそも文句を言うのは筋違いだ。
俺の方は最初から暇つぶし目的で、ユウの話など欠片も信じていなかったのだから。
その時点では。
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