第5話 フラグ立ての日々
そんなこんなで、俺とユウの奇妙な『未来へのフラグ立て』の日々が始まった。
しょうもなく滑稽な一夏の非日常。
さほど重くは考えてはいない。考えてはいけない。
観光客の数が全国最下位、という不名誉な記録を更新するA県(自殺率ならぶっちぎりだ)に生まれれば、危険に飛び込んで娯楽に興じたくもなる。言い訳にもならないが。
ユウと会うのは学校が終わった後、放課後から夜の時間と決めた。
待ち合わせ場所は、例のファーストフード店になることが殆どだ。
放課後デートと言えば聞こえがいいし、まあ周りにもそう見えていることだろう。
ちょっとだけ鼻が高い。
ユウの方は思い立てばいつでも出かけたいようだが、さすがに学校を毎日さぼってまでの暇つぶしはデメリットが大きすぎる。
小さな体に不釣り合いな、Lサイズのコーラをぐびぐびと飲みながら。
「幹は未来への覚悟が足りないんだ」
ユウは頬を膨らませていた。
「目立たず慎重に探さないと、見える物も見落とすぜ。それがフラグ探しってもんだ」
「フラグって何?」
ユウはしつこく訊いてきたが「物語における伏線みたいなものだ」と説明したら納得したようだった。
していいのか。
「ハッピーエンドを目指すなら、地道な伏線の積み重ねが大事なんだよ」
「なるほど。幹は色々と詳しいなー。参考になる!」
取るに足らないデマカセで、頷かれる気分は悪くないけれど。
「でも私達の努力は物語ではなくて、現実のことだよ。そこを忘れないでよ、幹」
奇妙な所で冷静に返してくるのが玉に傷だ。冷める。
実際に、物語――
というかゲームなら、俺は得意分野だ。
エンディングが一本だとして至るルートがたくさんあるのだとしたら、一つ一つのフラグという宝玉を拾うように情報を探して、埋めていけば良い。
現状分析を怠って無茶なクエストに挑み、いきなり大きなイベントをこなそうとするのは無謀だ。
ユウが逮捕でもされればその時点でゲームオーバー、未来の消失。
『フラグ・ロスト』だ。
「私達の現実はゲームでもないよ、幹」
ユウは面白くなさそうにしながらも、納得していた。
毎日のように帰りが遅い甥っ子に対しては、叔父も心配を隠せないようだった。
ずっと引きこもりだったのだから、突然行動的になった俺を不安に思われても仕方ない。
「昔のクラスメイトと会っているんだ」
とだけ説明したが、叔父は俺が悪い友達に誘われて、暴走族にでも入ったのではないかと危惧している。
A県では今も暴走族が各地に偏在し、権力に抵抗活動を続けている。
「何か事件に巻き込まれてる、なんてことは無いのかい?」
会社でもなめて見られる童顔で細面の叔父は、家庭の平穏の維持に固執している。
『実は妄想メンヘラ少女とフラグ探しをしています!』
だなんてさすがに口が裂けても言えない。多くを語らない俺に叔父は、
「とりあえずインフルエンザが流行っているらしいから、うがいと手洗いだけは忘れるなよ?」
小学生にでも諭すように、毎晩注意してきた。
今まで反抗期すら無かった俺だし、本気で心配させるのも親孝行というものだろう。
そういうことにしておいて欲しい。
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