第42話

「これから、卒業式を始めます」


 冴姫さんと絵美里との学校生活が今日で終わると思うと何だか悲しい気持ちもあるけれど、これから先の事を思うと嬉しいと思える。


 だけれど、やっぱりあの場所とか教室で過ごした思い出もあるので今は悲しい気持ちが強い。


 入学当初、まさかこんなことに成るなんて夢にも思っていなかった僕だけれど、ここで過ごして冴姫さんと出会ってからの日々は忘れることは無いだろうなと断言できる。


「卒業生、起立!!」





「は、初めまして。ぼ、僕が冴姫さんとお付き合いをしている赤塚晴夏です」

「あらあら、緊張しなくてもいいのよ?晴夏君にはすっごく感謝しているんだから」


 卒業式が終わって、みんなで写真を撮ったりしているところで僕の家族、絵美里の家族、そして冴姫さんの家族が顔合わせとなっているわけだ。


 冴姫さんのお母さんはもっと凛としているのかとも思ったけれど、そんなことは無くおっとりしていて冴姫さんのお父さんも優しそうな顔つきをしている。


 ちなむと、もう冴姫さんは両親に僕たちの関係について話しているみたいで、了承も得ているみたいだ。


 同じく、絵美里と僕も家族の人たちに話して、何とか承諾を得ることが出来た。


 最初にこの関係について話したときは、当然困惑されたけれど三人の中で納得できているのなら構わないと言われたためこの関係を続けることが出来ている。


 それもこれも、冴姫さんがいつの間にか僕の家族とも仲良くなり、絵美里の家族とも仲が良くなっていたからだともいえる。


 というかそれが大きすぎる。


「晴夏君に出会うまで、死んだような顔つきで毎日過ごしてたし、生きてないんじゃないかって思っていたから、あの子を立ち直らせてくれてありがとうね」

「い、いえ。僕はただ、冴姫さんの事をもっと知りたいって思って行動しただけですから」

「聞きました?あなた。やっぱり冴姫の連れてくる子に悪い子なんていませんよ。純粋ないい子です」

「あぁ.....そうだね。関係を知った時は疑ったけれど、実際に会ってみて晴夏君になら任せられると確信したよ」


 冴姫さんのご両親からの印象は良いみたいで良かった。


「私が選んだ晴夏君ですから、間違い何てありませんよ」

「ふふっ、そうだね。冴姫が選んだんだから間違い何てないよ」


 冴姫さんとお父さんが笑いあっている。家族に向けてはあんな笑顔をするんだ。


 それからは、冴姫さんの家族と僕の家族、そして絵美里の家族が顔合わせをして衝突することなく会話をしている。


「正直、僕は何かを言われるんじゃないかってハラハラしてたよ」

「大丈夫ですよ。私の彼氏なんですから、何を言われたところで堂々としていてればいいと思います。もし何か言ってきたら私が対処しますので」


 とうっすらとほほ笑んでそう言う。


 その笑みには何か逆らえない魔力的なものがあって、それは親でさえ従わせてしまうのではないかと思えてしまう。


「これで、親公認となりましたし同棲する部屋も決めることが出来ますね。ある程度目星は付けてあるので明日下見に行って決めましょう」

「そうですね」

「うん、そーしよー」


 まだ、テスト結果は帰ってこないけれど僕たちは全員A判定だったためほぼ受かっていると言ってもいいだろうから早めに動かないと同棲する部屋が無くなってしまうからね。


「ね、その前に写真撮ろうよ」

「そうですね。取りましょうか」


 僕の母さんにカメラを任せて三人で横並びで写る。

 

 僕が真ん中で二人が寄り添うような形で。二人とも寄り添いすぎて胸の感触が伝わるくらいにはくっつきすぎている。


「じゃあ、いくよ。はい、ちーず」

「んっ」


 二人は次の瞬間には示し合わせたように僕の頬にキスをしてきたのでびっくりしてしまう。多分写真に写った僕の顔は間抜けなんだろうなって見なくても分かるくらいだ。


「ふふっ、晴夏君の顔が物凄く驚いているわ」

「んふふ、晴夏、びっくりした?」

「うん」

「でもこの写真、私は凄くいいと思うわ」

「そうだね。私も凄くいいと思う」


 確かに少し間抜けに見えるけれど、これはこれで良い思い出のような気もするからこれでいいなって思える。


「晴夏ー、今からみんなでご飯食べに行こうと思っているけれどいい?」

「うん、いいね。行こう」


 母さんが早速、冴姫さんのお母さんと仲良くなって僕たち家族全員で何処かへ食べに行くという話になったようだ。


 親睦を深めるという意味もあるだろう。


「じゃあ、いこっか」

「そうですね、行きましょう」


 最後に一度だけ校舎の方へと振り返って頭を下げてから、みんなの方へと歩き出した。

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る