第30話
「はぁーるか」
「どうしたの?絵美里」
「何でもないよ、んふふ」
僕に抱き着いたままそんなことをいう絵美里。
絵美里とも付き合うことに成ってから数日が経ち、今日は休日だ。
インターホンの音で目が覚めて、出てみると絵美里がニコニコとした笑顔で立っていて朝から熱い抱擁を受けてしまった。
「はるかー、大好き」
「はいはい、ありがとね」
「もぅ、晴夏冷たいよー」
グリグリと頭を擦り付けてくる絵美里を落ち着かせる。
絵美里と付き合い始めてから、終始こんな感じで僕から片時も離れようとしないのだ。霧姫さんと同じかそれ以上に僕にくっついている。
教室で、絵美里と霧姫さんが抱きついてきたときは、騒然とした。
だって、僕は霧姫さんと付き合っているはずなのに、絵美里とも抱きしめ合っているのだから。なのに霧姫さんは怒るどころか笑顔で一緒に僕を抱きしめているのだから混乱しない方がおかしい。
この事実を知っているのは、僕と絵美里の近しい人間である羽鳥位のものである。
それ以外の人には基本教えることは無い。
何を言われるか分かった物ではないし、面倒くさいから。
二人とも周りから何かを言われても「あなたには関係ないでしょ?消えて欲しいです」と冷たい反応をするため、次第に言う人はいなくはなったけれど、僕には恨みの籠った目や嫉妬の眼が送られてきて気が気ではない。
そんな僕の内心を知ってか知らずか二人は相も変わらずくっついてくるわけだけれど。
そんな最近の日常。
「あ、インターホン鳴った。出てくるね」
「あ、もう来たんだ。早いね」
誰だろうと思って開けると、そこにいたのは霧姫さんだった。
「おはよう、赤塚君」
「おはようございます、霧姫さん」
私服の霧姫さんを見るのは初めてかもしれない。.....いや、一度だけ映画館で見たけれどあの時はストーカー事件でごたついていた時だから良くは見れなかったけれど、今見るとものすごく綺麗で、素敵だ。
「もぅ、晴夏、霧姫さんの事見すぎだよ?」
「あ、ごめん。綺麗だったから」
「ふふっ、良いですよ。赤塚君なら、もっと見てくださっても全く構いませんから」
「それは.....まぁ、こんな所では何ですし、入ってください」
「そうですね、それじゃあお邪魔します」
恥ずかしくなり誤魔化して、霧姫さんをリビングへと通す。
お茶とお菓子を持って行き、絵美里と楽しそうにお話ししている霧姫さんの隣に座ることにする。
「朝から急に押しかけてきてしまってごめんなさい」
「いや、突然だったから驚いたけれど、休日に霧姫さんを見ることが出来て僕は凄く嬉しいよ」
「私も、赤塚君に会えて凄く嬉しいわ」
霧姫さんはその豊満な胸を僕に押し付けてそう囁く。
「霧姫さん、ずるい。私も晴夏とくっつく」
反対側からは絵美里から抱きしめられて、両手に花状態だ。
「.....そう言えばですけれど、赤塚君。私達、いい加減呼び方を変えることにしませんか?」
「呼び方ですか?」
「何時までも霧姫さんでは私、少し悲しくて。絵美里さんの事は絵美里って呼んでいるではないですか」
期待を籠った眼差しで僕の事をじっと見てくる。
霧姫さんの事を名前で.....さ、冴姫って呼ぶってこと?
今まで抱きしめ合ったりしていたからそんなこと簡単だと一瞬思ったけれどいざ言おうとすると少し恥ずかしい。
「.....さ、さ.....」
「あと少しですよ」
「冴姫.....さん」
「っ!!さんは要りませんけれどまぁ、今はそれでよしとしておきましょう。それにしてもいいものですね。名前で呼ばれるって。すごくドキドキします」
頬を染めて、嬉しそうにそう呟く。
だけれど、冴姫さんもしなきゃ平等じゃないよね?
「冴姫さんも僕の事晴夏って呼んでください」
「え.....わ、分かりました」
こほんと一つ咳をしてから、冴姫さんが僕の名前を言おうとするけれど、僕が先ほどなったようにいざとなると恥ずかしくなってしまったみたいだ。
「.....は、は、.....晴夏君」
ポツリとか細い声でそう呟いた彼女の顔は恥ずかしそうに照れていてものすごくキュンとしてしまう。
「晴夏君。晴夏.....君。やはり、今は私も呼び捨ては出来ないですね。これから頑張っていきます」
「そうですね、僕も冴姫さんの事を呼び捨てにできるように頑張ります」
二人で見つめ合って手を取り合う。
「.....あのー、私もいるんですけれど。二人でイチャイチャしないで。もぅさ、冴姫も晴夏も私抜きでイチャイチャして」
とジト目でこっちを睨んでくる絵美里。
さりげなく絵美里も冴姫さんの事を冴姫と名前呼びしているし。
「…ふふっ。ごめんなさい、絵美里。そんなつもりはなかったの」
「そ、それならいいけれどさ」
今度は冴姫さんの方が絵美里へと歩み寄る。
この二人、一見正反対に見えて意外と相性がいいのかもしれないな。
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