第29話

 相も変わらず、霧姫さんからの熱烈な愛を受けている今日この頃。


 この前、霧姫さんに絵美里の住んでいる場所を聞かれたけれど、結局何だったのかは分からない。


 霧姫さんと絵美里って僕が知らないだけで仲が良かったりしたのかな?霧姫さんに聞いても


「秘密です」


 と言って答えてくれないし。


 絵美里が最近学校に来ていなかったから、きっと様子を見に行ったのかと思って僕も行きますと言ったけれど「赤塚君は駄目です、女の子だけの話ですから」と断られてしまってどうすることも出来なかった。


 靴箱を開けて、何もないことを確認してから階段をもぼり教室へと入る。


 やはり、霧姫さんは僕の椅子に座っていた。


「おはようございます、霧姫さん」

「おはようございます、赤塚君」


 にっこりとほほ笑んで返してくれる霧姫さん。


 席を立ち、僕が座るとその上に当たり前のように座って来る。いつもの事過ぎて段々と慣れてきた。


 クラスの人たちももう驚かなくなり「あぁ、なんだいつもの事か」と受け入れ始めているくらいだ。


「赤塚君、今日の放課後、大事な話があるのでいつもの場所に」

「え?うん。分かりました」


 なんだろう、大事な話って。



 時間が経ち、放課後になった。


 今日は絵美里が登校してきた。何故か僕の方をジィっと見たり、僕が見ると目線を外したりとおかしな挙動をしていたけれどどうかしたのだろうか?


 僕が何かをしたかと考えたけれど答えは浮かばなかったので謎だ。


 教室から出て、いつもの場所へと急ぐ。


 霧姫さんはもういるだろうからなるべく早く行かないと。


 急いであの場所へと向かうと、霧姫さんは当然いたけれど、予想も付かない人物がそこにはいた。


「こ、こんにちわ、晴夏」

「うん、こんにちわ、絵美里」


 カタコトで緊張した様子の絵美里。


 いつもの元気いっぱいのあの感じではない。


「霧姫さん、これは......?」

「赤塚君の疑問はもっともね。絵美里さん、私から説明する?」

「い、いや、私が説明するから」


 絵美里が僕の方を真剣な眼差しで見つめてくるので、僕も姿勢を正して話を聞く体制を作る。


「あ、あの......ね?晴夏」


 絵美里は、一生懸命言葉を紡ごうとしてくれているので僕も黙って彼女の話を聞く。


「私ね......晴夏の事がね......その......」



 そう言われた瞬間、流石に鈍い僕でも絵美里が何を言いたいのか理解できた。けれど、僕には......。


「晴夏の事が好きなの。だから私とも付き合って」

「......ごめん、僕には霧姫さんが」

「ふふっ、赤塚君、もう一度ちゃんと絵美里さんの告白を聞いてあげて?彼女はなんて言っていました?」


 そう可笑しそうに笑っているのは霧姫さんだ。


 絵美里がなんて言っていたかなんて......


「も、もう一度言うね。私とも付き合って」

「だから......ん?って?」

「だ、だから霧姫さんと付き合ったままでいいから私とも付き合ってってこと」

「え?」


 ......それって、ん?あれ?どういうこと?


 僕は絵美里と霧姫さん両方と付き合うってこと?


「でもそれは、霧姫さんの事を......」

「赤塚君。この提案は私が絵美里さんに持ち掛けた事なの。だから私は了承何て得なくていいわ。私は賛成していることなのだから。あとは、赤塚君が選択するだけよ」


 僕が選択をするだけ。


 僕はこの告白を受け入れていいのだろうか?


「赤塚君、世間がどうとか、みんながどうとかではくて、私達三人の幸せを考えればいいの。他の人なんて気にしてはいけません。素直に赤塚君は絵美里さんと深い関係になりたいのかだけを考えてください」


 .....三人が幸せに。


 僕が絵美里とどうなりたいのか。


 絵美里と僕は今までずっと一緒に育ってきた。嫌なところだったり、喧嘩をしたこともありはしたけれど、離れようなんてまったく思いもしなかった。


 これから先も、何となく漠然と絵美里とは一緒に居て、いずれは付き合ったりなんてそんなことを思ったりしたこともあった。


 絵美里とも付き合って、三人で家庭を築く。


 暖かい幸せな未来を想像することが出来た。


 なら、僕の選択は決まっているんじゃないか?


 だけれど.....僕は二人を幸せにできるんだろうか?二股をしているクソ野郎なんじゃないかという罪悪感もあって、中々答えを返せない。


 そんな時、霧姫さんが俯いている僕の頬を両手で包み込み、霧姫さんと目と目が合うように顔を固定させられる。


 彼女の僕に向ける瞳は、溶けてしまうほど熱くそして、どこまでも底が見えないほどの真っ黒な瞳だった。


 その瞳は僕しか見えていないと雄弁に語っている。


「他の事、世間の事なんて考えないでください。私、そして絵美里さんだけを見てください。他の事なんてどうでもいいんです。あなたの素直な気持ちを教えてください」

「ぼ、僕は.....」

「はいっ」


 彼女はにっこりとほほ笑んで、僕の答えを待つ。


「僕は.........絵美里とも付き合います」

「その答えを待っていました。絵美里さん」

「うん」


 近づいてきた絵美里。その目はどことなく霧姫さんに近いものを感じさせられた。


「私はあなたを愛しています、赤塚君」

「私も愛してるよ、晴夏」

「「ずぅっと一緒に幸せに暮らしましょう?」ね?」

 

 僕はその暖かくて居心地の良い狂気に沈むことを受け入れた。

 


 


 

 


 





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