第28話

「私、どこで間違っちゃったんだろう」


 私は自室で今日も枕を濡らしている。


 晴夏が霧姫さんと付き合っていると聞いたときは嘘だと信じたかったけれど、あんなに仲睦まじく教室でイチャイチャとされては本当に付き合っているんだとまざまざと実感させられる。


 前から嫌な予感はしていたのだ。


 晴夏が最近では私と羽鳥と段々と遊ぶ頻度が無くなっていったから何かおかしいとは思っていたけれど、まさか霧姫さんと付き合うだなんて思いもしなかった。


 霧姫さんは、男嫌いというか人間嫌いで人と喋ることはあんまりないし、それが晴夏とくっつくなんて予想もできなかった。

 

 どうしてもっと晴夏に早く、告白をできなかったのだろう。


 私と晴夏は仲睦まじい幼馴染だった。


 小さい時からずっと一緒に居たし、晴夏は私の事を何かあれば絶対に助けてくれたし、プレゼントもくれた。


 何となく、この先もずぅっと二人の関係は続いて何時かはきっと晴夏の方から告白してくれる…なんて甘いことを考えていた。


 晴夏は私の事を何とも思っていなかったのかな?とか、どうして私を見捨ててと女々しいことを思ってしまう。


 そんなことを思ったところで何も変わりはしないし、現実は受け止め切らなければならないのだ。


「今日も、学校休みたいな」


 最近では学校すら行く気が起きなくなって、生きる活力すらもなくなっているのが自分でも分かる。


 晴夏が私にとってどれだけ大切な存在だったのかが今になってようやく理解できた。私は晴夏がいないと何もできないくらいにまで落ちぶれていた。


「はるかぁ、いやだよぉ、大好きなのに」


 私の方が先に晴夏の方が好きだったのに。ずっと隣にいることが出来るって思っていたのに、こんなのって…。


 私はそのまま学校にも行かず、疲れ果てて眠ってしまった。



 起きたのはインターホンの音だった。


 両親は共にいないので、私が出るしかないが出る気力すらわかず無視ししていても、鳴りやまないので仕方なく、玄関先まで言って扉を開けるとそこにいたのは予想もつかない人だった。


「こんにちは、絵美里さん」

「…え?」


 なんと立っていたのは霧姫さんだった。


「とりあえず、中に入れてもらえると嬉しいのだけれど」

「...え?あ、うん。分かったけれど」


 霧姫さんを家の中へと招き、リビングへと通す。


 適当にお茶とお茶菓子を持って行き、私も椅子へと着く。


「まず、突然押しかけてしまって申し訳ございません」

「い、いえ。普通にびっくりしただけで。私の方こそこんな格好ですみません」


 お互いぺこりと頭を下げて、向き合う。


「いきなり、本題というのも絵美里さんがびっくりしてしまうでしょうから、まぁまずは世間話の方からしましょうか」

「え?あ、はい」

「そうですね、絵美里さんは好きなものとかありますか?」

「…え?えぇーっと、そうですね。私は...」


 訳も分からず、霧姫さんとの会話が始まった。


 一体、霧姫さんは何がしたいんだろうと思いもしたけれど、久しぶりに誰かと話す感覚は少しだけ楽しかった。


 お互いの事が少しだけ知れたところで、霧姫さんは顔を引き締めたので、私も備えることにする。


「絵美里さん、あなたは...赤塚君の事が好きですか?」

「っ!!」


 霧姫さんから晴夏の名前が出てきただけで、過剰に反応してしまう。


「晴夏の事を好きか、ですか?」

「はい」


 どうしてそんなことを聞くのだろう?もしかして、霧姫さんは自分と晴夏の中の良さを言いに来てきっぱりと諦めさせようと思っているのだろうか?


 だけれど、この短時間で霧姫さんと会話をした感じではそんなことをする人には見えない。


「.........はい、好きでした」

「でした?今は、好きではないのですか?」

「…っ!!今も好きですよ、大好きです。でも.........私は諦めなくちゃいけないんです。晴夏の幸せを願うなら」


 一気に感情が爆発して涙が零れそうになるが、必死に耐える。


「そうですか、今も赤塚君の事が好きなのは一切変わっていないのですね」

「そうですよ、大好きです。愛しています」

「それなら、良かった」

「…え?」


 霧姫さんは席を立ち、私の方へと寄って来てそっと抱きしめた。


 突然抱きしめられて困惑したけれど、自然とその暖かいぬくもりのあるハグを受け入れる。


「私は、あなたに提案したいことがあります」

「…提案、ですか?」

「はい。それは…私とあなたで赤塚君を幸せにしませんかというお誘いです」

「…え?」


 今日は何度もこの人に驚かされたけれど、今日一今の発言に驚いてしまう。


「私と霧姫さんで、ですか?それって.........」

「はい。二人とも赤塚君の彼女でお嫁さんになるってことです」


霧姫さんが冗談を言っている雰囲気ではないので嘘ではないのだろうけれど返す言葉が出ない。


「私は、絵美里さんに同情してこんなことを言っているわけでは決してありません。私は、誰かを不幸にしてまで、自分が幸せになったところでそれは本当の幸せではないと思うので、そう提案しています」


 私はこの提案を受け入れていいのだろうか。

 

「他人を不幸にしてまで幸せを得ようなんて、していることがあの人たちと同じですから。私は私の意志であなたにこう提案しています。ちなみにまだ赤塚君には言っていません」


 .........ここで、この提案を受け入れなかった時将来の私は何を思うだろうか?受けなくて良かったと思うだろうか?晴夏無しの人生でそんなことを思う?いやあり得ない。


 なら私の選択は.........


「その提案を、受けます。受けさせてください」

「はい。その言葉を待っていました。二人で赤塚君を溺れさせてしまいましょうね?赤塚君はかなりの鈍感さんですから徹底的に分からせないといけませんから」

「.........ふふっ、そうだね」


 これから先、この選択を後悔することなど決してないだろう。


 今度は絶対に離さないし、思いは伝えて見せるから。


 晴夏、だぁーいすき、だよ。


 


 

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