第18話 分岐点
「いや、うちのクラスがあんなに活躍するなんて凄いな。みんなよく頑張ってくれた。すごい、凄いぞ」
と担任の冴島先生が喜んでいる。
リレーで、僕たちが数あるクラスの中一位を取ったことが大きかったみたいだ。
絵美里、男の子、そして霧姫さんの四人が頑張ってリードを作ってくれたからこそ僕は逃げ切ることが出来た。
三人には感謝しかない。
おかげで僕たちが所属する紅組が勝利を収めることが出来た。
もちろん勝ったのは、僕たちだけのおかげではない。みんながそれぞれ頑張ってくれたからである。
「じゃあ、今日は疲れたしみんなゆっくり休めよ。じゃあ今日はかいさーん」
冴島先生が教室から出ていく。
「晴夏―、打ち上げしよ?私たちのクラスが勝ったんだし」
絵美里がそう言ってくる。
うん、そうしようと言い掛けたところで、そういえば今日は勉強会をするのかと疑問が浮かんできた。
図書室は確か今日、空いているはずなんだよな。
霧姫さんは行くのだろうかと思い霧姫さんの場所を見てみると彼女も僕の方を見ていた。
お互い数秒目が合って、霧姫さんの方から目を逸らして教室から出ていく。
「ねぇ、晴夏?聞いてる?」
「あぁ、ごめん」
絵美里に揺さぶられ目線を絵美里の方へと戻す。
僕はどちらを取るべきなのだろうか?
霧姫さんはそもそも図書室へ行ったかも分からない。もしかしたらいないかもしれないのに行くというのは時間の無駄だ。
それに霧姫さんも疲れているだろうから、今日は帰ったのかもしれない。
............だけれど。
「絵美里、打ち上げ明日にしない?明日休みだし」
「えー」
「僕が料理を作ってあげるから」
「え、まじ!?じゃあ、明日にしよっかなー」
「うん。じゃあ、僕少しだけやることあるから、後で連絡するね。また明日」
僕は荷物を持って図書室へと向かう。無駄足になるかもしれないと分かっていても、もしかしたら一人で待っているかもしれないと思うと行かなくてはいけないような気がした。
そもそも待っていない。一人で今日くらい勉強したいとそう思っている可能性もなくはないけれど。
図書室の扉を開けて、あの場所へ。
すると彼女は夕暮れの中、優雅に本を読んでいた。
「..........今日も来たんですね。てっきり来ないかと思っていました」
「ここに霧姫さんがいるような気がして」
「そうですか。では、勉強をしますか?それとも、今日はこのまま帰りましょうか?赤塚君も疲れたでしょうから?」
「僕が帰るって言ったら?」
「帰りますね」
「では、なぜここにいたんですか?」
帰るという提案が出るのなら、そもそもここに来なくていいはずだ。
「それは..........あなたがもし来た時に徒労になるのも可哀そうでしょうとそう思ったからですね」
「なるほど。お互いがお互いのためにここに来たんですね」
「ふふっ。そうですね。それで、今日はどうしましょうか。体育祭中に少しだけ勉強をしましたし、疲れていると思うので無くても構わないと私は思っています」
「そうですか。..........それじゃあ、帰りますか?」
「そうですね、帰りますか」
**********
私はてっきり彼が、絵美里さんとの打ち上げに行くとばかり思っていました。
教室内で彼の事を無意識のうちに眼で追っていると、そんな話が聞こえてきましたから。
ですが、その時彼はこちらを向いて私と目が合いました。赤塚君が何を考えていたのかを考えると一つしかありませんでした。
あの図書室での勉強会の事でしょう。
恥ずかしくなって目線を逸らして教室を出て行ってしまいましたが、行先は図書室でした。
どうして、私は図書室へと向かっているのか自分でも分かりませんでした。彼がここに来る可能性は低いと自分でも感じていましたから。
何故、自分がこんなにも彼の事を考えているのかも分からない。赤塚君からの借りだと思ってそう自分では納得しているけれど、何かこうしっくりこないのだ。
だけれど、私はこの場所に来なければいけないという意思の元、この見つかりにくいいつもの場所で座って待つことにした。
数分、いや数十分くらいだろうか。
足音がこちらに聞こえてくる音がする。この数十分間、まったく本のページなど捲っていない。足音だけを聞いていた。
その足音は私の対面で止む。
ほんを閉じて顔を上げると彼だった。
「..........今日も来たんですね。てっきり来ないかと思っていました」
「ここに霧姫さんがいるような気がして」
「そうですか。では、勉強をしますか?それとも、今日はこのまま帰りましょうか?赤塚君も疲れたでしょうから?」
「僕が帰るって言ったら?」
「帰りますね」
「では、なぜここにいたんですか?」
それは..........私自身が分かっていない。だけれど、何か返さなくてはと思い、こう返した。
「それは..........あなたがもし来た時に徒労になるのも可哀そうでしょうとそう思ったからですね」
「なるほど。お互いがお互いのためにここに来たんですね」
「ふふっ。そうですね。それで、今日はどうしましょうか。体育祭中に少しだけ勉強をしましたし、疲れていると思うので無くても構わないと私は思っています」
お互いがお互いのため。..........胸がジンっと熱くなります。どうしてでしょう?
「そうですか。..........それじゃあ、帰りますか?」
「そうですね、帰りますか」
ただ、集まっただけ。勉強も何もしないない。何も意味がない。
だけれど何故か嬉しかった。
荷物を纏めて席を立った。
図書室を出ようとすると、ふと『青春』というタイトルの本が見えた。
確か、あれは恋愛小説だった。
恋愛..........小説。
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