第11話 あぁ もう!!

 最近、少しおかしなことが起こっている気がする。


 テストが終わって土日を挟み、休日明けの月曜日。


 学校で普通に生活していると、ふと偶に視線を感じる時がある。後ろを振り返ってみるけれど特に何もいない。


 気のせいだと思って過ごしていたが、火曜日、水曜日、木曜日になっても見られている感覚があるのだ。たまに冷たい、まるで背中に氷を当てられた時のような感覚。


 僕が、もしかしたら過敏になっているだけかもしれない。霧姫さん関連であんなことがあったから。


 それと、霧姫さんが僕の視界に移ることも多くなった気がする。


 .........本当に気のせいか、もしくは無意識のうちに僕が霧姫さんを目で追ってしまっているだけだろうけれど。


 少し関係を持ったくらいで女々しいな、僕は。


 まぁ、ほとんどテストも返され結果が出ればあの場所に集まることになっているから完全に関係は終わったわけではないけれど、このテストの結果だと十分だろうと思う。


 苦手な数学や理系科目で九十点はぎりぎり届かず、八十八点や八十五点という結果にはなってしまったが、今までの成績を見れば偉業と言えるだろう。


 得意教科はいつも通り高得点であり、確実にトップテンには入っていると思う。


 まぁ、そんなわけで霧姫さんともあと少しで完全に終わるわけだから、女々しくなって霧姫さんを意識してみてしまっているのだと思う。


 それにしても、だれが僕のことを付きまとっているんだろうか。


 僕、もしかして何か知らずのうちにしてしまったのだろうか。


 段々と噂が薄れてきているっていうのに。


「春夏ー、今日家に行っていい?」

「いいけれど、泊まらせないからな」

「えー、なんで」

「明日が金曜日だからだ」

「じゃあ、明日は泊まらせてくれるってこと?」

「それは.......」


 小さい頃はよくお互いの家に寝泊まりをしていたことがあったけれど、今はもう高校生だ。


 流石に僕の自制心にも限界があるし、精神衛生上絶対によくないからどうにかして断らなければ。


「.......とにかくダメ」

「えーなんでよ」

「夕飯、僕が作ってあげるから」

「………むぅ。しょうがない、それで手を打ってあげよう」


 少々どころかかなり不満そうだけれど納得してくれたみたいで良かった.......っ!?


 ゾクゾクと背筋に冷たいものを当てられている感じがする。


 ほらっ、なんか今、すごく冷たい視線を感じたのだ。


 この冷たい視線を感じるのは、今思うと絵美里がいる時が多い.......いや、絵美里といる時に感じる。

 

 もしかして.......今度は絵美里のストーカーとか?


 絵美里と一緒にいる僕が邪魔で仕方がなくてこんな冷たい視線を送ったり、付け回したりしているのか?


 絵美里はこう見えてもかなりモテるから。


 顔、スタイル両方共良いし、溌溂としていて誰とでも仲良くなれて話しやすい。


 何度遊んでいるときにナンパされて助けに入ったことか。


 もし本当にストーカーだった場合どうすればいいだろう?できるだけ一緒にいる?


 でもそうしてしまうとストーカーを刺激しかねないからな。


「どうしたの?春夏」

「いや、なんでもないけれど。.......絵美里」

「何?」

「最近、手紙とかラブレター貰ったか?」

「え、な、なに急に」

「いいから」

「どうしてそんなこと言わなきゃいけないの?」

「いいから、お願い」

「ま、まぁ、そんなに聞きたいなら言うけれど」

「うん」

「貰ったよ。二通くらい」


 まずい、これはまずいぞ。


 本当にストーカーの線がある。


「絵美里はその告白を受けたの?」

「う、受けるわけないじゃない」


 受けていないとすると、本当に逆恨みしてということか?


 だけれど、霧姫さんのように絵美里が手ひどく振るなんてこと中学の時から聞いたことがない。

 

 しっかりと丁寧に振るらしい。


 だとするなら、そのストーカーはかなり狭量な奴だともいえる。


 まぁでも手ひどく振ったからと言ってストーカーになって復讐するのはどうかと思うけれど。


 ストーカーにも色々いるからな。


 ただただ好きでしょうがなくて後をつけてしまったり、その人のものを取ったりする人もいる。


 どうしようか。


「絵美里」

「なに?」

「慎重に生活すること」

「え?うん」


 と頭に疑問符を浮かべて、頷く絵美里。


 今は絵美里と連絡を密にしつつ、一旦、様子見をしておくことにしよう。


 本当にこれが勘違い可能性もあるから。


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 私は、無性にイライラしていた。


「春夏ー、今日家に行っていい?」

「いいけれど、泊まらせないからな」

「えー、なんで」

「明日が金曜日だからだ」

「じゃあ、明日は泊まらせてくれるってこと?」

「それは.......」


 意識しているわけではないけれど、勝手に耳が声を拾ってしまう。


 前までは、本を読んでいれば他の事なんて何も聞こえないほどだったのに、今では何故かこのざま。


 どうしてだろう。


 全く私らしくないと言える。


 原因はおそらく.............彼だ。


 思えば、私の心境の変化はあの助けられた日から変わった。


 テストの結果でもし赤塚晴夏がかなり良い点だった場合、もう私と彼の関りは完全になくなる。


 彼と前に話したことだ。


 もし彼と何も関わる事が無くなる.......そう思うと、私は何故かキュッと心臓を握りつぶされるような感覚に陥り、苦しくなる。


 理由は分からない、けれどこのままではいけないと思った私は彼の順位より高く無ければならないと思い、必死に勉強に励んだ。


 今までは予習復習を完璧にして決められた時間勉強をしっかりとしていれば一位を当たり前のように取れていたけれど、不安で仕方が無く心の底から一位を取らなければならないと思ったのだ。


 彼は、私が手取り足取り教えたことによって苦手な理系科目を克服しつつある。今回の範囲ならば八十点を超えるのは確実だと思う。


 それに、彼は得意教科の点数が高く、私が抜かされてしまうことがあるくらいだ。


 今まで以上に勉強をしないと負ける可能性があったので死ぬ気でした。


 テストが終わり自己採点をした限りでは、今までで最高得点だが油断はならない。


 彼のテスト結果が知りたくて、どうにかしてみたいと思い目で追うようになってからいつの間にか関係ない何気ない時間でも彼に目が行き、話している内容を聞いてしまうようになった。


 そして今に至るのだが、彼は良くあの錦戸絵美里と仲良さげに話している。


 えぇ、本当に仲がよさそうに。


 だが、その会話の内容や距離の近さから私の眉間に皺が寄っていくのが分かる。


 何故イライラしているのだろう。


 理由を考えてみる。


 彼と、彼女の距離が近い。

 

 すると何が良くないか。クラスの公序良俗が乱れるのでクラスの人たちに迷惑が掛かる。


 .............そのことについて私がイライラしてる?クラスの人たちと関りを持とうとしていない私が?


 理由が分からず、モヤモヤするがあの二人の会話を聞くとイライラするのは確かなので耳にイヤホンを突っ込むが、耳をふさいでも目は彼を追ってしまい、意味がない。


 あぁ、もう。





 




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