第12話 いいの!!

 テストが終わってから、二週間程度過ぎ、やっとテストの結果が返ってきた。


「晴夏ー、私のテスト結果ひどすぎたんだけれど」

「何位だったんだ?」

「160位」

「まぁ、いつもと変わらないな」

「ひどいぃ」


 この学校の全体人数は240くらいだから、半分以下という結果だ。


 でも絵美里の凄いところはこんな感じだけれど赤点を取ったことが無いことだ。


「羽鳥はどうだったんだ?」

「俺は絵美里よりは高いけれど、そんなだな」

「それで、晴夏はどうだったの?」

「僕はね..........掲示板を見れば分かると思うよ」

「え!?まじ?そこに載せられいるってことは、まさか二十番以内なの?」

「まぁね」


 絵美里と羽鳥が順位を見るために一回にある掲示板へ。


 僕も念のため確認するために一緒に行く。


 僕の順位は..........


「晴夏..........すごっ」


 二位だった。


 いままで生きてきた中での最高順位だ。


 だが、僕の上に一人絶対不動の僕の先生たる人が座っている。


「それでも、霧姫さんには勝てなかったけれどね」

「霧姫さんは凄すぎだからね」


 流石霧姫さんだ。今回のテストの結果かなり良かったから少しでも勝てるって思った僕が浅はかだった。


 だが、これだけの順位を取ったんだ。彼女はきっと納得してくれるだろう。


「そうだ、晴夏!!今日、祝勝会しようよ。せっかく、晴夏が頑張ってこんなすごい順位取ったんだし、お祝いしないと」

「ありがと。でも今日は少しやることがあるから明日でもいいか?」

「えー?まぁ、いいけれどさ」


 と不満顔の絵美里。


 今日の放課後はどうしても外せない用事があるから。




 放課後になり、絵美里と羽鳥たちと別れて僕は少し前まで通っていたあの場所まで行く。


 図書室というところ自体があんまり人がいないのに、その中でも埃っぽくて見つかりにくい人を遮断したような場所であるあそこまで歩いていく。


 見ると彼女はいつものように本を読んで座っていた。


 やはり彼女がここで本を読んでいる姿は様になっていて、一ページ捲るたびにその姿に釘付けになっていく。


 この姿をもう見ることが無くなるんだなと思うと何かこう、感慨深いものがある。


「..........さっさと座ったら?」

「あ、うん」


 どうやら、彼女は気づいていたみたいだ。


 彼女はパタンと本を閉じて僕を見..........一瞬だけ見て視線を違うところに向けて話し始める。


 あれ?いつもならまっすぐ見てくれるはずなんだけれど。


「それじゃあ、本題に入りましょう。結果は掲示板を見て知っていますが、念のためあなた本人から順位を言ってください」

「分かった。僕の順位は、二位だよ」

「そうですか」


 とそう呟いて考え込むような仕草をする。


 何を考えているんだろう?


「あなたのテストの結果を鑑みて..........結果を言い渡します」

「はい」


 あぁ、もう終わるんだろうな。彼女との関係は。


 いろいろあったけれど楽しかった。


 最後にゲーセンで取ったぬいぐるみを渡して帰ろう。


「あなたは、不合格です。次のテストまでまた私とお勉強です」

「ありがとうございました。沢山お世話..........え?」


 今何て?


「ふ、不合格ですか?」

「え、ええ。そうです。不合格です。あなたはもう一度私と一緒に勉強をしなきゃなりません」

「理由を聞いても?」

「それは.............」


 何が不満なんだろう。


「それは.........私を超えられていないからです。教え子なら師くらい超えてみてください。青は藍より出でて藍より青し。弟子が師匠を超えているということわざです。出藍の誉れとも言います。知っていますよね?」

「それは、一般的には師匠が弟子を褒めるときに使う言葉で.........」

「私が教えたのですから、私を超えて胸を張ってこのばしょから去って欲しいのです」

「なるほど.........?」


 僕が霧姫さんから教えてもらうことを卒業するためには、彼女を超えなければ行けない?


 でも.........


「霧姫さんはいいんですか?」

「何がですか?」

「だって、また僕と勉強することに成りますよ?それに、僕はただ菓子パンを無理やり渡しただけで、二位にしてくれただけでも十分すぎるほどなのに」

 

 そう言うと、彼女は俯いてプルプルとしだす。


 大丈夫だろうかと声を掛けようとすると、バッと顔をあげて


「良いんです‼私が言ってるんだからあなたが気にする必要はありません。それともあれですか?そんなに私と勉強することが嫌なんですか?」


 と迫るように聞いてくる。


「そ、そんなことないです。ただ、霧姫さんは良いのかなって思っただけですから。霧姫さん、男嫌いって聞きますし人とも関わりたくないように思えますから」

「い、良いんです!!私がそう言っているのですから」

「わ、分かりました」


 迫るようにそう言われ、僕も頷くしかない。


 でもまさか、もう一度霧姫さんと勉強することになるなんて。それも、今度は明確な目標である霧姫さんを超えるというものもある。


 何より、僕もこれっきりで霧姫さんと関係が絶たれると思うと寂しかったのでそれもある。


 なんて言ったら、霧姫さんには気持ちが悪いと言われるだろうけれど。


「それじゃあ、これからもよろしくお願いしますって言った方がいいかな?」

「え、ええ。そうですね。これからもよろしくお願いします」


 と二人で頭を下げ合う。


「それで、今日からさっそく勉強を始めますか?」

「いえ、今日はこれで終わりにします。元々今日は、結果を言い渡す日だったので」

「そうですか」


 とそう言って、彼女は帰るのかと思ったが本はカバンにしまったけれど立つ感じがしない。


 すぐに帰ると思ってたから、少しびっくりするが都合がいい。


「あの、霧姫さん」

「な、なんですか」

「これ.........貰ってくれませんか?」

「これって.........」


 鞄からあのぬいぐるみを出して霧姫さんに渡す。


「貰ってくれますか?」

「..........いいですけれど、どうしてですか?」

「それは..........霧姫さんが喜んでいるところを見たかったから」


 興味本位だ。


 霧姫さんが喜んでいる姿何て滅多に見れないだろうから、見てみたくなった。そう言えば怒るだろうな。


 でも、この言い回しも気持ち悪いか?


 そう思っていたが、


「そ、そう」


 それだけ言って、彼女は目をぬいぐるみの方へと移す。


 その頬が若干赤みがかっているのは夕日のせいかそれとも..........。


「ありがとうございます」


 こちらを見て「ありがとう」そう言った彼女の顔は、夕日のせいなんかではなく確かに赤くなっていてそして..........ほほ笑んだ顔がとても印象的だ。


 本を読んでいたとき以上に彼女に引き込まれてしまう。


 美しい一つの芸術作品のようで、見惚れてしまう。


「そ、そんなにじっと見ないでください」

「ご、ごめんなさい」


 お互いに顔をそらしては、チラッと顔を伺う変な空気になる。


「あ、あの......一緒に帰りませんか?まだ、危険があると思うので」

「い、いいですよ」


 テスト期間が始まってからは、断られていた駅まで送ることが、今日は機嫌がよくて一緒に行かせてもらえるみたいだ。


 二人で、図書室から出る。


 数回霧姫さんと一緒に図書室を出たことがあるが、間が空いてしまったので少し懐かしい気分だ。


 二人で並んで歩き学校を出る。


 いつもなら気にならない無言も今ではすごく気になって何か話そうとするが言葉がうまく出ない。


 結局何も話すことがないまま、駅についてしまった。


「じゃあ、また、明日」

「そうね。また明日」


 そう言って彼女は背を向けて改札を通ろうとするが、一度振りむき......


「ありがとう」


 距離が遠かったためか聞こえずらかったけれど、確かに彼女はありがとうと言ってくれた。


 そのまま逃げる様にしてホームへと走って行ってしまう。


 僕はその場で少し立ち尽くしてしまった。


 



 

 

 

 


 

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