第9話この関係って
霧姫さんを何とか助けることができた次の日、いつも通りに登校したつもりだったのだけれど。
「おはよう、赤塚」
「お、おはよう。羽鳥」
「俺が何を聞こうとしているのかわかるよな?」
朝、僕が登校するとまた違ううわさが流れていた。
なんと僕が脅して霧姫さんと付き合っているんじゃないかっていう噂だ。なんでも昨日駅で僕と霧姫さんがいるところを見た人がいたそうだ。
..........じゃあ、なんで付き合っているんじゃないかって噂じゃなくって脅して付き合っているんじゃないかという噂が流れているんだ。
「昨日は用事があって駅の方面に行ったら、霧姫さんが探し物をしていたから助けてあげただけ」
「本当か?」
「あぁ、本当だとも」
霧姫さんが暴力を振るわれていて、まずい状況になっていただなんて口が裂けても言えるわけがないんだよな。
それに、霧姫さん自身が通報とかを避けたのだからむやみやたらにいうのは違うと思うから。
「ねぇ、春夏?この噂ってどういうこと?」
「それは..........」
と同じ説明を絵美里にすると納得がいっていない顔をするけれどそれいじょう僕から何も得られないと思ったのか諦めた。
その時、一瞬ざわざわとしていた教室が静まる。
その噂のもう一人の人、霧姫さんが教室に入ってきたからだ。
彼女は他のことになんて興味がないのか、雰囲気なんて気にすることなく席に座り本を読み始める。
段々と教室にも喧騒が戻ってきたが、それ以上噂の話をするひとはおらず朝のホームルームが始まった。
「来週から、テストなのはみんな知っていると思うから、当然、勉強はしていると思う。休み時間も極力勉強に励むように」
と硬い言葉で終わらせて教室を去っていく。
来週からテスト、もうあとほとんど日数は残されていない。
..........そういえば、このテストが終わったら霧姫さんに勉強を教えてもらえることもなくなるのだろうか。
菓子パン一つで始まったこの奇妙な関係だけれど、ただの菓子パン。これ以上迷惑をかけるのはどうかと思う。
今日の放課後あたりに聞いてみるとしよう。
相変わらず僕と霧姫さんの関りがあるはずもなく、放課後になったので図書室へと、行くことにした。
いつもの場所には前と変わらず優雅に本を読んでいらっしゃる。
僕が席に着くと、彼女はいつものよう本を閉じて僕の目を見る。
が、いつもと違うのはすぐに目を逸らされてしまったことだ。
「今日から、前までと同じようにここですることにします」
「了解です」
「残り少しですので、気を引き締めていきましょう」
昨日の分の宿題を霧姫さんに渡す。
結果は上々で霧姫さんも満足げにうなずいてくれるほどだ。
「かなりいいですね。来週までこの調子でいきましょう」
「ありがとうございます」
「ここまでくると、私が教えることはあまりありませんね。ですが、まだあげられます。応用の問題と、大学入試でこの公式とかいろいろ使われているものを今日の宿題にしたのでしっかりやっておいてください」
「わかりました」
それから、一人で黙々と解いた。
最初のころより霧姫さんに聞くことは圧倒的に減った。自分自身で解けている感覚があって自信にもつながる。
そのまま今日は霧姫さんに聞くことはなく二人で黙々と勉強をする時間となった。
時間になり、霧姫さんは席を立ちいつものように出ていこうとするが、今日は言うべきことがある。
「あの、霧姫さん」
「なに?」
「えっと、あんなことがあったのでお節介ですけれど駅まで送っても良いでしょうか?」
もし駄目だと言われた場合どうしようかと考えていたけれど、以外にも霧姫さんが了解してくれた。
理由を聞くと
「言ってもあなたはついてくるでしょう」
ということだった。
まぁ、分からないけれどそんな気がする。
霧姫さんは僕のことをだいぶ理解してきたのかもしれない。
なんだかんだ初めて一緒に図書室から出て、学校を出る。
「霧姫さん」
「なんですか?」
「この関係って、このテストが終われば終るんですか?」
「っ..........それは」
「契約では確か、霧姫さんが決めるんですよね」
「そうですけれど」
霧姫さんは何か言いたそうにするけれど、結局は何も言わずに黙ってうつむきながら歩く。
「テストの結果を見てから、判断することにします」
ぼそっとそう呟く。
「分かりました」
テストの結果を見てかぁ。これ以上、霧姫さんに迷惑をかけるのも違うと思うからきっちりと結果をだそう。
関係が終わってしまうのは悲しいけれど、きっと霧姫さんはそのことを望んでいるだろうから。
その後、無事に何事もなく霧姫さんを駅まで送り届ける。
「ありがとうございます」
「僕がやりたいって言ったことですから」
「そう」
「じゃあ、また明日」
霧姫さんは改札を通って行く。後ろを一瞬だけ振り返り何か言おうとしたが、そのまま去っていく。
気になるけれど、僕も帰って勉強をしよう。
霧姫さんに合格と言ってもらえるように。
帰り道、公式を頭の中で思浮かべながら道を歩き、家に着くと..........
「あ、お帰り。春夏」
「何してるんだ?絵美里」
家には絵美里がいた。
「春夏の部屋でごろごろしてるの」
「そんなこと見ればわかるけれど、いいのか?来週にはテスト始まるけれど」
「春夏だって大丈夫なの?得意教科以外はいつもボロボロなのに」
「絵美里はすべての教科ぼろぼろだけれどな」
「あーあー、聞こえませーん。この漫画おもしろーい」
と僕のベッドでごろごろと漫画を読む。
「で、実際何しに来たの?」
「それは..........」
絵美里が言いよどむ。
「最近、春夏の付き合いが悪いから何かあったんじゃないかって思って。わるい噂とかたってるし」
「あー、ごめんな」
確かに、最近は絵美里と羽鳥と遊ぶことが前と比べて減った。
絵美里なりの心配なのか。
「春夏はどこに行ってたの?」
「来週からテストが始まるから図書室で勉強をしていたんだ」
嘘は決して付いていない。
「ほんとー?」
「うん」
「ならいいけれど」
とぶすっとした顔でそういう。
まだ何か疑ってはいるみたいだ。
まぁ、もうすぐそれも終わるだろうから、絵美里には安心してほしい。
「何か、食べるか?今日は親が遅いから僕が作るんだ」
「え、ほんとに?やったー。食べるー」
その後、仲良く絵美里と一緒にご飯を食べ、絵美里はお皿を洗ってくれたりもした。
その後、泊まりたいという絵美里をどうにか無理矢理帰して今日一日が終わった。
高校生になった絵美里を家になんて泊められない。今日が平日だから明日も学校があるからという理由で帰すことができてよかった。
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