第8話
僕は急いで図書室から飛び出した。
急いで霧姫さんの後を追いかけないと。
いつものように下駄箱にいればいいんだけれど。
そう思ったけれど、もう霧姫さんはもうどこにもいなかった。
だがもしかしたら、まだ学校の中にいるかもしれない。そう思い失礼だとわかっていはいるけれど霧姫さんの下駄箱を開けると……
「画鋲?それに…うわ」
靴はなかったけれど虫の死骸が奥の方にあった。女子の霧姫さんからすればかなり怖い思いをしているだろう。
早くいかなきゃ。
もしかしたら、これ以上の事が霧姫さん自身に起こるかもしれない。直接こんなことをしている奴が霧姫さんに接触してきたら..........
早くいかなければ。
自分の下駄箱から靴を取り出して、急いで外へ。
霧姫さんの家ってどこだ?と思うものの一つだけ手がかりがあった。
前に霧姫さんと勉強が終わって少し話した時、彼女は電車通学だと言っていた。ならば、ここから一番近い駅は..........
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私は早歩きで帰り道を歩く。
誰かに見られている。そう感じる。
こう感じているのはかなり前からだ。そして最近になってつけられ始めた
誰からかは分からないけれど私は恨まれているみたいだ。
手紙の内容は
『僕はお前を許さない』
そういう内容で僕と言っているから男だろう。
最初は気にしていなかったが段々と行動が悪辣になっていき、最近では下駄箱に画鋲や死骸が置いてあり、私は靴を鞄にしまうようになった。いつしか、ものすごく怖くなっていった。
誰かも分からない顔も見えない相手にこんなことをされて、自分の心は強いと自分自身に言い聞かせてはいたけれどやはりそんなことはなかった。
私の心は前と変わらず今も脆いまま。
自分が情けなくて仕方がなかった。
俯いたまま、歩いていると突然手を掴まれ、路地裏の方へと連れていかれる。口はふさがれていて声は出せない。
「はぁ、やっとお前に復讐できる」
そう言った彼の手には鋏はあってちゃきちゃきと目の前で切る動作をする。
「お前に振られたせいで僕がどんな惨めな思いをしたと思っている。何がやっぱりお前でも霧姫さんは落とせないかだ、思い出しただけでもイライラする」
彼はイラついた顔で私のことをみると顔を歪め、いびつな笑い方をする。
「だけれど、やっとお前をぐちゃぐちゃにしてそのご自慢の顔やらこの髪の毛を台無しにしてしまえば、良かったな。これで告白なんてされなくて済むぞ。感謝しろよな」
そう言って一発私の腹を殴った。
鈍い痛みがじんわりと広がっていく。思わず涙が零れた。
辛かった。痛かった。
だけれど、一つ望みがかなったというのならばあの男に危害が及ばなかったことだろうか。
一瞬だけ赤塚春夏とあの子の面影が重なる。
..........何となくだけれど似ていたと思っていた。
お節介焼きで、面倒見がよくて、意外と勉強ができる。
だけれど、あのこと赤塚春夏を重ねてなんていけない。
私はあの子に対しての重荷を、あの子に対して返さなければならないのだから。
だけれど、危害が及ばなくても良かったと喜ぶことだけは許してくれるだろうか。
そして、鋏を持った男が私の髪を切ろうとしたその時。
「ぐはっ!?」
鋏を持っていた男の顔が歪んで吹っ飛ばされる。
見ると..........
「…どうして?」
赤塚春夏がそこにはいた。
「だって、ほっとけないんですもん」
そう言って彼は男の方へと近づく。
「おい」
「痛ってぇ」
「おいお前聞いてるのか?」
倒れているあいつに跨り胸倉を掴みもう片方の手でハサミの音を鳴らしている。
「ひッ。お、お前は、なんでここに!」
「確かサッカー部の宮田だっけ?こんなもので人を脅したら危ないだろうが」
「うるさい、というかお前のせいでもあるんだからな。なんでお前みたいな不細工が霧姫と一緒にいるんだよ」
「僕にもいろいろ事情があるんだよ。それより、宮田。お前、自分が霧姫さんに何しようとしてたか分かってるのか」
「あ?」
「分かっていてやっていたんだったら、自分もされて文句言えないよね?」
そういって彼は鋏をあの宮田という男の髪に近づける。
「わ、分かった。ごめん。謝るから」
「それは、僕にじゃなくて。霧姫さんにな」
「ご、ごめん」
私は宮田と呼ばれる人に謝られたが返事はしない。話すこともしたくないほど不快だった。
「そ、それとこのことは学校に言わないでくれるか?」
「それは、霧姫さん次第だから僕には何とも言えない」
そう言って彼は私の方へと視線を向ける。
「学校には言わないでおいてあげる。けれど、もしまた同じことをしようとしたらすぐに学校へと通報するわ。証人はやってくれる?」
「分かりました。その時は」
彼は快く承諾してくれた。
彼があの宮田という人を離すと逃げるようにしてその場から立ち去った。
「大丈夫ですか?霧姫さん」
「あなたのおかげで何ともないわ」
「本当ですか?」
そう言ってジィっと私の目を見てくる。下手に嘘をついてしまったらバレてしまうだろう。
「..........はぁ、少しだけ殴られたわ」
「大丈夫じゃないじゃないですか。どこですか?病院とか…」
とあわあわとしている彼を見ていると笑ってしまう。
「ふふっ..........ッ」
「やっぽりだめじゃないですか」
笑ったとき少しだけお腹に痛みが生じていて顔を歪めてしまう。
彼は私に近づいて「ごめんなさい」といってお腹を優しく擦ってくれる。
「だ、大丈夫よ」
「駄目です。今日は安静にしてください。あ、それともし痣とかになっていないか確かめてください。もしなっていたら病院に」
彼は後ろを向くので私はシャツを捲りお腹を見てみると、少しだけ赤くなっているくらいで別条はなかった。
「大丈夫なんともないわ」
「そうですか。良かった」
と嬉しそうに微笑んでくれる彼の顔を見て、なぜだか私が照れ臭くなってしまう。
「それじゃあ、今日は駅まで送りますから一緒に行きましょう」
「そ、そうね」
「歩けますか?」
「うん」
「もし歩けなかったら僕がおぶって歩きますので」
「だ、大丈夫ですから」
彼はわたしを、未だ心配そうな顔をしてみてくる。
初めて会った時から彼はお節介焼きだった。それからもずっと。さっきも。そして今もそう。
やはりあの子と重ねてしまいそうになるが、この人はこの人だ。
「じゃあ行きましょうか」
かれと一緒に歩く。
二週間程度彼の勉強を見ていたけれど、こうして二人で歩くことはなかった。
私たちの間に会話なんてないけれど、それでも不思議と居心地の良さがあった。
意外と近いものですぐに駅についてしまう。
「じゃあ、今日はこれで」
「う、うん」
そう言って彼は来た道を戻ろうとしてしまう。
「あの..........」
「ん?なんですか?」
「ありがとう」
「どういたしまして」
今度こそ彼は戻ってしまった。
..........しまった?
私はもしかして悲しんでいるのだろうか。
でも、だとしたらなぜ?
思い当たる節はない。
だとするのなら悲しんではいないのだろうか。
胸がもやもやとするけれど、もうすぐ電車が来る時間なので急がなければ。
急いで改札を通り、電車に乗る。
その後、いろいろと考えてはみたものの答えはでず、その日は終わった。
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