第7話 このままでいいのか?
少しもやもやしたまま終末を過ごすことになり、週明けの月曜日。
結局、あの黒マスク君が何だったのかは分からない。もしかしたら僕が思っていることはただの勘違いかもしれない。
いや、そうに違いないだろう。身の周りに気をつけろと言われて少し過敏になっているだけ。
そう思うことにしていつも通りに学校へと行き、下駄箱を開けると.......
「わぁ.......」
手紙に短く、『死ねよブサイク』その言葉のみが簡潔に記されている。
僕の予想していたことがやはりそうなんじゃないかと思い始める。
このことは、霧姫さんには伝えない方がいいのか?いや、余計な心配をさせるのも良くないことだし。
まだ実害はないし、放っておいて大丈夫でだろう。
そう思っていつも通りの生活をしていくけれど、何故か視線を感じる。
授業中は流石に感じることはないけれど、休み時間トイレに行くときや昼食を購買で買おうとするときにどこからかは分からないけれど明確にみられていると分かる。
偶に振り返ってみたりもするけれどいるわけがなく、少しだけ不安な気持ちにもなる。
そして、放課後になった。
つけられていないか確認しつつ、図書室へと向かうと優雅に今日も本を読んでいる。文庫本サイズのものだ。
何を読んでいるかは知らないけれど。
「来たのね、今日もするわよ」
「よろしくお願いします」
「渡した宿題はやってきたのかしら」
「分からない問題もあったけれど、一通りはやってみたよ」
「それならいいわ。少し待っていて、丸付けをするから」
数分間、丸付けをしてもらった結果はそこそこの出来で霧姫さんからのお叱りはない程度のものだった。
「まぁ、そこそこはできていますけれど。そこそこまでです。やるからにはしっかりとやりたいのでここからまだレベルアップをさせますから」
「ありがとうございます」
それからもいつも通りに霧姫さんが僕のことを教えつつ試験も段々と近づいてきたため、霧姫さん自身も試験の準備をしているみたいだ。
問題を解き分からないものや質問があるものは霧姫さんに順次答えてもらいつつ進めていくとあっという間に図書室が閉まる時間となる。
早いもんだよな。
普段はあんまり勉強しないけれど、こう人に教えてもらいながらしたりするとしっかりやろうという気持ちになる。
絵美里や羽鳥と一緒に勉強会をしたときは酷かった。
まず絵美里が飽きて僕と羽鳥に話しかけ始めいつの間にか勉強をしなくなり、ただ話す時間で終わったことなんてザラにある。
こうしてしっかりと学ぼうという気持ちになるのはしっかり者の霧姫さんだからだろうな。
「今日もありがとうございます」
「いえ、これは仮ですから。......そう言えば、周りでよくないこととか起こっていませんか?」
「大丈夫です」
「そうですか」
そう言って、早々に帰ってしまう。
大丈夫なのかなという気持ちはある。だけれど、霧姫さん自身が関わってほしくないという気持ちを抱えているからこれ以上踏み込んでいいのかという気持ちにもなっている。
色々な気持ちを抱えてはいるけれど、何もできないのが現状だ。
「はぁ......僕も帰ろう」
図書室を出て昇降口へ。
見るとやはり何か手紙のようなものを読んでいる。
「霧姫さん、大丈夫ですか」
「……まぁ、そうですね。大丈夫です」
繕って何でもないような顔をしてはいるけれど、手が少しだけ震えているのが見える。
「相談とか……」
「そういうの、大丈夫です。私は大丈夫ですから」
「そうですか」
やはりまだ踏み込んではいけないのか、警戒したように僕を突き放してくる霧姫さん。
「じゃあ、さようなら」
「……ええ」
一度だけみた霧姫さんの顔はやはり不安そうな顔をしていた。
その次の日。
相変わらず視線を向けられているような気がするが学校の授業を一通り受けて霧姫さんの後を追うようにして図書室へ向かうと、いつも通り霧姫さんは本を読んでいたが、机にはドサッとプリントがあった。
「来たのね」
「はい」
パタンと本を閉じて僕を見る。
「今日から試験まではこのプリントを渡してやってきてもらう。そして次の日には解説付きのものを渡してまた新しいプリントを渡すというやり方にすることにします」
「えっと、それはどうして急に?」
「その方が効率的だと、私は考えたからです。何か疑問はありますか?」
直接教えてもらう方がその場で聞けるから早そうだけれど。
そう思ったけれど口には出さなかった。
何か霧姫さんなりに考えがあるんだと思うから。
「わかった。じゃあその方法でやりましょうか」
「では、今日の分はこれです。明日までにやっておいてください。それでは」
そう言って颯爽と図書室を去る。
この形式をとるには多分理由がある。
霧姫さんは優しいんだ。僕にこの件でかかわって欲しくないから。僕に嫌な思いをしてほしくないからそうしたんだ、と思う。
勝手な考えだけれど。
もしかしたら僕と一緒に勉強することが嫌になったとかだったりもするかもしれないけれど。
............そう思うと、なんだかそっち方が確率が高いような気がしてきた。
あの無残にも告白してきた人たちを散らす霧姫さんだから。
「はぁ……まぁどっちにしろ僕は何もできない」
それから、この形式で勉強を行うようになる。
毎日、宿題として出されたものを淡々とこなす。
次の日には帰ってきたものの解説を読む。
図書室で一言二言会話して、すぐに霧姫さんは図書室から出て行ってしまう。その顔はやはり不安そうで。
段々と日がたっていき来週には期末試験が控える日までになってしまった。日を追うごとに霧姫さんの不安が増していくばかりのように思う。
「これは今日の分です。明日までにはやっておいてください。それでは」
このままで、僕はいいのだろうか。
このまま、霧姫さんのことを放っておいていいのか?本当に彼女のためになるのだろうか。
もしこの関係が終わって、段々とかかわりが薄れていき霧姫さんと完全に関わらなくなったときに僕はこの時のことを悔やむだろう。
であれば、僕のやるべきことはなんだろうか。
帰ってきた解説がついている紙には、何か跡のようなものがついている。
これは...........涙のあと?
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