第4話 不安
霧姫さんになんとか、お金を返した次の日の朝。
「なぁ、どうなってるんだ?」
「な、なにが?」
「なんで、赤塚が霧姫の事を恐喝してお金を巻き上げたという噂がたっているんだ」
そう、今その噂で教室中どころか少しづつ学年にその噂は蔓延っている。
「違うんだ、と言っても信じてくれそうな雰囲気ではないよな」
「そうだな、で実際のところは何があったんだ?」
「それはね.............」
昨日起こったことを話す。図書室での勉強についてまでは言わないけれど。
すると、ため息をついて僕の方を見つめてくる。
「お前な、人を助けるのはいいことだけれどあんまり厄介ごとに突っ込みすぎると自分が被害を被ることぐらいわかってるだろ?今だってほら。変な噂が立っているし」
「それは、分かっているけれど」
「それとも、まさか.............」
羽鳥は僕の肩を寄せて小さい声で話す。
「なに?」
「お前.............霧姫の事が好きなのか」
「は?」
「だって、そんなに肩入れするなんて」
「はぁ.......僕がいつも助けた人に恋をしていたか?」
「それはしてないけれど」
「僕はただお節介を焼いただけだ。だから、多分うざがれているんじゃないか?」
「そうなのか。まぁ、そうか。それに相手は霧姫だもんな」
「そうだよ」
そうあの霧姫さんだ。
告白した相手を粉々にしてチリも残さないほどの火の玉ストレートを投げる人だから、仮に霧姫さんが好きでしょうがない人でも余程の勇気がないと告白できないし、何より霧姫さん本人がまったくと言っていい程、恋愛に興味がないのだから意味がないのだ。
それから、絵美里が教室へと来て、やはり噂が耳に入ったのか僕に詰め寄ってきたので羽鳥にしたように説明する。
「ふぅーん。はぁ....................でも晴夏は厄介ごとに自ら突っ込む癖があることは知っているから今更なにか言わないけれど、あんまり深入りしすぎないでね?」
「うん」
僕が今までこんな感じだったため、絵美里は呆れて忠告をしてくれる。絵美里は本当に優しい子だ。
それからはいつもと変わらない普段の生活を送り、放課後になった。
まぁ、普段と変わらないって言ってもあらゆる方面から好奇の眼差しを浴びせられたり、一部の男子からは何故か嫉妬のような視線も送られたり、蔑視されたりもしたが、実害はなくその視線を気にしなければいつもと何も変わりはしなかった。
だが、放課後。
いつもと違うことがある。
これから、霧姫さんに勉強を教えてもらうというイベントがあるのだ。
既に図書室へと行っているのか霧姫さんは教室にはいないので、僕も鞄を持って図書室へと向かう。
人目を避けるように設置されたあの場所へと行くと、霧姫さんが座って本を読んでいた。
その姿に眼を奪われて呆然と立ち尽くしてしまう。なぜか、すごく儚くそして美しいその光景に見とれてしまう。
「....................早く座ったらどうなのかしら?」
「あ、ごめん。ぼぉーっとしてしまって」
そんな僕に気づいたのか本を閉じて呆れたように僕にそう言ってくる霧姫さん。
僕も霧姫さんの対面に座り、カバンから教材を出す。
「はぁ、さて、では早速始めましょう」
「うん」
「赤塚君はどの程度の成績なのかしら?」
「えぇーっと学年の順位は28位くらいかな」
「.............それって私が教える意味はあるのかしら」
「それが、僕は好きな教科はすごく強いけれど苦手な教科は滅法弱くて」
僕の成績のいい部分の大体は文系科目でできている。
現代文、漢文、古文、日本史、あと英語も強い。学年で霧姫さんを差し置いて一位になることだってあったくらいだ。だけれど、理系科目になると散々な結果になる。下から数えたほうが早い。そのくらいダメなのだ。
「.............ときどき私が二位になるのはあなたのせいだったのね?」
「そうですね。すみません?」
「....いいわ。謝る事ではないもの。では私は理系科目を教えればいいのね?」
「お願いします」
「では、まず数学から」
それから霧姫さんに数学を教えてもらうのだけれど、これがすごく分かりやすい。
普段の授業で使ったノートを使って説明してくれていて、ノートには先生が言ったことを細かくメモを取っていて、わかりやすく、ただ写しているのではなく工夫されていることが分かるノートだ。
それに、霧姫さん自身で分かりやすく他の簡単なものに置き換えてくれたりと至れり尽くせりでバカな僕でも理解できる。
そうして有意義な時間を過ごしていると、時間というものは早いものですぐに図書室が閉まる時間になってしまった。
「じゃあ、今日はここまでで。私は帰りますから」
「はい。ありがとうございました。気をつけて帰ってください」
彼女は何も言わず、図書室を足早に去っていく。
僕も少し間を置いてから、図書室を後にする。
僕たちは契約のもと一緒に行動しているだけであって、霧姫さんはあんまり人と関わりたくはないだろうから、一緒に帰ろうなんて言わない。
階段を下りて、下駄箱の所まで行くとさっさと帰ったと思っていた霧姫さんが何か手紙のようなものを読んで立ち止まっていた。
話しかけたほうがいいだろうか。
.............いや、やめておこう。
私情に口出しできるほどの関係ではないから。
そう思って僕は下駄箱から靴を取り出してそこから去ろうとするけれど、一瞬見えた霧姫さんの横顔はどこか不安そうな顏をしていたのはどうしてだろうか。
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