第2話 お節介

「おはよう、赤塚」

「うん、おはよう」


 友人の羽鳥は、元気そうに挨拶をしてくれる。


「おっはよー、二人とも。元気してる?」

「まぁ、元気だよ」


 もう一人の友人である斎藤絵美里がテンション高く挨拶をしてくる。


 斎藤絵美里、こいつは僕の幼馴染で小学、中学、そして高校まで一緒で、何故か絵美里とは切っても切れない縁のようなものを感じる。


 昔は、こんなハイテンションでもなかったはずだけれど、今ではこの通り。活発な、まるで犬のような感じであり、茶髪のショートカット、体はスポーツマンのような体つきをしているが、出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる。非常に女性らしい体つきではある。


「なに?どうしたの晴夏?」

「な、なんでもないよ」


 そして、やけに嗅覚も鋭いところも犬のようだ。


 三人でいつも通り談笑をしていると.........


「おはようございます。赤塚君」

「あ、え、はい。おはようございます」


 いきなり、霧姫さんがやってくる。


 手を見ると、僕の折り畳み傘を持っていた。


「昨日はありがとうございました」

「どういたしまして」


 簡素にお礼をして、僕に折り畳み傘を手渡してくる。


「では、私はこれで」

「はい」


 何事もなかったように霧姫さんは自分の席へ帰っていく。


 だが、絵美里や羽鳥はもちろんのこと、その他のクラス全員の視線が僕と霧姫さんに注がれる。


「な、なぁ。赤塚」

「なに?」

「ど、どうして霧姫仲がよさそうなんだ?」

「仲がいい?違うよ、僕は、ただ昨日傘を貸しただけなんだ」

「傘を貸した?」

「昨日、夕方雨が降ったでしょ?それで、困ってそうだったから僕が押し付けただけ」

「なるほど」


 羽鳥は納得をした顔をしているが、絵美里は疑ったようないぶかしげな視線を送ってきた。


 教室の人も納得はしてくれたみたいだが、こういうことはどうしてか噂のようになるだろう。


 少々、面倒くさくなるような気がする。


 その後、一時間目、二時間目、三時間目も終わり、昼食となった。


 朝のちょっとした出来事はやはりというべきか広がって他のクラスまでその出来事を知った状態となり、廊下を歩くだけで何かとちらちらと見られるので、面倒くさい。


 霧姫さんは、この学年では知らない人はいないというくらい良くも悪くも知られているため、噂になるのも仕方が無いと言えばそうなのだけれど。


「赤塚も大変だな」

「そうだね」

「晴夏、一緒にご飯食べに行こう」

「おっけー。でも、今日、お弁当作り忘れたから購買で何か買ってくる」

「分かった、待ってるね」

「うん」


 後ろから、元気よく飛びつく絵美里を宥めてから、購買へ。

 

 今日も男子学生で溢れる、活気あふれる購買に着く。


 この中へ飛び込むことは、少しためらわれるなぁと思いながら少し離れたところで見守っていると、ふと、霧姫さんがいるのを見つける。


 霧姫さんも、この中に飛び込むのは躊躇われるのか、じぃーっと眺めていて入る機会を伺っているが、おそらくこの購買戦争が終わった後には不人気なものしか置いていないだろう。

 

 そうなる前に、僕は勝ち取ってこなければ。あいつらも待っていることだし。


 どうにか人の山をかき分け、やっとパンが売られているのが見える位置まで来た。


 さて、校内一番人気の激うまカレーパンは......あ、あった。残り三つ!!


「すいません、激うまカレーパンをひと......」


 ......今、霧姫はまだ、あそこでじぃーっとしているのだろうか。


 昨日の件で、ごく微量ながら接点ができたからって、そこまでお節介を焼く必要あるか?


 ......えぇい!!もう、なんと言われようが、どうでもいい。


「すいません、激うまカレーパンと、やば旨メロンパン二つください」

「はいよ」


 おばちゃんから戦利品を貰い、むさ苦しいところから抜け出す。


 ふぅ、やっとまともに息が吸える。

 

 さて、霧姫は……いた。


 未だに、あそこでじっとしている。


「あ、あの。霧姫さん」

「……」


 僕が呼ぶとちらりと興味なさげにこっちを振り向く。


「これ、どうぞ。ずっとそこにいたので」

「…いりません」

「お願いします、気に入らなければ捨ててくださっても構いませんから」


 無理やりにまたも押し付け、走り出す。


 ほんのすこし後ろを向き、霧姫さんの方を見ると未だに僕があげたパンを見つめていた。


 階段を上がり、二人のところへ戻る。


「もー遅いよ」

「ごめん、購買が混んでてさ」

「まー、それはそうだけれど。さっ、揃ったし食べよっか」

「いただきます」


 三人でいつも通り食べはじめる。


「午後の授業の体育すごい面倒くさいんだけれど」

「春夏は体育苦手だもんね」

「でも、勉強するよりはましじゃないか?」

「それは、そうなんだけれどね」


 他愛のない話をしながら、昼食を取っているとふと教室に入ってくる霧姫さんを見つける。

 

 手には、僕が渡したパンと自販機で買った水を持っていた。

 

 捨てないでおいてくれたんだ。


 お節介だとは分かっていたし、今までの霧姫さんの噂から棄てられてもおかしくないとは思っていたから、良かった。


 そして、霧姫さんは席に着きもう一度じっとメロンパンをじっとみて、ゆっくりと周囲を確認する。


 まずいっ


「なにしてるの?春夏」

「い、いや。なんでもないよ」

「なんか、おかしいんだよね?さっきの話聞いてた?」

「き、聞いてたよ」

「本当かな?じゃあ、なんの話をしてた?」


 何の話をしてたんだ?えぇーっと、霧姫さんが水を買った話?それとも、パンを捨てなかった話か?


「え、えぇーっと、今日の天気の話?」

「ほら、やっぱり聞いてない!もう!」

「ごめん」

「はぁ、ちゃんと聞いててよ。今週の休日遊びに行こうっていってたの」

「いいよ、行こう」

「聞いてなかった分、私にパンケーキ奢ってね?」

「えー、あのパンケーキ高い………」

「奢って」

「……はい」


 まぁ、これは僕が悪いし、しょうがないか。


「パンケーキは私ひとりじゃ厳しいから分けてあげるね?」

「俺にも、奢ってくれ」

「いや、お前は自分で買え」


 どうにか、絵美里の許しを得て、三人で食事を再開する。


 二人にバレない様に、ほんの一瞬だけ霧姫さんの方を見ると、彼女はもぐもぐとメロンパンを食べていた。

 


 


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