人間不信のクラスメイトの女子を甘やかしたら、逆に溺愛してくるんだけれど

かにくい

第1話 傘

「赤塚ー、一緒に帰ろうぜ」

「いや、無理。先生に手伝い頼まれてる」

「そっか。じゃあ、先帰るわ」

「おっけー」


 資料室から、教材を教室に運んでおけばいいんだよな。


 まったく、あの先生は僕の事を便利屋かなにかと勘違いしているのかな?


 確かに、課題とかやらない僕も悪いんだけれど。


 言われた通り、資料室から教室へ中身が入ったかなり重い段ボールを教室へと運ぶ。


 はぁ、面倒くさい。


 やっとの思いで教室に運び終わる。


 教室内には、ほとんど生徒はおらず部活か、帰ったかのどちらかだ。


 だが、もちろん残っている生徒もいる。


 一人だけだが。


 ちらりと、その例の人の席をみる。あそこだけ空間が隔たれているんじゃないかって程近寄りがたい。


 その人の名は、霧姫冴姫。僕のクラスに所属しているものすごく美人な人だ。キリっとした顔つき、黒くて長い綺麗に手入れされている髪。唇は瑞々しく、肌は真っ白で、スタイルはモデルにも余裕で勝てるくらいの女性である。


 だがしかし、あの人は入学してから今日まで誰も傍に近づけさせない。男はもちろんの事、女の人さえも近づけないのだ。命知らずの、自分格好いいと思っている奴が声を掛けていったが.......。


「あの、霧姫さん。今度、一緒にどこかへ行こうよ」

「嫌です」

「絶対に楽しいと思うんだけれど」

「口が臭いです。あなたと一緒に行動するっていうのなら、ワニのいる池に飛び込んだ方がマシです。それに、あなた、自分の事を格好いいと思っているでしょう?そんな自尊心の塊のようなゴミのような人間.......いえ、人間に失礼だわ。訂正、ゴミと一緒に歩く?考えただけでも虫唾が走るわ。.......それで?なにか用?」

「な、なんでもありません」


 無論、このように惨敗。


 その後も、いろいろな人に声を掛けられては無残に振っていき、未だに彼氏はいないらしい。


 まぁ、まだ二年生だ。これから誰か仲良くなる人が現れるかもしれないけれど。


 だが、すべての事に冷たいという訳ではない。別に話しかけただけで罵られたりはしない。普通に事務的な内容なら応えてはくれるんだよな。それ以外は喋ってくれないけれど。


 あの人は、教室の隅、窓際の席で本を読んでいた。


 目線を横へとずらし外を見ると、さっきまでは晴れていた空が段々と曇りになっていき今にも雨が降りそうな感じがしている。


 三十分前くらいは晴れていたのに。それに、今日雨降るなんてニュースで言ってなかったしな。


 早く帰ろう。


 だがその前に。


「霧姫さん、教室任せても大丈夫でしょうか?」

「はい。問題はありません」

「ありがとうございます。霧姫さんも、もうすぐ雨が降りそうなので早く帰った方がいいと思います」

「忠告ありがとうございます」


 冷たい人間だからと言って、何も言わずに帰るのは気が引けるので声だけはかけて置く。


 さて、僕も帰るとするか。


 教室を出て、昇降口の方へ行こうとすると。


「あ、先生。荷物は運んでおきました」

「お、赤塚。ありがとな」

「本当ですよ。疲れました」

「課題を出さなかった罰だ。あ、それとほら、これ」

「え、いいんですか?」

「いいよ。いつも手伝ってくれるお礼だ」

「ありがとうございます」

「そういえば、赤塚。今週の漫画読んだか?」

「あ、読みました。良かったですよね」

「あぁ、ほんとすごかったな」


 この担任の、冴島先生とは漫画の趣味が同じで喋ることが多い。それもあって、僕に頼みごとをすることが多いのだ。


 長々と三十分程度話していたが、ふと雨が窓を打ち付ける音が耳に入る。


「あぁ、外雨降ってきたな。ごめんな。喋っちまって」

「いいんです。僕も楽しかったですから」

「そうか。じゃあ、また明日な。気をつけて帰れよ」

「はい」


 雨が降り出してはしまったが、大丈夫。折り畳み傘は準備してあるから。


 階段を下りて昇降口へ行くと、一人の女の子がポツンと立っていた。


 霧姫さんだ。


 あんなところでどうしたんだろうか。ぼぉーっと外を眺めている。もしかして、傘を持ってきていないのだろうか。


 .............まぁ、喋りかけたところで


「喋りかけないでください。あなたからの善意何て気持ち悪いだけです」


 こういわれるか、無視されるだろうな。


 早く帰ろう。


 下駄箱から、靴を取り出してカバンから折り畳み傘を出す。


 いざ一歩を踏み出そうとするけれど、足が止まる。


 彼女の方を見ると、未だにぼおーっとしている。


 .............はぁ。


「あの、霧姫さん」


 声を掛けると、空に向いていた顔が僕の方へ。


「これ、貸します」

「……いえ、大丈夫です」


 そういって、また空を眺める。


「傘が無いんですよね」

「そうですね。ありません。だから止むのを待ちます」


 そうそっけなく返される。


 何時止むのかも正確には分からないのに。


「これ、貸します」

「いえ、大丈夫です」

「貸します」

「しつこいです」


 そうバッサリぶった切って会話を終わらせる。だが、なんだか僕もイライラしてきた。


 僕は霧姫さんの手に無理やり僕の傘を握らせる。


「使ってください。明日返してくれればいいので」

「.............」


 霧姫さんは、折り畳み傘をじっと見つめる。


 無理やりにでも返されて、後日、風邪を引かれてしまったら、後味が悪いし早く帰ってしまおう。


 そう思って、雨の中へ一歩踏み出した。

 




 


 


 


 

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