第20話 

「どこに行ったんだ」

「お願いだ、返事をくれ」

「無理に会ったりしないから」

「俺を許せないなら、もう2度と会わないから、だけど償いだけはさせてくれ」


何度もメールを送ったが、彼女からの返事が来ることは無かった…。


そして捜索願も空しく、彼女はそのまま姿を消してしまった。

誰にも何も告げず…。


携帯は生きているらしく、何度か電話を鳴らしたが電話に出ることはなく、

メールを送ったりもしたが、返事が来ることは無かった。


京介は探すことを辞め、彼女の願い通りそっとすることにした。


数か月が経ったある日…

京介の携帯に警察から電話が入った。


彼女の携帯が見つかった、との連絡だ。

本人ではなく携帯?!

どういうことか分からず話を聞いてみると、見つかった場所は路上者の寝床ということだった。

別件で路上者を捜索していた際に見つかったものらしい。

橋の袂で拾ったと路上者は話していて、京介に確認に来て欲しいと告げられた。


京介は、直ぐに警察へ出向き、それが彼女のものでないことを祈った…

が、祈りは空しく、彼女の携帯そのものだった。


事件性があるかも知れないとのことで、携帯は京介の手に渡ることは無く、

路上者が見つけたという現場へ行ってみたが、手掛かりは無かった。

橋から下を覗くと、ごうごうと淀んだ川の水が交流しているのが見て取れる。

海と川がちょうど合流する辺りの、激しい渦巻に全てを飲み込まれそうな恐怖感が京介を襲った。

言い知れぬ不安が京介を襲ったが、否定したい気持ちがそれを上回った。


彼女はその後、完全に行方を絶ってしまった…。

あれから約12年…

未だ彼女は見つかっていない。


京介は彼女が生きていることを信じ、毎年、携帯が拾われた日には橋の袂へ行っている。

どこかで生きて幸せになってて欲しいと思いながら…。


俺は人でなしなんだ、人を愛する資格なんてない!

自戒と自責の念から逃れられず、京介はその日から、人を愛することが怖くなり、

人を愛する方法を忘れてしまった。

もう2度と人を愛さないと心に決め生きてきた。


前園綾に出会うまでは…


前園綾は、彼女に酷似していた。

しぐさや声、顔つきまでそっくりだった。

丁度、彼女が行方不明になった当時の年頃の様(さま)に。


京介は、前園綾のことが気になってはいたものの、人を傷つけることを恐れ遠くから見守ることにしていた。

部下の本田圭吾と付き合っていることを知っても、正直喜んだくらいだ。

いつしか前園綾に彼女を重ね心から幸せになって欲しいと願った。


そんな綾が悩んでいる…

京介は気が気じゃなく、先日、半ば無理やり残業を頼んだ。

前園さんは何も話さないが、何かあったのだろう、あんなに号泣するなんてただ事ではない。

妊娠してるかも知れない彼女がとても心配だ…。



ぼんやりと考え込んでいると、時間は夜中の12時を回っていた。

慌てて帰り支度をしようとPCの電源を落とそうとしたとき、

二宮京介のPCがメールの受信を告げた。

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