第19話 嫌な予感

「う…ん、イテテテ」

京介が目を覚ましたのは、彼女の病室だった。

どうやらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。

腕時計を見ると、あれから3時間も経っていた。

左腕を下にしたまま眠っていたらしく、固まって痛む。

痛む左手を曲げたり伸ばしたりしながら布団の膨らみを右手で確認した。


ばふっ。

という音と共に、布団の膨らみは無残にもへしゃげてしまった。

ばふっ?え?

京介は嫌な予感がして布団をめくりあげると、

そこには彼女の姿は無く、毛布を人に見立てた塊が置かれていただけだった。

京介は直ぐに廊下を出て、ナースステーションへと駆け出した。


「ハァハァ、、す、すみません、3号室に今朝入院した女性を知りませんか」

「ええ、っと3号室…ああ、あの女性ですね?いえ…私は見てませんが、どうかされましたか」

同時に他のナースにも聞いてくれている。

「病室に居ないんです、どなたか彼女の姿を見ていませんか」

「いつからですか」

「それが…眠ってしまっていつからなのか分からないんですよ」

ナースは異変を察して直ぐに各エリアのナースへ連絡し始め、同時に手分けして探すよう手配してくれた。

京介も館内を走り回り、彼女を探した。

着替えを持っていないから遠くへは行けないはず…

だとしたら院内しか考えられない。各病室、階段、廊下、植え込み、トイレ、探せるところは全て探した。


いや…探してないところがある。

京介はじわりと背中に流れる嫌な汗を感じた…


屋上だ。


この病院の屋上は緑化活動をしていて、昼間は患者のために開放している。


もしや、いや、そんなことは…

京介は妙に冷えた汗を背中に感じながら屋上まで駆け上がった。


びゅうううううう~

ドアを開けた瞬間、すさまじい風と太陽の光が京介の視界を奪った。


奪われた目線を外に移した先、そこに…


彼女の姿は無かった。


屋上は緑化こそされていたが、ドアからすべてを見渡せるようになっていた。

京介は外に出て、一応、くまなく探してみた。

が、やはり彼女の姿は無かった。

「一体、どこに行ったんだ」

ホッとしたものの、どこに居るのか分からない不安で、京介はその場にへたり込んでしまった…。


しばらくして、京介は何かに気付いたようにズボンのポケットを探った。

取り出したのは携帯。

彼女の携帯を鳴らしてみようと考えたのだ。出てくれるとは限らないが…。

京介は彼女の番号をリターンしようとして、メールが入ってるのに気づいた。


彼女からだった。


「京介、ごめんね」

「私はもう京介とは一緒に居られない」

「このままそっとしていて欲しいの」

「探さないで」

「お金、ごめんね、少しだけ貰いました」

「元気でね」

「愛してました…」

「さようなら」


最後の時間は、2時間も前だった。

俺はまたも彼女の異変に気付かず眠り呆けてしまっていたのか!!

病室に戻ると、財布から3万円がなくなっていて、

代わりにレシートの裏に「ごめんね」と書かれたものが挟まれていた…

直ぐにナースや医者が病室に駆け込んで来て、彼女がどこにもいない旨を伝えられた。

京介は自分のメールを見せ、警察へ届け出ることにした。

捜索願を出すよう警察に促され、京介は少し迷ったがそれを承諾した。

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