第18話 二宮京介の過去

シンと静まったオフィスの中で、二宮京介は考えていた…

昼間の前園さんの様子…あれはどう見てもおかしい。

昼休みを終えて綾と別れた後、ひとつの疑念が頭の中を過った。

電車での貧血、今日の食欲不振、、、

彼女はもしかして妊娠しているのではないだろうか?


……京介には実は誰にも言えない秘密があった。


京介はずいぶん若いころから女性には苦労しなかった。

学生時代には王子様と呼ばれるくらいに人気があった、

だからだろうか、京介は自分に落とせない女は居ないとのぼせ上っていた時期があった。

二股も掛けたし、女性を泣かせることもしばしばのクソ男だった。


大学院へ進んで間もなくの頃、京介に心から愛せる彼女が出来た。

京介は彼女のことをとても大事にしていたし、彼女も京介のことを愛していた。

京介の女遊びはなくなり、周りからは、年貢の納め時か?と言われていた程だ。


あるコンパの夜の事、京介は珍しく酔っ払ってしまい、あろうことか、

別の女性と一夜限りの関係を持ってしまったのだ。


それから数日後のこと…

その女性が彼女に京介と関係を持ったことを言い、別れを迫った。

当然、彼女は俺の事を信じたし、ありえないと突っぱねて別れを拒んだ。

その様に腹を立てた女は、次第に彼女を陰で虐めるようになった。

バカな俺は、そのことも知らず彼女と接していた。

日々、痩せていく彼女の様子にも気付けないくらいに恋愛ボケをしていた。


ある日の夜中、

彼女の携帯から電話が入った。

真夜中に電話が入るなんて珍しいと思って電話に出ると、

騒々しい音と共に数人の男たちの声、そして、

「お願い、止めて!」

「いや~!!!」

「助けて、お願い」

明らかに彼女の叫び声が聞こえてきた。


京介は何が起こっているのか分からず、携帯に向けて、とにかく彼女の

名前を呼び続けた。


すると、

「いや~、すみませんね~、この女いただきますわ!」

見知らぬ男の声が聞こえてきた。

京介はありったけの声で叫んだ。

「どこなんだ、そこは?」

「言え!一体そこはどこなんだ!!!!!」

「港町ふ頭の~中の~倉庫~ぉ?」

「どこの倉庫だ??」

「自分で探せや!でもあれだな?笑、お前が着くころにはもう終わってるかもな~?」

「くそが!!探し出してお前らを残らず…」

「プツッ.ツー.ツー.ツー.ツー.……」

言い終えないうちに電話が切れてしまった。


取るものも取らず倉庫へ駆けつけ、しらみつぶしに探し回り、

やっと彼女を見つけたのは空が白みかけた頃だった…


京介はその時の光景を今も忘れられない。


倉庫の片隅で、引きちぎられた服を寄せ集めて懸命に隠し、

縮こまって泣きながら震えている彼女の姿を…

彼女に近づいたときの恐怖に怯えた表情を…

京介は彼女をそっと抱いて、病院へ連れて行った。


恐怖で布団の中で震えながら泣く彼女を、

「ごめんなぁ…ごめんなぁ…」

京介は泣きながら布団の上から彼女を抱きしめるしか出来なかった。


そして、さらに悲劇は起こったのだ…。

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