第15話 罪深き後悔
早苗は、酷く後悔していた・・・・
黒い雲に覆われたどんよりとした空が、早苗の心をさらに重くした。
圭吾の今の状態を知らせるべきだと思って来たはずなのに、
結局は知らせることが出来ず…
返って綾のことを悲しませてしまった。
一体、何をしにここまで来たの?
自問自答を繰り返しながら、
ネオンが点き始めた町並みを当てもなく彷徨っていた。
スカーフを渡したことは間違いだった・・
どうしても話せないときのためにスカーフを渡そうと思っていたのだ。
綾の家に来た理由を求められるのは分かっていたから…。
しかし、あの様子から、綾にはスカーフに思い入れがあったようだった。
それもかなり深い…。
綾のスカーフは圭吾の部屋のゴミ箱から見つけていて取っておいたものだった。
ゴミ箱に捨てた割には綺麗に畳んでいて、
まるで誰かに見つけて欲しいかのようにそっと置かれている状態に見えた。
早苗は圭吾の気持ちが垣間見えた気がして、ごみ箱から拾い上げた。
その柄から女性物であることは容易に分かっていた・・・。
綾の持ち物であることも。
それがまさか、
綾にとって思い入れのあるものだったなんて・・・
あの時、何故私は挑戦的にスカーフを取り出したんだろう。
出向いた理由は考えれば他にもあったはずなのに。
彼女は妊娠をしている可能性があった・・・。
なのに、不安定な気持ちを増徴するような事を言ってのけた自分が呪わく思えた。
しかも“一緒に暮らしている”と嘘まで吐いてしまった・・・
これじゃ、まるで恋路を邪魔してるだけじゃない!
何故?何故?何故?
次から次へと湧き上がる疑問。
!!!!!
早苗は気づいてしまった。
とうの昔に葬ったはずの自分の気持ちに・・・・
“わたしは圭吾を愛している”
なんのことはない。
本心は圭吾と綾を会わせたくはなかったのだ。
自分を偽って、
綾に会う理由を考えて、
結局は、綾に決定打を与えに行きたかっただけなのだ。
なんという愚かな行為なのだろう・・・
これが医者のする行為なの?
早苗は激しい嫌悪感に襲われた。
自分自身を消してしまいたいとさえ思った。
黒い雲はより一層厚くなり、空一面を覆った・・・
ぽつ ぽつ ぽつ ・・・・
小雨は段々とどしゃぶりになり、早苗を激しく撃った。
今の自分の気持ちと同じだと思った。
しばらく雨に打たれながら歩いていると、
雨の中にひっそりとたたずむ教会を見つけた。
ほの暗い街頭に照らされた小さな古い建物・・・
まるで今の早苗の気持ちを察したかのように、
両手を広げて自分を迎えているように見えた。
引き寄せられるように導かれ、その建物の重いドアを開け中に入った。
目の前に、主 イエス・キリストの像が映し出された。
キリストの像は泣いているように見えた。いや、正確に言えば早苗には泣いているように見えたのだ。
早苗はその場にひざまずき、両手を胸の前で組んだ。
嗚呼・・・
主、イエス様・・・わたしの罪をお許し下さい・・・
その祈りはいつまでも いつまでも 止むことは無かった・・・・
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