第11話 電車の中の悪夢

月曜日になった。

綾は、満員電車の中、先週の部長との出来事を思い出していた。

あんな醜態さらしても部長は嫌な顔ひとつしなかったな。

部長の…ワイシャツ…涙でぐちゃぐちゃにしちゃったのに、あたしの心配ばかりしてたな。

なのに、恥ずかしさで逃げるように帰ったあたし…失礼なことをしちゃった。

結局、「人間さん」とはあれっきりになってしまったから相談も出来なかったし…

どんな顔して会ったらいいのかな、、

そんなことを考えていると


さわ さわ

さわ さわ さわ


綾のお尻の辺りの感覚がおかしい。

最初はカバンや荷物が当たってるのかとも思ったけれど、どうも違う。


!!!!!


痴漢だ!!

その手は動きを休める様子もなく、

さらにスカートの中に割って入ろうとしている。


なんとかしなきゃ、こ、、声を出さなきゃ。

助けを求めなきゃ。


綾は、恥ずかしさと恐怖で真っ赤な顔で泣きそうになりながら声を出そうとした。

「た…」

すると、あろうことかその痴漢は綾の助けを求める声をかき消すように耳元で、、

囁いた。

「大声を出して助けを呼んで困るのは君だよ?周りの人に知られてもいいのか?」

綾はその言葉に恐怖を感じ、思考は停止し、ただ駅に着くのを祈るのみとなってしまった。

益々痴漢の手の動きは遠慮がなくなり、綾はされるがままになっていた。

悔し涙を堪えきれなくなり、もう限界と思ったところで、

「いてて!!!」

綾は何が起こっているのか理解できないでいた。

その方向さえ見ることも怖い。

痴漢の手を掴んでその手を捻る人物が、

「現行犯ですね、駅員室へ行きましょうか」

そう言うと、自分がしていたネクタイで痴漢の手をぐるぐる巻きにした。

あれ?

聞き覚えのある声?

綾がその方向を振り向くと、


あ…

「二宮部長!!!」


綾は安堵からか、思わず大声を出して名前を呼んでいた。


「〇〇駅~ ○○駅~、お降りの方はお忘れ物のないようお降りください」

社内アナウンスが聞こえた。

と同時に、綾の意識が途絶えて行くのが分かった。


「前園さん! 前園さん!」


薄れゆく意識の中、二宮部長の心配そうな顔が見えた。

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