第9話 「抑えられない気持ち」

満月が美しい・・・

満月には昔から不思議な魔力があるって聞くわ。

赤ちゃんが生まれるのも満月が多いし、そう言えば満ち潮の時も。

窓を開けると5月の爽やかな風がカーテンを軽く揺らす。

美味しいカフェ・オ・レを飲みながら。綾は窓際に座って、満月を見ていた。

頬に当たる柔らかな空気。とても清々しい気持ちだった。


あれから1時間が経ったかな・・・“「人間さん」”は今までこんなに返信が遅かったことはなかったわ。

嫌われちゃったかな?まだ知り合って間もないのに会いたいだなんて・・・

綾は急に恥ずかしさが込み上げてきた。


その時。

携帯がメールの受信を告げた。


綾は、ドキドキしながら携帯を自分の胸に抱き、祈りを込めるようにメールを開いた。


「ごめん、逢えない」


たったひと言だったが、綾を落胆させるには充分すぎる言葉だった。


ど う し て・・・・・?


どうしてなの?

やっぱり軽い女だと思われたのかしら?それとも嫌われちゃったのかしら?

嗚呼・・・・こんなことだったら会いたいなんて書かなければ良かった。

綾は何回も「どうして?」と打っては消してを繰り返した。

でもどうしても聞く事が出来なかった。帰ってくる言葉が怖かったから・・・。

綾は深い悲しみと恥ずかしさに包まれていた。

もうアドレスを消してしまおうかとさえ思った。


すると。


「誤解しないで。ただ、今はまだその時期じゃなくて…。

いつかきっと会える日が来るからそれまで待っていてくれる?」



ますます意味が分からない。

何で今は会えないんだろう・・・?時期って??

綾は、もやもやする返事ににしばらく呆然としていた。



「何か事情があるんですね。分かりました」



やっとこの一行を打つことが出来たのは、あれから30分も経ってから。

その間、綾は消しては書いて、書いては消してを繰り返していた。

その時思ったのだ。“メールの「人間さん」”からの返事も遅かった。きっとあたしと同じで

何回も書いては消してを繰り返したのだろう・・・・そんな事を考えると胸が締め付けられる思いがした。

あたしが「会いたい」と言ったばっかりに・・・

綾はごめんなさいと言う気持ちで携帯を胸に握りしめていた――


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