一日

深茜 了

一日

九時00分


起床する。

今日は休日なのでゆっくり寝ることが出来た。

早起きが得意ではない自分にとって、これが休日の魅力のひとつである。


顔を洗いに行く。

洗顔中顔を上げて鏡を見ると、当然ながら自分の顔が映る。

三十歳という年相応の顔だとは思うが、昨日の疲れが残っているのか目の下にうっすらとクマが出来ている。



九時三十分


テレビを見ながら朝食を摂る。

情報番組とバラエティー番組を足して二で割ったような番組を見ながら、トーストにマーガリンを塗って食べる。

自分の部屋の周囲から騒音や人の声はしない。それが自分に安心感をもたらしてくれる。



十一時00分


自宅の地下室に足を運ぶ。

鉄でできた重たい扉を開けると、部屋の中に居た少女と目が合う。

コンクリートの床に座り、両手を縛られ片足を鉄の鎖で繋がれていた。

自分が昨日の夜連れてきた少女だ。年の頃は十代後半くらいだろうか。


少女は僕が入って来たのを見ると、目を見開いて大きな悲鳴を上げた。

彼女を拘束しているものから逃れようと暴れるが、こちらも素人ではない。ほどけないようにしっかりと拘束してあった。


「もう少し静かにしてもらえませんか・・・僕、大きな音が苦手なんですよ」


そう言って少女の傍に座り、手足の拘束の具合を確認する。これなら夜まで問題無さそうだ。

この子はあと六時間半後に殺害するつもりだった。

僕が確認作業をしているさなか、暴れる少女の足が僕の脛に当たった。結構な痛みだった。


そして確認を終えると、僕は立ち上がって地下室の扉へと向かった。

すると背後から少女が、待って、出して、というようなことを必死に喚いた。

僕は扉を閉めた。



十四時00分


昼食にナポリタンを作って、それを食べながら映画を見ていた。

映画はねじれた恋愛もので、二人の男と一人の女の三角関係の話だった。

一人の男が、自分が愛されないからといって女を殺してしまうシーンを見て、そんな理由で殺される女を不憫だと思った。



十五時三十分


お気に入りのクラシック音楽をかけながら、室内に置いているサボテンの世話をした。サボテンの世話が終わると、ソファーに腰掛けて一息ついた。ちょうどクラシックが悲愴ソナタになった。自分の一番好きな曲だった。



十七時三十分


再び地下室へと足を向ける。扉を開けて少女を見ると、顔色は先ほどより更に蒼白になり、もう体力の限界のように見えた。それでも僕を見ると、やめて、やめて・・・というような言葉をつぶやいた。


そして、地下室に午前の時よりも壮絶な悲鳴が響き渡った。とても人間の叫び声とは思えなかった。

この時間が休日の、ひいては人生のうちの最大の魅力だった。

でもやはり、大きな音は嫌だった。しかしあの恐怖に歪む顔を見るには、悲鳴もつきものなのは仕方がないだろう。

質の良い耳栓でも購入しようか。終わった後そんな事を考えながら、僕は疲れたように息を吐き出した。


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一日 深茜 了 @ryo_naoi

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