第8話 ひとまず平和
みなさま、こんにちは。
さび猫ぺちゃこと申します。
ワタシと、薄っぺらと、薄っぺらのオットとの3人生活が始まりました。
時々、薄っぺらのお父さんが遊びに来ました。
さらに半年くらい経った頃には、母トモ子もついに訪ねてくるようになりました。
ワタシが来てからドタバタしておりましたが、ようやく穏やかな暮らしが始まり出しました。
ワタシの好きな日課は色々あります。
朝ゆっくりと起き出して、さらにゆっくりしている薄っぺらのベッドに行って、薄っぺらの寝ぼけた顔を見ること、やっと起き出した薄っぺらからもらう”おやつ”と呼ばれているものを半分だけ堪能すること、薄っぺらに蛇口を捻ってもらい、チョロチョロと流れ出る水を前脚で確認して、ちょうど良い生温かさになったらちびりちびりと飲むこと、薄っぺらがちゃぶ台でご飯を食べ始めたら、すかさず足の間に入ってのんびりすること、そして夜になったら、お散歩をして、綿棒を虫に見立てて、最後は飲み水の器に入れて仕留めたようなプレイをすること、などなどです。
夜のお散歩は、お部屋の端から端までを、薄っぺらの奇妙な自作の歌を聴きながら、ずっと行ったり来たりします。
「お〜さん〜ぽ、ぺちゃ、お〜さん〜ぽ、ぺちゃ」という謎の音程の歌と言いますか、繰り返しの掛け声と言いますか、不思議な音頭に合わせて10分くらい行ったり来たりします。
しばらくして、ワタシが疲れてひんやりとした床に落ち着くか、薄っぺらが疲れて先に終わりにするか、その時によってどちらかが散歩の終わりを決めるのです。
不思議な事に、毎晩毎晩同じ所を何往復もしているので、実際の景色は変わらないはずですが、何かいつも、風景が違って見えるような気がして、毎回新鮮な気持ちでお散歩しています。
きっと薄っぺらも楽しいに違いありません。
他の定番のこととしては、薄っぺらは、お出かけをする前に必ず鏡の前に座って、あれこれ顔の毛繕い?らしき事をするので、その一部始終を、薄っぺらのベッドの上から眺めます。
まあまあ時間のかかるその一連の作業を見ていると、決まって眠たくなって来ますので、目を閉じたり開けたりしながら、徐々にほんの少しだけ綺麗になっていく薄っぺらを見ながら、最後は目を閉じます。
作業を終えた薄っぺらは、少々満足そうな面持ちになって、身にまとう布を一段調子の良い物に取り替えて、バタバタと出かけて行くのです。
行って来ます
行ってらっしゃい
そんな何も起こらない毎日がワタシは好きです。
笑っている薄っぺらが好きです。
時々遊びに来る、薄っぺらのお父さんは、ワタシにとても積極的で、幾分か困ってしまいます。
今はまだ姿をお見せ出来ておりませんが、もう少しもう少ししたら、薄っぺらのお父さんとも遊べるような気がしていますので、お待ちください。
というのも、体が大きめで声のトーンが低い種類のニンゲンが苦手です。
薄っぺらのオットと、お父さんは目下ワタシが乗り越えねばならないニンゲン達ですが、オットに近づいて少しだけ楽しそうにしてみせると、薄っぺらが予想以上に喜ぶので、おそらくこの二人もワタシにとっては大切なニンゲンなんだろうな、とぼんやりと、少し疑いつつも感じております。
そして、苦手のものと言ったら、ご存知、無用なお風呂と、びっくりする爆音を立てながら部屋を練り歩く掃除機と、ベランダの向こうに見えるお隣ビルの屋上でふらふら時間を潰しているおじさん(お兄さんかもしれません)達です。
まず、ご存知のお風呂ですが、本当にご勘弁を頂きたいものです。
ワタシ達は、ニンゲンと違って、優れた舌で体の汚れをこそげ取れます。
ワタシ達の舌には、ざらざらとした突起が付いていて、これでベロンと汚れも匂いもすっかり取り切れます。しかしながら、ニンゲンときたら、猫もニンゲンと同じようにしなければ、と無知からの勘違をして、お風呂に入ってシャンプー?などという不必要な行為を押し売りして来ます。
ワタシは、1回目で、断固拒否の意思を強く強く表明しました、それはもう、体を張っての意思表明です。いわゆる大暴れです。
だいぶ苦戦した薄っぺらは、猫はシャンプーは要らない?という事を遅れて学んだようで、二度と仕掛けてくる事が無くなりました。本当に良かったです。
世の猫の諸先輩方々で、お風呂タイムがまだあるみなさんには、心から同情を申し上げます。奇跡的に楽しめていれば良いのですが。。。
そして、これはどうしても定期的にやって来てしまう、爆音で部屋中を練り歩く、あの、恐怖の塊事件です。
「ぺちゃ〜、ごめんよ、お掃除の時間だよ、ごめんよ〜」
と言った後に決まって、クローゼットから塊が現れて、長い長い象の鼻のようなものがぐねんぐねんと縦横無尽に動き回るので、何年経っても慣れません。
しかしながら、元来のビビリのワタシですが、このぐねんぐねんお化けが出動した時は、なぜか妙な勇気が出て、普段は出ない「シャーーー」がワタシの口から飛び出します。
ちなみに、お腹の底から何度も「シャーーー」と叫んで、ぐねんぐねんお化けに立ち向かうのですが、お化けの爆音はそれの何百倍もあって、毎度完全にかき消されてしまいます。
ぐねんぐねんとはおそらく、今後もお友達になることはないでしょう。。。
ちなみに、普段はこの家のどこで暮らしているのか、それも謎です、何を食べたらあんなに大きな声が出るのでしょか、不思議でなりません。
ぐねんぐねんの次にオソロシイのは、向かいのビルの屋上でふらふらしているニンゲン達です。
手に何か小さな白い棒みたいな物を持って、口に挟んだり、手に持ったりを繰り返して、小さな煙を出しながら、屋上でふらふらと所在なげに漂っているのです。
しかも、1日に何度も!
ワタシは、ある時から、こちらに関しては「シャーーー!」ではなく、「カカカカカーーーーッ!」で応戦することとしています。
応戦と言いましたが、とにかくイライラするのです。
我々が暮らすおうちの外で、ふらふらとしているおじさん、お兄さん達をみると、ついついイライラして「カカカ」と言ってしまうのですが、特に悪気は無いのでお許しを頂きたいところです。
以上、なんだかんだ申しましたが、ワタシはこんな日常が結構好きになりました。
とは言え、ずっとこの生活が続きますように、なんていう大それた事は願いません。物事も、考え方も、今存在する全ての事、物、現象は、ずっとずっと変わり続けるものです。
それが自然です。
「シアワセ」と呼ばれれている感覚も、ずっと動き続けて行きます、変わり続けて行きます。それを、積極的でも消極的でもなく、ただただ受け入れる、寄り添うのが自然な生き方なのでしょう。
ワタシはそう思います。。。
今日も眠くなってまいりました。
少し早いですが、おやすみなさい。
明日もまた、薄っぺらの笑顔が見れますように。。。と、心で静かに思ってふと薄っぺらに目をやると、「めんこいね〜」と言って、ワタシのおでこをぐしぐししてくれました。
おやすみ、薄っぺら。
さび猫ぺちゃこと申します 椰子海子 @chi1202sato
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。さび猫ぺちゃこと申しますの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます