第7話 籠城14日目・・・ついに?!
みなさま、こんにちは。
さび猫ぺちゃこと申します。
ワタシの籠城生活は、ついに1週間を超えて10日ほど経過しておりました。
この記録更新は、ただただワタシの根性の賜物と言っても過言ではないでしょう。
籠城期間が更新されればされるほど、自他とも認める忍耐の結晶のようなものとなりつつありました・・・
と、は申しましたが、ワタシもいっぱしの生後3ヶ月のさび猫です。
ワタシの根性と忍耐だけでここまで来れたと思うほど、腑抜けてはおりません。
元野良猫の眼力及び思慮深さは、きっちりと備わっております。
ここまで生き延びてこれた事への感謝の気持ちは、きちんと持ち合わせております。。。
と言いますのは、籠城期間中の薄っぺらと言ったら、笑ってしまうほど献身的に頑張っていました。
当然のことではありますが、「おしっこを片付ける」、「うんちを片付ける」、「お水をこまめに取り換える」、「ご飯を追加する」、「生存確認の為の母猫もどきの鳴き声を掛ける」、「深夜に煮干しタイムを欠かさない」、「その後の虫取りプレイも1時間から1時間半は頑張る」、「ぐっが〜る、ぺちゃ!キュートキュートぺちゃ!と鳴いてワタシを励ます」などなど。。。
薄っぺらにとっては、全て初めての事でしたので、何もかも手探りで行っているようでしたが、なんとかワタシが生き続けられるようにと、試行錯誤を繰り返しながら頑張っているのは、分かり始めておりました。
薄っぺらは、何日も何日も、懲りずにこのルーティーンを行い続けました。
彼女には子供はいません。更に、ひとりっ子で育ったため、妹や弟の面倒を見た経験もありませんでした。
親戚一同は遠い東北の地に住んでいるので、薄っぺらのお父さん、お母さんの3人ぽっちの小さな核家族で育ちました。
「お母さんの経験」はまるでゼロです。いわゆる母性ホルモンと言われる「オキシトシン」などは、今まで、一滴たりとも分泌したことは無いと言っても良いでしょう。
しかしながら、薄っぺらのワタシへの対応は、お母さんそのものでした。
中々頼りのないものではありましたが、日に日に、薄っぺらはワタシにとってのお母さんになりつつありました。
気がつけば、7日が過ぎ、10日が経過し、そろそろ丸2週間目に入ろうという所に来ておりました。
ドラム式の全自動洗濯機の下は、もう、だいぶワタシの体を納めておくには、物理的に無理がありました。それと同時に、精神的にもその狭い空間を飛び出して、自分の世界を広げていく強さが生まれつつありました。
さて、では、いつ、どのタイミングで籠城の完了を発表しようか。。。
どのようにして、籠城が終わりを告げたと知らしめるべきか。。。
だいぶ難しい問題です。
それらを考えるのに数日は必要でした。
そして、想像すると少しワクワクとした気分になりました。
数日経って、その時は突然にやって来ました。
丸2週間が経った籠城14日目のある朝、ワタシはいつものようにおしっこをするために、洗濯機の下から這い出して、トイレ砂に上がりました。
無事に用を足し、砂を丁寧に掛け終わった時、ワタシは、ふと、このままあの暗い下に戻るのはもうやめにしよう、、、と、突然思いつきました。
突然思い立ったのです。
薄っぺらはどんな表情をするでしょう。
何となく、薄っぺらを喜ばせたい、というものもありました。
薄い体をさらに薄くして、小さな目を名一杯広げて驚くに違いありません。
目をつむると、申し訳ないほどにヘンテコな驚きようの薄っぺらが想像できました。
勇気を出して薄っぺらの居る部屋へ行って、長い長い籠城期間の感謝を伝えよう、、、か、などとあれこれ考えながら、ワタシはトイレを出て洗面所の床で集中しておりました。
薄っぺらは別の部屋で何かしていたようですが、ワタシが起き出したのに気がついて、洗面所にやって来ました。
例の如く、おしっこをしたワタシに、「ぐっが〜る、ぺっちゃ、おしっこ出たのー!」と褒めてくれました。
「なー」とワタシは元気よく返事をしました。
いつもならば、ここでワタシは、あの場所に潜り戻りますが、今日のワタシは違っていました。
しっかりと四本の手足で床を押して、凛として薄っぺらを見上げ続けました。
薄っぺらは、まさか?という期待と、無理強いしては逆効果というのも思ってか、洗面所の床にピンと手脚を張って立っているワタシを見ながらも、どうしたら良いか分からないと言った面持ちで、モゴモゴと何か言っていました。
この時のワタシは、生後3ヶ月とはいえ、だいぶ格好の良い面持ちをしていたと自信があります。14日の過酷な籠城期間を乗り切ったワタシは格好が良いのです。
ごちゃ混ぜ色の毛並みも、むしろここでは
さようなら、ドラム式の自動洗濯機、、、終の住処にする予定でしたが、思っていたより早めのお引っ越しとなりました。
今となっては、暗くじめっとしたその環境も、熱風でアチアチになる状況も、ワタシを強くしてくれる為の時間だったと思えました。
今、ここに堂々と立っているワタシは、背中を押す風に吹かれて、たくましく佇んでいるのです。風は実際には吹いていませんでしたが、きっとそんな感じでワタシの毛並みは悠々としていたに違いありません。
ありがとう、洗濯機。。。
「ぺちゃ、ここは寒いよ、こっちに来る?」
思い出に浸っているワタシに、そんな声が薄っぺらから掛けられたような気がしました。
ワタシは、ゆっくりゆっくりと、薄っぺらについて行きました。
洗面所を出たワタシは、初めてリビングルームと呼ばれる一番大きめのお部屋に着きました。この時点では、家の全体像を把握していなかったので、どれだけの空間が広がっているのだろうかと、元来のビビリ心配性が顔を出し、少しだけ、出て来たことに後悔しそうになりました。
薄っぺらは、緊張して小さく丸く固まったワタシの背中に向かって、終始「大丈夫だよ〜、大丈夫だよ〜、偉かったね〜」と励まし続けましたので、ワタシは何とかリビングのカーペットまでよろよろと辿り着きました。
床はホカホカと暖かくなっていて、そこに置かれたソファを背もたれにして、床に直接ちょんと座った薄っぺらは、「ゆっくりでいいよ〜」と小さく声を掛けながら、ワタシを優しく眺めていました。
ゆっくりゆっくりと薄っぺらに近づきました。
薄っぺらの足の間に入ってゆっくりしたいと思いました。
初めてのことでしたが、きっと居心地が良いに違いないと確信がありましたから、ワタシはおでこを撫でてもらおうと、スローモーション映像のような感じで、ゆるりゆるりとついにそこに収まることができました。
まるで、何年も前からそうしているように、とても自然に薄っぺらの足の間に体を委ねることができました。
一方、薄っぺらは驚きを隠せない状態でした。
ワタシが突然自分の足の中に収まっているものですから、驚かないはずがありません。
薄っぺらは、体は動かさないようにして、そして声も大きく出すのを遠慮していましたが、ある朝突然に、籠城が解除されて、ワタシがここにいる、足の間にいる、という現実を受け止めきれずに、心臓を高鳴らせていました。
心臓のドキドキはワタシに伝わって来ましたが、それもワタシにとってはむしろ心地よく、ワタシは薄っぺらを全身で感じていました。
シアワセという概念はよく分かりませんが、もしかすると、こういう事を言うのかもしれないなと考えながら、ワタシは薄っぺらを下から見上げて、しばらく眺めていました。
こうして、ワタシの籠城生活は14日目にして終わりを告げました。
それと同時に、まだ見ぬこの家の他の空間への恐怖も現れ出しましたが、
今は、とりあえず、洗面所から一歩踏み出した自分は正しかったのだと、薄っぺらの顔を見ながら確信して、浸ることとしました。
その夜は、廊下に作ってもらった段ボール箱にタオルを掛けた寝床に入って、浅い睡眠を取りました。
薄っぺらは、喘息とか、アレルギー性鼻炎などを持っていたので、ワタシと一緒に寝るのには抵抗がありました。
偶然にも、ワタシも、寝る時は、ひとりでいたいタイプでしたので、こんなビビリで、まだ赤ん坊でも、寝るときは誰もいない方が落ち着きました。
ワタシと薄っぺらは、寝室と廊下でそれぞれの寝床に入り、声を掛け合いながら、静かに眠りに落ちました。
「ぺちゃ〜、だいじょ〜ぶ?おやすみね」
「なーなー、ちょっとこわいけれど、目をつむってみるよ」
”おやすみ、ぺちゃ”
そんな信号が送られて来ました。
”おやすみ、薄っぺら”
ワタシも信号を返しました。
大きな一日が終わりました。
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