第6話 まだまだ籠城中・・・7日経過

みなさま、こんにちは。

さび猫ぺちゃこと申します。


ドラム式の全自動洗濯機の下に籠城して、7日が経過していました。


ここまで来ると、流石の薄っぺら達も、口々にワタシの根性を称える節が出てまいりました。

薄っぺらと申しますのは、当時薄っぺらは、オットと呼ばれる別のニンゲンと暮らしていました。オットは薄っぺらとは別の種類のようで、まず鳴き声のトーンが数段階低く、足音も大きく、ワタシは更に怖くてたまりませんでした。

とは言え、薄っぺらが発する間抜けなイントネーションとの掛け合いにも徐々に慣れ始めていたので、薄っぺらがいる時は、だいぶ落ち着くことができるようになっていました。


オットは、家に居る時間があまりなく、昼と夜と、とても忙しく働いている様子でした。ですので、ワタシとは、お互いに遠慮をしながら、時折ぎこちなく目を合わせるような関係でした。

しかしながら、元来の猫好きオットは、ワタシの腰の引けた返事や態度を、特別気に留める様子もなく、深夜に疲れて帰って来た時なども、かくれんぼや、追いかけっこを嬉しそうに仕掛けてくれていました。

ワタシとしては、少し戸惑いがありましたが、お部屋の端から端までを一緒に走ったり、かくれんぼなどをして遊んでいるうちに、自分の引けた腰とコワイ顔が、ほんの少しだけ和らいで行くのが分かりました。。。


深夜の追いかけっこが、少しずつ日常の光景になりつつありましたので、ワタシは、この家で薄っぺらとオットと生きていくのかもしれないなと、当時ぼんやりと想像することもありましたが、少し経って、薄っぺらとオットは、さよならすることになり、ワタシは薄っぺらと生きていくことになりました。


時系列がおかしくなりましたが、この話は、ワタシの籠城明けのお話です。

そして少々長くなりそうですので、また別の時にでもすることといたしましょう。。。


籠城のお話に戻します。

毎晩、ワタシは夜11時以降になると、なんだか突然何でもできるような気になって勇気が湧き出すので、薄っぺらは、その時間になると決まって煮干しを持ってワタシの籠城場所である洗面所へ座り込むのでした。

煮干しの香りは香ばしく、一日籠城を頑張った空腹を相当くすぐるものでした。ワタシは、薄っぺらと煮干しがやって来た際には、すぐに洗濯機の下から頭をヌッと出して、小さな首を一通りぐるりんと回し、狭い洗面所内を確認するのがまあまあのお決まりになっていました。

薄っぺらは必ずそこにちょこんと座っていて、煮干しを一本持ちながら、いつも何か叫んでいました。

薄っぺらの掛け声は、毎度同じ感じでしたが、やはりよく分かりませんでした。

ただ、なんとなく、ワタシの勇気を褒めてくれているような、お母さんの応援みたいな感じがありましたので、少しずつ少しずつ、そして夜11時以降の限定ではありますが、ワタシは薄っぺらの鳴き声が好きになり始めていました。


薄っぺらの掛け声を聞きながら、ワタシはあっという間に煮干しを一本食しました。茶色く小さい粒々のと呼ばれるアレより数段香ばしく、気を抜くと夢中になってしまって、うっかり薄っぺらに近づき過ぎてしまうので、充分に注意が必要でしたが、毎回その一本は、すぐにワタシのお腹に収まりました。


煮干しタイムが終了した後、ワタシは頭を少しもたげ、洗面所と廊下のへりにちょこんと座っている薄っぺらをしっかりと見ることができるようになって来ました。

薄っぺらは、食べ終わったワタシにもずっと何か叫んでいました。

嬉しそうな表情と、声色を察するに、ワタシの煮干しタイムを喜んでいるようでした。口の中に少し残った煮干しの皮と骨のかけらの余韻をクチャクチャ味わいながら、ワタシは決まって薄っぺらに「もう一本!」と念を送ってみましたが、薄っぺらは、ただただ中途半端な笑みを浮かべているだけで、もう一本が出てくることは、残念ながらありませんでした。

その代わりに、虫のような小さな動くものを先に付けた棒を自在に動かして、ワタシの体の周りをぐるぐるとさせるので、ワタシは思わずつられて、棒の先についた虫のような小さな動くものを追いかけて、狭い洗面所内を駆け回りました。

その虫のような物は、体の周りをぐるぐるするだけではなく、上に飛んだりするものですから、ワタシは必死に飛び上がって、一日の籠城ですっかり固まった手脚を、思う存分、四方八方上下左右に躍動させました。

そんなワタシに向かって、薄っぺらは、大体「ぐっが〜る、ぺちゃ!ぐっじゃんぷ、ぺちゃ!」などと連呼しておりました。

何かにつけ、ぺちゃ!というのが最初か最後につくのと、煮干しタイムでワタシを呼ぶ時に決まって「ぺちゃ、煮干し〜」と始まりますので、ワタシは、ワタシが「ぺちゃ」と呼ばれる存在であるのかもしれないと、理解し始めておりました。


実は、ぺちゃは通称で、フルネームは「ぺちゃこ」というものらしく、フルで呼んだり、略したりするので、慣れるまでは混乱しました。

今では、ぺちゃこ、ぺちゃ、ちゃぺ、ぺちゃんこ、ぺちゃちゃん、ぺちゃさん、ぺちゃこちゃん、ぺちゃこさん、ぺちゃ神様がみさま、、、あたりまでは、ワタシの事を呼んでいるのだと分かるようになっております。

ちなみに「ぺちゃ」の反対読みである「ちゃぺ」は、薄っぺらのお父さんがワタシを呼ぶ時に使うもので、お父さんの出身地である青森県西津軽郡地方付近から秋田県の方言で、猫の事をそう呼ぶのだそうです。

ちなみに「ぺちゃんこ」は、薄っぺらのお母さんがワタシを呼ぶ時のものですが、意味は良く分かりません。

バリエーションが沢山あってだいぶ紛らわしいので、最初の方は、どれか一つにして欲しいと思っておりましたが、今となっては、煮干し持参か、追いかけっこのお誘いがあればどれでも構いません。


話を戻します。

薄っぺらとの深夜の虫取りプレイは、大体1時間から1時間半ほど続きました、薄っぺらが寒そうにしている一方で、ワタシの体がホカホカしてくると、急に眠気がやってきました。

ワタシはもっと駆け回っていたいと思いながらも、ここで籠城場所に戻らないと、うっかり薄っぺらの隣で寝てしまうのではと急に怖くなって、最後はいつも急にバタバタと狭い洗濯機の下へ、出来る限り体を薄くして、匍匐前進ほふくぜんしんのスタイルで戻り潜りました。


籠城場所であるドラム式全自動洗濯機の下は、日々少しずつ窮屈になって来ました。ワタシの体が少しだけ大きくなったせいなのか、それともワタシの勇気が大きくなったのか、はたまた両方なのか分かりませんが、狭くて暗いその場所よりも、もう一つ先に出た洗面所の方がより良い環境に思えました。

そして、洗面所の先にも何か広い空間が広がっているようなので、

もう少ししたら、少なくとも洗面所まで縄張りを広げてみようか、、、そんな大それた事を考えながら、今はまだ、暗い暗いそこへ戻りました。

朝になれば、薄っぺらが励ましてくれるから、それまでの辛抱と思って眠りにつきました。


明日からまた新しい1週間が始まります。






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