第4話 籠城場所が決まりました
こんにちは。
さび猫ぺちゃこと申します。
ご察しとは思いますが、
ワタシは、ニンゲンが嫌いです。
籠城場所発表の前に、まずは、僭越ながら、ワタシのニンゲン嫌いの理由を書き連ねたいと思います。
それらをお伝えすることで、ワタシがなぜ長期間にわたってそこに籠城し続けたのか、その理由がより際立つというものです。
ワタシなりの工夫と言えば良いでしょうか。。。
まずは、とても小さな気になることからです。
ワタシは「ニンゲンのガサツな動きが苦手です」
一言で申し上げて、物理的に彼らのガサツな動きをどうしても好きになれません。
ワタシ達は消音機能を持った肉球や、四肢に張り巡らされた繊細な神経を細やかに稼働させて、日々、静かに歩いたり、移動したり、高所へ飛び乗ったり、またはそこから降り立ったりと、いうのが可能です。
無駄な動きは一切いたしません。
一方、申し訳ないのですが、ニンゲンの、しなやかでない、軽やかでない、洗練されていないと言えば良いのでしょうか、雑な振る舞いには本当に驚かされます。
足音も大きく、声も大きく、突拍子も無い振る舞いにはどうしても慣れないのです。
もっと繊細に身体を使って欲しいと願うのは、少し無理がありますでしょうか。。。
次に、
「ニンゲンのみてくれを重視する生き方はどうか」問題です。
どこかでお伝えしましたが、ニンゲンはまず外見からそのヒトとなりを判断します。
例えば、ごちゃ混ぜ色の毛並みは、美しく無い、可愛く無いと判断します。
目つきが鋭いのは、性格がよろしく無い、優しく無い性格の持ち主だと決めつけます。
ちなみに、これらはワタシのことです。
生まれてから、自動的にそのように思われてきましたので、ニンゲンから愛されませんでした。
しかし一つモノを申したいのです。
静かに優しい心を携えていたり、静かに自分以外の存在に対して気遣っていたり、静かに他の存在の安心安全を願っていたりするのは、ごちゃ混ぜ色の毛並みや、鋭い目つきとは一切関係しないものです、と。
もっと、目に見えないものを見るように心を鍛えて欲しいものです。
次に、
「ニンゲンには優越感というものがある、そして劣等感というのもある」のはどうしたものか、です。
ニンゲンは可哀想な生き物だとつくづく思います。
これら2つの感情を同時に抱くことで、だいぶ疲弊しています。
まさに薄っぺらがそうです。
昨今、毎日のように耳にする「自己承認欲求」などと言う「感情」にも繋がりますでしょうか、その欲求は、元々ニンゲンに備わっているようでして、それらが満たされない時、自分はダメなニンゲンなんだと劣等感の
意味があるのでしょうか、2つの感情を行ったり来たりするばかりで、ワタシからすると、結局同じ場所に戻ってくるだけのように見えます。
この宇宙に生まれ落ちて、形ある状態から消え去って行くまでに、物理的にも精神的にも自然に肉付けされて行って、そしてワタシ達はそれぞれ変わっていくのです。
生まれた時の状態から、それぞれの形(目に見える部分も見えない部分も)へ変わっていくのです。
ワタシ達はそれぞれです、そのそれぞれを他のそれぞれと比べるナンセンスと言ったら、、、
その時間でお昼寝をすることを是非お勧めします。
次に、
「嘘つきは顔に出ると思います」の件です。
”嘘”と言う概念がそもそもワタシ達の世界には存在しませんので、理解不能ですが、ニンゲンの特権といえば特権かもしれません。
ところで、嘘はなんのために存在しているのでしょうか。
観察を続けておりますが、今のところは、自分の為に行う作業のようにしか見えません。
自分を守る為、真実を隠して自分を良く見せる為、武が悪い状況を変える為、などです。
嘘をつくと大概その嘘を隠すための別の嘘の上塗りが必要となりますので、結果としてとんでもなく大きな嘘へ広がる恐れがあります。
嘘の上塗りで生きているニンゲンの見分け方があるのかどうかよく分かりませんが、なぜかワタシは彼らの顔で直ぐに判断が付きます。
言葉では言い表しづらいのですが、顔面の皮膚感とでも申せば良いでしょうか、皮膚がゴワゴワしているように感じます。
目の奥も何か濁りのような淀んだ澱が存在していて、目の光を奪っているのです。
くれぐれもお気をつけ下さい。
嘘をつく人に気をつけると言うよりも、自分がゴワゴワ皮膚の淀んだ濁り
まだあります。
ニンゲンは「裏と表をセットにして生きているようです」
本音と建前というものがあるようですが、これも我々には理解ができません。
ある思いにも、ある行動にも、その裏に本音や、思惑などが実はあって、真実を隠して生きているのを見るにつけ、不憫でなりません。
かけひきという手法もあるようです。
色々なニンゲン関係において、有効手段として使われているようです。
ビジネスの落とし所を決める時ですとか、恋愛を成就させる為ですとか、色々と無意識にも、意識的にも登場させるアクションだそうです。
ワタシからすると、そのかけひきに使う時間は非常にもったいないものです。その時間があれば、お気に入りの黄色いじゃらし棒と楽しく戯れることができるのです。
一度、改めて考えて欲しいものです。
続けます。
「気を使わないととまあまあ生きづらいニンゲン界」に関してです。
”裏表セット”と”かけひき”の話から繋がりますが、ニンゲン同士、気を使って関わり合わないと、生きづらいようです。どんなに近い関係同士でもそうです。
ニンゲンによってその度合いの濃淡は様々のようですが、自分の思うままに行動すると、正しく無いという見方をされて、正して差し上げましょう、というニンゲンが現れてしまいます。
「正して差し上げましょうニンゲン」は本当に厄介です。
関連して「正義感が理解できません」です。
思い出しましたが、”セイギカン”というものも、ワタシのまた別の謎のひとつです。
そもそも物事において、これが正しい、これが正しくない、と判断することは決して出来ません。
自分を取り巻く全ての環境はは常に動いていて、同じ状況が未来永劫つづくというのはニンゲンの幻想です。止まることなく変わり続けている自然界で、その一瞬の時を止めて、正しい、正しくない と判断することは誰もできないのです。
しかしながら、これが正しいと主張してばかりです。
自分で思うだけでしたらまだ良いのですが、それを他の動物達(ニンゲンも含む)へ変化を強いてくるのです、しかもそれは、大概お願いではなく、偽善のケープを纏っていて、裏を返すと命令のなにものでもありません。
マントを脱ぐと、”正して差し上げましょうニンゲン”の登場となるのです。
なぜ、自分以外の全てを変えたがるのでしょうか。
自分が正しいと信じてやまないそのセイギカンは本当に恐ろしいものです。
今すぐにやめて頂きたい事の筆頭かもしれません。
”正して差し上げましょうニンゲン”が登場した時は、直ちに、できるだけ高台へ避難するようにしています。
まだまだありますが、今日のところは、次で最後としましょう。
「自己啓発をして頑張る、、、とにかく頑張る」のはどうして?です。
半ば皮肉で申しますが、ニンゲンはなぜそんなに自己啓発が好きなのでしょうか、特別に好きなのではなく、必要に迫られて行っているのですから、そこのところは勘違いしないで頂きたいなどとおっしゃるかもしれませんが、ワタシからすると、それでも理解に苦しみます。
彼らは、自己啓発をしたその直後は、何やら、自分が変われた心持ちになってやる気に満ち溢れます。しかしながら、その後しばらくすると元の自分に戻ってしまい落ち込みます。
これではいかんと再び奮起し、本を読んだり、動画を見たり、講義を受けたりと、とにかく手を替え品を替え、一瞬現れる”変化できたかもしれない”という「幻想」に時間とお金を使います。
薄っぺらを見ていて、つくづく呆れます。
変わる必要があるのでしょうか、生まれたそのままの自分で良いでは無いですか、どうせそこに戻ってくるのですから。
と言うわけで、長くなりましたが、ワタシのニンゲン嫌いのお話は今日のところは一旦終わります。。。
このように、ワタシは生後3ヶ月の時点で、完全にニンゲン嫌いが定着しておりました。
近寄られるのは、一切望んておりませんでしたので、常に睨みを利かせて毛を逆さ立てております。
撫でられるなんて、とんでもございません。優しい相棒や、終の住処などには全く縁の無い生まれです。とは言え、そもそも、ごちゃ混ぜ色の毛を逆立たせているワタシに興味を抱いて触れてくるニンゲンなんぞはおりませんでしたので、そこは心配しておりませんでした。。。
しかしながら、ご存知の通り、ワタシは、薄っぺらの家に行くことになってしまいました。
保護主と関わるだけでも精一杯であったのに、さらに別のニンゲンと新しい環境に身を置くなんて、考えただけでもまさに身の毛もよだつ、、、です。
ワタシはこれかもニンゲンを好きになったりはしないですし、薄っぺらもワタシを愛したりしないのですから、ここは何か特別な施策が必要でした。
とは言っても、まだ見ぬその家に放り込まれて、どう戦略を立てたら良いというのでしょうか。
保護主は、猫一倍ビビリのワタシを、小さめの洗濯ネットに入れて、硬いプラスチックのドーム型のキャリーバッグに押し入れました。
そして、ワタシの小さな便り(おしっこ)の匂いが付いた猫砂をひとつまみすくってビニール袋に入れると、ワタシとおしっこを持って、薄っぺらの家へ出発しました。
30分少々の電車移動は、恐怖の何ものでもありませんでした。
嫌いなニンゲンどもの匂いと、11月になっているのに少しムッとした車内は辛い時間でした。そして、あとで知るのですが、ワタシは猫の中でも、異常に耳が良いようで、床下で、4ミリの細い虫が蠢いているのも遠くから聞き取ってしまうほどの聴力を持っていた為、知らない場所の、さらに電車内という空間は、超過酷な環境でした。
ようやく下車をして、見知らぬ道を通って、どうにか薄っぺらの家へ辿り付きました。11月上旬の薄曇りの夕方だったようにぼんやりと記憶しています。
しかしながらそこから14日間の籠城を決め込んだワタシは、猫の根性というものを、思う存分に知らしめることに全神経を集中しておりましたので、到着時の細かい記憶はだいぶ途切れ途切れとなっており、その籠城場所の暗闇の中でかき消されてしまっています。
保護主が薄っぺらの家からいなくなって、その家にワタシと薄っぺらだけになった瞬間から、ワタシはドラム式と呼ばれているでっぷりとした全自動洗濯機の下にギリギリ滑り込みました。
その中はだいぶ狭く、暗く、そしてじめっとしていて、決して衛生的とは言えない環境で、居心地は最悪でした。
しかしながら、ここに身を隠すしか、命の保証はありませんでしたので、ワタシはここで残りの一生を過ごすことを決心しました。
誰がなんと言おうと、ここから出ると言う選択肢は無いのだと、強く言い聞かせました。
頭の中をつんざくような流水音は、グルングルンとか、バタンバタンなどの聞き苦しい音と一緒に鳴り響き、その後決まって、灼熱の熱風が吹いて来て、狭い隙間を覆い尽くしてしまうのでした。
しかし、たとえ呼吸が苦しくなっても、その環境下では、できる限り小さく丸く固まって体力を消耗しないようにするしか方法がありませんでした。
薄っぺらは、何度も何度もこちらに向けて何かを叫んでいましたが、何を言っているのかさっぱりわかりませんでしたし、理解するつもりもありませんでした。
ここがワタシの住む場所なのだ、、、と呟いて、目をつぶり、耳も鼻も、出来るだけ働かさないように、とにかくじっとしていました。
薄っぺらの泣きそうな叫び声はずっと聞こえていましたが、それもワタシには、オソロシイ騒音にしか聞こえず、耳を閉じ続けました。
ずっとずっと閉じ続けました。。。
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