第5話 溺れる人魚
『なんでこんな所に宝石が…?』
今日は貸し切りの筈…叔父が市の職員だという友人に頼んで、泳ぎを忘れた私のためにこのプールが用意されたのである。都会では存分に練習できまいと友人に連れられ、この田舎でひと夏を過ごすことになった。友人の実家から通える距離で、一人きりの自由な夏休みを堪能する…昨年、夏休みの練習中に起きた怪我は私の自信を奪い去った。それ以来プールを目にする度、
ウォータースライダーや噴水、流れるプールなどがある遊楽施設の大規模なプールは市の中心街に程近く、
コポコポコポコポ…
…チャプンッ…
彼女は闇へ吸い寄せられるように、突如姿を消した。
絡みつく無数の気泡と激しさを増す水流の中で、
其も此も全部
『…私が泳げなくなったせい?』
ピーッ!!!
笛の
一閃を描くように水飛沫さえ
それから先は…思い出したくもない。怒号の末の選手交代。昨年の怪我を引き
「はぁ…。」
授業中、教室の端から窓越しにプールが見え隠れする。あの透明な光を目にする度、胸の中で何かが
『…なんでこんなこと、今思い出すんだろう。』
コポコポ…と静かに気泡が上昇していく。
水流に巻き込まれ瞼を開くと深い靑に包まれていた。
暫く気を失っていたようだが、身体に痛みはない。あれだけの水圧と激しい流れに耐え、無傷でいることは信じ難いが…どうやら無事のようだ。不思議なことに息は続いており、なるべく冷静になろうと辺りを見回してみる。深淵というのはこの事だろうか、底がまるで見えない水だけの空間…見上げると微かに光が届いているようだが、どこまで泳げば辿り着けるのか。この世界は果てしなく続いている気がしてならない…暗い靑の檻に閉じ籠られてしまったようだ。
『変なことになったけど仕方ない…絶対あの
ふと、自身の
「…えっ…何これ…まさか鱗っ!?」
胸元から手足に至るまで、紅く輝く鱗らしきものが身体を取り巻いていた。更に目を疑うも、爪先からは金魚の尾ひれのようなものが広がっている。薄く柔らかく
「嘘だ…こんなの…絶対夢だ…。」
『私が、人魚になってる。』
彼女は両の手で頬を覆うと、
孤独の海に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます