第3話 昼下がりのプール
「あっ、子供の声……向こうは賑やかだねぇ。」
気乗りのしない態度を隠そうともせず、私は
「あははっ、お婆ちゃんみたいだよ!」
友人はあっけらかんとして悪気の欠片もない。気だるそうな私の腕を取り、容赦なく更衣室へと向かう。仕方なく腕を引かれるまま重たい歩みを進めていく。
凛とした風が髪を掠め、スカートの裾を
忙しく檸檬色を乱反射する昼下がり。
煌めきに揺れるアクアブルーの世界が瑞々しさを湛えていた。
「うっ…わぁ…。」
誰も居ないプール。
只一つ水溜まりが其所にある。
久しぶりに見た人工的なアクアブルーは、
目の前の光景に
「気に入った?こういう場所の方が好きだと思って…人、居ない方がいいでしょ。」
横から意気揚々と弾む声に遮られたが、悪い気はしない。単純にこの何気無さが嬉しい。
「うん。古い市民プールだって言うから、あんまり期待してなかったんだけど…ここは別だね。」
然り気無く髪を耳に掛けながら答えた。
「はははっ!らしいね。安心して、リフォーム済みだから!」
フフンッと鼻を鳴らして得意気に言う。長年の付き合いだからこそわかる互いの性格や好き嫌い…何だかのくすぐったいような、友人への照れが出てしまう。
「ありがと…こんな綺麗なプール久しぶり。」
少したどたどしく口ごもるようになってしまったが、彼女への感謝は本物だ。どうにか伝わっていて欲しい。
「…ふふっ…よかった。あっ私、叔父さんに挨拶してくるから先に着替えてて!」
艶めくポニーテールを翻し、
「えっ、じゃあ私の分もお礼言っといてね!」
慌てたせいで珍しく声を張り上げてしまい…我ながら驚いた。走り去る彼女の背中へ急な
「りょうかーいっ!」
既にプール入り口の格子戸まで駆け寄っていた彼女は、大きく手を挙げて私を振り返る。
連れて私も、普段より大きく手を振り返した。
…眩しい。
このプールもいつも通りの彼女の笑顔も。
きっと夏のせいではない。
輝く太陽も真っ青な空に膨らむ積乱雲も…あの
私の大切な…掛け替えのない親友。大好きな人の一人なのだから。この夏休みを共に過ごせる日があってよかった。7月…盛夏の想い出に此処へ引き連れて来てくれた。
「嬉しいな…」
さわさわと風に木々が歌う。
心地好い夏の風に心が踊る。
ザブンッ………!!!
一瞬だった。
無意識のまま…
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