第19話 ぬる暑い中庭にて①

 暑い夏には炭酸系の飲み物が飲みたい。シュワっとした爽快な甘い味が、暑さをひと時でも吹っ飛ばしてくれる気がする。


「でも置いてねぇんだよなぁ………」


学校でのお昼休み。俺は中庭にある自販機を眺めながら、ひとりぐちっていた。買える飲み物は紙パックだけ。謎のスポーツ飲料スポルトップやレモンティー、果汁100%系ジュースなど。俺が求める炭酸飲料は無い。


「はあ〜………、うちの学校の自販機ってさ、なんで紙パックの飲み物しかないの? ペットボトルや缶とかあったら炭酸系もあるのに」


 日が当たる暑い外だと余計に腹が立つ。さっさとジュースを買うか………。100円を入れてポチッとな。


 出てきたいつものオレンジジュースを持つ。手に伝わる冷たさが心地良い。


 さて、いつもの木陰のベンチで飲みますか。


「ふぅー………、やっぱ涼しいな。ここは」


 青々とした葉をつけた、大きいシラカシの木を見上げながら、俺は冷たいオレンジジュースをぐいっと飲む。


「んんっ、ぷはぁー。うまっ」


 柑橘の甘酸っぱさがおいしい。これはこれでだるい暑さを和らげてくれる。


 中庭を通り抜ける、ぬるい風を肌で感じつつ、俺はぼーっとジュースを飲む。


 学校の中庭は、ちょうど教室くらいの広さ。でもそこに生徒は俺だけしかいない。来たとしても、ジュースを買ってクーラーの効いた教室にすぐ戻ってしまう。暑い夏に、しばらく中庭に居座る奴は………、俺くらいだ。


「この木陰がけっこう好きなんだよなぁ」


 暑い!! じゃなくぬる暑い感じ。そのぬる暑さに耐え、冷たいジュースでリセットする。このなんともいえない感覚を、結構気に入っている。んでジュースが無くなるくらいに、ちょうど予冷が鳴る。それまではぬる暑いを耐えるのだ。って何してんだか俺は………、まっ、いっか、それで、いいのだ〜、バカボ◯、ボンっと。んん?


 自販機の前に女子がいたのに気づいた。制服からして中学生。膝丈のスカートから伸びた白い足についつい目がいく。飲み物を取るためしゃがむと、スカートが少しひらっと舞った。つい視線が奪われる。けしからん………、俺がな。でも………、仕方ないよね、それで、いいのだ〜、バカボ◯、ボンって、あれ? 


「あっ! 爽太せんぱい!」


 飲み物を手にこっちに振り返った女子は、俺の後輩である双葉結衣ふたばゆいちゃんだった。明るく可愛らしい声を上げたかと思うと、こちらにタタタタっと元気よく駆け寄ってきた。

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