第17話 紳士宣言(バスト的な意味で)

 コンビニで文芸部の美少女3人(穂花先輩や結衣ちゃん、そして春奈)のためにハーゲンダッツ2個とガツンといちご1個の、計3個のアイスを買った。そして残り所持金は……、5円なり。


 俺……、お金持ってなさ過ぎだろ……。


 陽が傾いてきた夏の夕空を見上げなら、しみじみと思った。穂花先輩と結衣ちゃんとはもう帰りの道中で分かれ、今隣にはガツンといちごを遠慮がちに食べる春奈がいる。


 その様子を横目で見るとせつなくなるぜ……。


 コンビニのレジでの会計が頭をよぎる。


『じょ、冗談ってことでも良いのよ?(汗)』

『ゆ、結衣はガマンできる子ですよ?(汗)』


 せっかくアイスをおごる(たかられる)のだから、穂花先輩や結衣ちゃんの喜ぶ顔を見たかった。でも、俺の所持金(全財産)の少なさに顔をひきつらせていました……。

 高めのアイスを買ったとはいえ、財布に5円しか残らんってヤバすぎる! 小遣いが少な過ぎだろ! お金を増やしたいが親には言いにくいし……。う〜ん、バイトを考えんといかんか……。そうなると穂花先輩や結衣ちゃん、それに春奈との部活動や放課後に過ごす時間が少なくなるよなぁ。う〜ん、悩ましい。


「はあ〜……」


 ついため息が出てしまう。すると隣にいた春奈が話しかけてきた。


「ご、ごめんねっ。アイスおごってくれて」


 申し訳なさそうに肩をすくめる春奈。いやいや、全然良いのよ。てか、


「春奈もハーゲンダッツじゃなくて良かったのか?」

「えっ? なんで?」

「いや、せっかく奢るんだからさ、良いの選んどかないと損した気にならない? ガツンといちご安いだろ」


 それを聞いた春奈は、小さく笑った。


「財布に5円しか残らなかったのに?」

「うっ……! い、一般論としてだっ! てか5円とか言うなっての。恥ず過ぎる……」

「ふふっ、事実を言っただけですよ? じ・じ・つ」


 そう言って、春奈は少し胸を張りながら得意げに言う。意地悪い笑みが、たく……、可愛いから許すっ。あとバストサイズも教えてくれたらずっと許す!


「ねぇ爽太」

「んんっ!? こほん。な、なんだね?」

「な、なに? その聞き方……?」

「な、なんでもないから気にしないで」

「……、あやしい」


 春奈の目がスッと細くなる。やばっ! 怖い! なんとかしないと!

 俺は興奮を抑え込み、ささっと聞くことにした。


「何か、言いたいことあるんじゃなかったか?」

「あ、うん……。その……、明日は頑張ろうねっ」

「ん……? なにを??」

「もう……、夏休みの課題図書リスト作りのこと」


 そう言って春奈は、不満げに柔らかそうな頬を膨らませる。うむ……、可愛い。あとついでに胸を大きく張ってくれたらなおグッド。


「明日は漫画の話はしないように」

「え〜、それはつまらんだろ」

「だ〜めっ」


 そう言って春奈は、耳にかかった綺麗な黒髪を少しかきあげる。この仕草は真面目モードのときよくやる。こうなると春奈は少し頑固になるんだよなぁ。明日はグラッ◯ラー◯牙の話したい。穂花先輩、漫画を持ってきそうだし。女子達(文芸部員)と格闘技漫画の話が出来るなんてそうそうないからさ。


 少しの間の沈黙のあと、春菜の家の前に着いてしまった。俺の家はもう少し先。


「じゃあまた明日ね、爽太」

「ん、そうだな……、なあ春奈」


 春奈が目を丸くする、不思議そうに。俺は、どこか愛らしい幼馴染を見つめながら、


「渡したいものがあるんだ」


 自分のカバンに手を突っ込み、クリアファイルに入れてある紙切れを取り出した。


「なにそれ??」


 小首をかしげる春奈に、俺は優しく告げる。


「今年の4月から7月までの、図書館で借りられた本のラインナップ。ざっと100近くあるか」


 春奈の瞳が丸く見開く。


「えっ、そ、それじゃあ……、これを参考にしたら……」

「そっ、夏休みの課題図書の候補リストが作りやすい」


 しかも借りられた本の回数まで調べてある。シンプルに貸し出し数ランキング10位まで選べば、それなりの課題図書のリストが作れる。


「い、いつからこんなの作って……」

「ん? 昼休みとか、暇なときにさ。図書館行って」

「休み時間にそんな大変なこと……」

「超楽だったぞ。図書係に貸し出し本の一覧を見せてもらえて。そこから少しづつ整理してたから、簡単な作業だったよ」

「で、でも、ほぼ毎日続けてたんじゃ……」

 

 うっ、まあそれは否定できない。


 言葉に詰まると、春奈がどこかすねたような声音で話す。


「私も一緒に手伝うのにっ」

「あっ、いや、昼休憩なのに、そんな作業は悪いだろ」 

「爽太だってお昼休憩じゃない。なのに1人頑張って……」


 そのあと春奈の家の玄関前で、俺らは黙り込んでしまった。


 気まずい……。


 俺は頬をかきながら口を開く。


「その、文芸部の皆と楽しくダベる時間を作りたくてさ。それで、俺が勝手に昼休憩で作業してたことだから。ま、まあほんと気にしなくてーーー」

「ちょっと待ってて」

「へっ??」


 話の途中にさえぎられ、戸惑う。その間に春奈は家のドアを開けて中に入ってしまった。


 えっ? こ、これって、どういうことだってばよ? ……、ま、まさか放置プレイという罰!?


 俺が内心慌てていると、春奈の家のドアが開いた。は、春奈! 良かった戻ってきてくれて! 危うく泣くとこだったぜ。


 春奈が俺の方に近づいて、


「はい、あげる」


 一体なんのことかわからなかった。春奈が少しすねた顔つきで、渡してきたのは、


「おっ、アイス?」

「ううん、シャーベット。爽太はまだ甘くて冷たいもの食べてないでしょ。5円しか持ってないから」

「それ言うなっての……! 恥ずいから!」

「ふふっ、はい」

「お、おう」


 春奈から、棒状の持ち手がついたシャーベットを受け取る。


「私のお気に入りなの」


 春奈が優しく笑う。俺はなんか目を合わせられなくて、手に持ってるシャーベットに視線をやる。キレイなルビー色の、


「ベリー味だよ」


 春奈はそう付け足して嬉しそうに笑った。そういや、文芸部の部室でこのシャーベットの話をしていたっけ。


「えっと、今食べても良い?」

「うん。早く食べないと溶けちゃうよ」

「そうだな」


 透明な袋を開けて取り出したベリー味のシャーベットはとても美味しそうで、自然と喉が鳴る。

 一口かじって、冷たさと爽やかな甘い酸味が広がって、


「うまっ」

「そうでしょ」


 春奈が嬉しそうに笑む。俺もなんか頬が緩んでしまう。シャーベットの美味さ以上に、さ。


「これだけじゃあ割にあわないかもだけど」

「ん? なにが??」


 俺がそう聞くと、春奈は苦笑する。


「爽太が作った貸し出し図書のリストのこと。もっと何かお礼をしてあげれたら良いんだけど……、これぐらいしか今は思い浮かばなくて……」


 そう申し訳なげに言って春奈は少し俯き加減になる。また、訪れる沈黙。

 まいったなぁ……、せっかく良い雰囲気だったんだけど。

 俺は少し頬をかく。

 ほんと、全然気にしてほしくないところなのだが、真面目気質な春奈には難しいかもしれない。なにか、気の利いたお願いごとや話題はないか……。バスト……、こほんこほん、以外で……、あっ。


「なあ、春奈」


少し落ち込んでる様子の春奈がこっちを見る。


「なに?」

「今日、文芸部の皆とさ、好きなアイスの話してただろ」

「そうだね」

「そんときさ、俺答えてなかったことあっただろ」

「へっ? そんなのあったけ?」

「ほら、俺がアイスクリームかシャーベット、どっちが好きか」


 そう言うと、春奈の瞳が少し見開く。


「そういえば、そんなの聞いてたねっ」

「だろ。だから、今ここで言おうと思う」

「えっ? あ、う、うん」


 少し戸惑う春奈。でも、丸みをおびた瞳は知りたげな様子だ。よしよし、良い感じ。


 俺は、春奈にさらりと言う。


「両方」

「えっ? 両方?」

「そう、アイスクリームもシャーベットも、どっちも好き」


 その答えに、春奈の頬が少しづつ膨らむ。あはは、不満そう。


「ふーん……。なんか、聞いて損したじゃーーー」

「でも一番好きなのは、」


 春奈の声をさえぎる。春奈がこっちを見つめてきて、俺は続きの答えを、自分なりの答えを春奈に伝えた。


「春奈がくれるシャーベットかな」

「ええっ??」


 春奈が戸惑うなか、俺は満面の笑みで、優しく伝える。


「俺は、春奈がくれるシャーベットが一番好きだよ」


 すると、春奈が慌てて口を開く。


「な、なにそれ。い、意味わかんない」

「ん? そうか? じゃあもう一回、春奈がくれるシャーベットが一番すーーー」

「わっ、わかった! もう一回言わなくていいからっ!」

「おいおい、なんか照れてない?」

「も、もう! 照れるわけないでしょ!!」

「んん? そうか? でもなんか顔赤い感じだし……」

「つっ!? も、もう!! そんなことない!! ば、ばか……」


そう言って、春奈が目を下に向けて、俺が手渡した貸し出し本リストをみつめる。


 あははっ……、なんかやり過ぎたの、かな?? いや、それくらいが良い。落ち込んでいる春奈を見るよりさ。


 俺は春奈を見つめる。俯き加減で、貸し出し本のリストを見つめながら、ぷるぷると震えて恥ずかしげにしている。


 なんか可愛いなあ。まっ、からかうのはこのくらいにしておいて、帰りますか。でも、もう少し春奈のこと見ていたい。


 淡く色づいた耳がなんともいじらしくて……、次第に赤く、ん? 真っ赤も真っ赤に染まっていく?


 あ、あれ? そんな、恥ずかしがる?? 


 春奈の様子に俺の心が焦る。心なしか、春奈の体の震えが、ぷるぷるから、ブルブルとまるで怒っているかのように、


「そ、そ・う・たッ……!!」

「ひっ!? は、はい!」


 春奈のドスのきいた声音に焦る俺。い、一体何が!?!?


 春奈が、俺の目の前に、貸し出し本のリストを突きつける。


「最後の下のところ、なんなのッ……!!」

「へっ!? なんのこと、なっ!?!?」


・正しいバストサイズの見方

・バストの数学

・バスト目利きのすすめ


「こ、これは!?!?」


 俺が気になっているバスト関連の書籍!? な、なぜこんなものが手書きで!? あっ! 図書の貸し出しリストを家であらためて整理してたとき、あまりにも興味のない本ばかりだがら、気分転換に自分好みの本を探したりしてたんだった!? んで、ついメモを……!? け、消すの忘れてた!!


「あと、これはなにッ!?!?」


 ビシッと春奈が指で突きつけたのは、何かの計算式。その先にある求めた解には、


 Harunaπ>D


 俺は血の気が引いた。もう言い訳できない。そう、これは春奈のバス、


「爽太の、ばかああああああッ!!」

「ト、ぶへらっ!?!?」


 春奈の右手のフルスイングが、俺の右頬にクリンヒット。視界に火花みたいなのが、チカチカする。


「ほんとばか! えっち! 変態!! ほんと、もうほんと、ばかなんたから!! もう知らない!! すけべ!! あと、あと、お金5円男ッ!!」

「は、春奈っ!? ま、待って〜!!」


 そんな声は届くはずもなく、春奈はどしどしした強い足取りで家の玄関のドアを開け中に入り、ドアは力強く閉められた。


 取り残された俺。


「な、なんだよ……。いってー……」


右の頬が超痛い。ビンタでもげるかと思ったくらいだ。


「お、俺が悪いけどさ……! それでも」


 そんな強くぶっ叩くなよなっ! てか春奈のために貸し出し本のリスト渡して、励ましたのに、この仕打ちはひどすぎる!!


「くくっ、良いだろう……。春奈、今ここで新たに決意するぜ、俺は、俺は!! 春奈のっ!」


 バストサイズを知りたいぃぃぃっ!!!!


 と、最後は心の中で叫ぶ、紳士宣言をしたのだった。


 あと、右頬が超痛い……!!( ´Д`)y

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