第16話 美少女たちとのアメとムチ

 何やかんやと時間が過ぎ、文芸部の部活終わり。俺ら4人は校門を通り、まだ暑い外を歩いていた。


「うぅ〜……、暑さがヤバいですぅ」


 結衣ちゃんの辛そうな声に、


「そうねっ。もう少し遅めに出ても良かったかしら?」


 穂花先輩が苦笑する。


 まだ夏の陽は高く、日差しがまぶしい。もう少しクーラーのきいた部室にいても良かったかも知れない。


 そう思っていたら、横にいた春奈がハンカチで額を抑えながら答えた。


「でももう5時過ぎなので。文化系の部活は下校時間なので仕方ないですよ」


 まあ、そう言われるとそうだけど。校則だからなぁ。夕方5時には下校する、生徒の安全のため。でもなあ……。


「こう暑くて明るいとさ、学校にまだいてもってならないか? できたら涼しい夕暮れに帰りたいし」 


 すると春奈は少し頬を膨らまし、ムッとした顔をする。


「だ〜めっ、それだと遅い時間になっちゃうし、薄暗いと帰りが心配でしょ。特に結衣ちゃんは中学1年生なんだから」

「ん〜、まあそうか。子供だしなぁ」

「むうっ! 2人とも結衣を小さい子扱いしないでくださいよ! 小学生じゃないんですからッ。もう中学生ですっ!」


 プンスカと不機嫌な結衣ちゃんが可笑しくて、俺はついつっこむ。

 

「いやいや、今年の春に中学生になった子が何を言うかね。大人の言うことは聞きなさい」

「その態度ムカつきますっ!! 爽太先輩もまだ子供ですよ!」

「はんっ! 高校生はもうほぼ大人ですぅ! しかと見なさい! 俺のこの洗練された精神と肉体を!!」


 俺はそう言いながらボディビルダーがするポーズを決める。両手を広げて手に力を込めて、逞しい腕の筋肉をーーー、


「「「なんか貧相〜……」」」 

「ぐはっ!? まさかの3人ハモリバッシング!?」


 穂花先輩、結衣ちゃん、春奈が残念な目つきで俺を見ていた。や、やめて! そんな可哀想な人を見る目つき!! これでも鍛えてるんだけど……!


 穂花先輩がぼやく。


「筋肉感がたりないわよねぇ〜……」

「いやいや……! 細マッチョって感じで良くないですか?」

「あらあら……、そう言うのは、逃げって言うのよ!」


 なっ!? ほ、穂花先輩の目つきが鋭くなった!? なんかスイッチ入りました!?


「男の子なら、筋肉でシャツが弾けるくらい鍛えないと」

「理想が高すぎません!? って、そこまで鍛えなくても良くないですか!?」

「ダメよ。そうしないと、範馬○次郎に勝てないわ……」

「地上最強の生物となぜ闘うことに!?」

「父を超えてこそ、真の大人よ」

「大人のハードルが高すぎる!! って、俺は範○刃牙じゃないですからねっ!? 竹本爽太ですから!」 

「……、いくじなし」

「謎の罵り!!」

「「いくじなし」」

「はいそこ! 便乗して罵らない!!」


 結衣ちゃんと春奈め! 2人とも刃牙を知らないでしょ!


「烈○王さんみたいに真面目に鍛えてほしいですねっ」

「うんうん、烈さん良いよねっ。強くて、優しくて、料理すごく上手で。あっ、あと川を渡れるのもすごい」


 意外と詳しかった。なぜ!? 特に春奈まで!


「ふふっ、また続きの巻を持ってくるわね」

「「わーい」」


 発信源は穂花先輩だった。集めてるの? マジで?

 結衣ちゃんと春奈はテンション上がっているし。女子も刃牙が好きなのか……、あんなゴリゴリの格闘漫画を……。まあ……、一向にかまわんっ! むしろ俺もテンション上がる! 刃牙超面白いし!


 俺はうきうき気分で皆に提案する。


「グラップラー○牙を夏休みの課題図書に入れません?」

「あら、良い提案ねっ」

「結衣も賛成ですっ」

「でしょー、 じゃあ課題図書のリストに載せるということで」

「ちょ、ちょっとちょっと!! それは話が別よっ!」


 おいおい春奈、何で拒否するんだよ。穂花先輩や結衣ちゃんも不服そうな顔ですぞ?


「さ、3人でそんな顔しない!」

「え〜、でもさ、春奈も○牙は好きなんだろ?」

「そ、それはえっと!? た、楽しく読んではいるけど……!」

「じゃあ良いじゃん」

「ま、漫画はだめっ! というか今日、課題図書のリストが出来てないでしょ!! あっ……」


 勢いよく言ってすぐ、どこか落ち込む素振りをみせた春奈。あっ、しまった、それは落とし穴だったな。


 俺は話題を少し変えてみる。


「いや〜、でも今日の漫画談義は超楽しかったよな。呪術○戦やハ○ター✖️○ンターとか」


 俺の話題に、穂花先輩と結衣ちゃんが続く。


「そ、そうねっ、推しキャラとか皆んなで盛り上がって。私は推しの伏○くんを躾けてみたいわ」

「そ、そうですねっ! 結衣はメカ○くんと一緒にロボを運転したいですっ! もっと色々と話したかったです!」


 ねぇ〜、っと俺や穂花先輩、結衣ちゃんで笑顔を作りながら、春奈に話しかける。春奈は困ったように、でも、どこか楽しげに微笑んだ。


「はい、もっと話したかった、ですねっ」


 俺は少しホッとする。


 4人でまた和やかな雰囲気に戻りながら、思う。


 まあ、今日の文芸部の活動は、ほとんど漫画の話をしてしまった。皆んなで好きな作品の話で盛り上がってさ。まあ、俺が課題図書に漫画は入るよね、って言ったのがまずかったかも知れん。でも、皆んなでわいわい楽しく駄弁れたのは、とても有意義で気持ちが満たされたんだけどなぁ。


「明日、また考えましょ。ねっ、春奈ちゃん」

「あっ、はい。そうですよねっ」


 穂花先輩の優しげな声音に、春奈が小さく笑ってうなずく。


 うんうん、また、明日があるし、明日がある、明日があ〜るさ、的なね。うし、今日はとても良い日で終われそうなーーー、


「じゃあ、今日は帰りの締めに、アイスを奢ってもらいましょうか、ねっ、爽太くん」


「……、へっ??」


 穂花先輩の言葉に、俺はうろたえる。えっ? それって、冗談とかじゃなかったの?? 


「結衣はハーゲンのバニラで」

「私はハーゲンのチョコねっ」


 ニコニコ顔の結衣ちゃんと、穂花先輩に、俺は口元がひきつる。いやいや! ちょっと!? ま、マジで奢る展開に! は、春奈! 助けて!!


「……、私は、ガツンといちごで」


 ええっ……、そんなぁ……。こ、こうなったら、もう腹を決めるしか、ない……!


「……、コ、コンビニ行きましょうか〜……」


「「「さんせ〜い♡」」」


 可愛い女子(悪魔)ら3人の声音を耳にしながら、俺らは道中にあるコンビニへ向かう。

 俺の足取りは複雑だ……。可愛い女子らに囲まれながら、アイスをたかられる……、なにこのアメとムチ的なの……。あと、春奈のアイス、コスパ良くて助かる〜、とそんなこと考えてますた。

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