第15話 美少女たちとおたわむれ

 穂花ほのか先輩が文芸部の部室に到着して、メンバーは揃った。


 授業を受ける教室の半分くらいの広さしかない部室。でも部員が4人だけなので、窮屈さをあまり感じることはない。


 部室内にあるモノといえば、壁際に設置された小ぶりの本棚と、カバンや小物を置いておけるラック、それと部室の中央に長机を4つ⬜︎状にひっつけた会議用スタイルのものを用意している。文芸部のメンバーが揃ったら、各自の持ち場に座り直して、部活動を開始する感じだ。

 まあ大抵は4人で楽しくおしゃべりして終わることが多い。でも今日は夏休みにむけての課題図書のリスト作りがあるから、それをする感じかな。いかにも文芸部っぽい。


 ちなみに席の配置は、窓がある北側に高2である穂花先輩、東側に俺と同じ高1の春奈、西側に中1の結衣ちゃん、そして、ドアのある南側が俺、という配置だ。


「さてとっ……、全員集合ねっ」


 いつものように、文芸部の部長こと穂花先輩が、長くキレイな黒髪を耳の後ろにかき分けながら言う。いつもながら大人っぽい。俺や春奈の1つ年上なだけなのだが、俺らが子供っぽく感じてしまう。あと、バストも大人っぽい(サイズ的な意味で)。でもそこは春奈も負けていない、なんなら春奈が上なくらいだ。ふぅー、恐ろしい幼馴染を持ってしまったぜ……。



「そうですねっ」

「はいですっ♪」


 俺が高尚な思考をしていると、春奈、結衣ちゃんが明るい返事をしていた。俺も遅れて、「そうっすね」と返す。


 すると穂花先輩は小さく微笑み、少しの間の後、本日の部活動の内容を告げた。


「じゃあ皆んなでアイスの話をしましょうか♪」


 あ、あれっ?

 

 俺は面食らう。夏休み用の課題図書のリストは?


 だが、穂花先輩はとても楽し気に笑んでいる。とても子供っぽい。さっきの大人っぽい雰囲気はどこへやら。


「は〜い♪ 結衣もさんせいですっ」


 結衣ちゃんもニコニコしながら答える。う〜ん……、夏休みの課題図書、来週には決めにゃあならんのだが。まっ、いっか、まだ月曜日だし。時間はある。それに、穂花先輩と結衣ちゃんが嬉しそうにしているのは可愛い。可愛い女子は正義。つまり……、今日も可愛い皆んなと楽しく駄弁るのが正解だな!


「だ、ダメですよっ!?」


 バンッ! 


 と、長机を強目に叩く音がした。なんと春奈が長机に手をつき、椅子から中腰で慌てて訴えていた。なっ!? しまった! バインッと揺れたであろうバストを見逃した! おい春奈! 勢いよく立ち上がるときは俺に言わないとダメでしょ!!


 俺の訴える目に気づいてないのか、春奈はなおも続ける。

 

「今日は、夏休みに向けての課題図書を決めないと!」

「あら、そんなのがあったわね……。で、私の好きなフレーバーは」

「穂花先輩!? 私の話を聞いてました!?」

「チョコレート系です」

「なんで強行するんですか!?」

「結衣はバニラ系です♪」

「結衣ちゃんものっちゃダメだよっ!?」

「俺はバスト系です」

「爽太のバカッ!! もう一回ビンタよッ!!」

「なぜ!?」

「当たり前でしょう!? なんで分からないみたいな顔してんのよッ!!」


 春奈が顔を赤くして、俺を睨む。やべっ!? こっちに来る!!

 

「まあまあ、春奈ちゃん落ち着きなさい」


 穂花先輩の掛け声に、春奈が動きを止めた。た、助かった!

 

 春奈が不満そうに言う。


「なんでこんなバカをかばうんですか……」

「あら? そんなわけないじゃない。ねっ、結衣ちゃん」

「は〜い、今から通報しますねっ♪」

「すいませんでした。何でもします。許してください」


 全然助かってなかった。穂花先輩と結衣ちゃんはとても良い笑顔で、マジな目だった。いいか、男子諸君、女子の前で軽々しくバストの話をすると、通報されるので気をつけるように!


「ふふっ、何でもするのね? じゃあ部活帰りに、皆んなにアイスを買ってあげるってことで」

「買います。いや、むしろ買わせてください」


 通報されないなら、すごく安いもんだ。


「あれだったら、ビンタもくらいますよっ。いや、むしろビンタしてください! さあ春奈!!」

「へ、変態がいるわっ!! き、キモい!! こ、こっちこないでっ!!」

「春奈っ! ビンタをお願いします!!」

「ひゃあっーーー!?!? か、顔を突き出さないでよ!! バカ爽太!! バカバカ!!」


 春奈に両手で、思いっきり顔を押されている俺。おい、春奈! 押すんじゃなくて、叩かないとだゾ⭐︎♪


「ふふっ、相変わらず仲良いわねぇ〜」

「微笑ましいですよねぇ〜♪」

「まあ超仲の良い幼馴染なので」

「超最悪な幼馴染よッ!! も、もう!! は、離れなさいよッ! こ、この、バカ爽太ッ!!」

「ふぐぅっ!?!?」 


 突然、みぞおちに強烈な痛みが走った。春奈の拳がめり込んでいた。お、おま、そ、それは反則やでぇ…………。


 床に両膝を付き、腹を抱える俺。


「ふふっ、相変わらず仲良いわねぇ〜」

「微笑ましいですよねぇ〜♪」

「ま、まあ……、超仲の良い、お、幼馴染なので。ぐふっ……」

「どこをどう見てそう言えるのよっ!! 爽太のばかっ!」


 穂花先輩が、両手を軽くパンと叩いた。


「さて、仲睦まじい幼馴染の光景を見たところで、部活動を始めますか。終わったら、皆んなでアイスも楽しみましょ♪ 爽太くん意外」


「は〜い♪」

「は〜い……」

「ぐふっ……」


 結衣ちゃんの陽気な声音、春奈の疲れ気味の声音、そして、俺の弱った声音が混じり合ったあと、文芸部の活動『夏休み用の課題図書のリスト作り』がスタートしたのだった。

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