第14話 文芸部、全員集合
「私はシャーベット系のアイスが好きかなぁ。シャリッとした食感とね、フルーツの甘さが好きなの。柑橘系の爽やかな感じが良くって」
「あ〜、それ良いですよねっ♡。でも〜……、
「あ〜! 良いねっ」
「ですよねっ〜、バニラに、チョコ、キャラメルとか、あっ! でも甘酸っぱいベリー系もあるので、それも大好きですよ♡」
「うんうん、あっ! そうそう、先週くらいかな、シャーベットなんだけど、すっごい美味しいベリー系のを見つけたの。今それを食べるのが楽しみで」
「えっ! そうなんですか! すっごく美味しい……」
「……、食べたい??」
「もちろんです!」
「そっかぁ〜、ふ〜ん、どうしようかなぁ〜。結衣ちゃんは、アイスクリーム派だもんね?」
「うっ!? ゆ、結衣はクリーム派ですけど、シャーベットも大好きなので! 春奈せんぱ〜い!」
「ふふっ、じゃあ今日学校の帰りに私の家で一緒に食べよっか」
「ほんとですか!! わーい、行きます! 楽しみ〜♪」
ふ〜ん……、良いなぁ。俺も食べたい。が、ついさっき春奈に思いっきりビンタされて怒られたからなあ……。一緒に着いていったら、『来るな、変態』と言われかねん。
文芸部の部室で、俺はビンタを食らった左頬をさすりながら、2人の楽しげなアイスの会話に耳を傾けていた。
部室はどことなく暑い。冷房を付けてはいるが、節電対策のため微冷風設定だ。夏の暑さがほんのりいすわっている部室で、結衣ちゃんが『アイス食べたいですねぇ〜』とつぶやいたのをきっかけに、春奈と好きなアイスの話で盛り上がっている。
お~……、痛てて……、はぁ~……。冷たいアイスでも食べて、ビンタを食らった頬を口の内側から冷やしたいなあ。まっ……、いいさ。俺にはアイスの代わりに頬を冷やせるものを持参しているし。
俺は自分の通学用リュックから、冷え冷えシートを取り出した。保冷剤的なジェルがついた湿布みたいなモノ。夏にはこれが必須だ。いや、俺には常にいる。春奈からビンタをいただくたびに貼っているからな。貼っとかないと次の日、手形が頬に残っちゃいますからねぇ……。普段から強く叩き過ぎなんだよなぁ……。バスト関連の話になるとすぐ叩こうとするし……、どうにか止めたいんだけど……、春奈が片手をフルスイングするとき少し揺れるから……、う~ん、悩ましい。
この世の不条理を考えながら、頬に冷え冷えシートをピタリ。
「お〜……、ヒンヤリ最高……」
頬の痛みと熱を癒してくれる冷たさに酔いしれていたら、
「あっ! 爽太せんぱい! 1人だけずるいですよっ!」
「んっ??」
そう言ってすぐ俺の近くに結衣ちゃんが寄ってきた。
「結衣もほしいですぅ」
「え? いやまあ……」
可愛らしくお願いされて、悪い気はしない。いや、めっちゃテンションが上がる。でもなあ……。
俺はふと思う。後輩女子である結衣ちゃんに甘すぎではないかと。結衣ちゃんは、自身がもつ小悪魔さを発揮し、無垢な男子どもを魅了しおるからなあ。しかも無自覚なのがヤバい。こほん、ここはひとつ、先輩として、いや男として! 身持ちの固い厳しい態度をとり、冷え冷えシートをあげない選択肢を、
「はい、結衣のおでこに貼ってくださいなっ♡」
「もちろんさっ♪」
結衣ちゃんの小さなおでこにピタリと貼り付けている俺がいた。いや無理、抵抗するの無理。あと結衣ちゃんのおでこ可愛い。
「ひゃ! 冷たっ♪」
と、女子らしい高めの声音で反応する姿がグッド。SNSに動画上げたらバズるだろ、これ。
「もっとゆっくり貼ってくださいよぉ」
「おお、すまん、次はそうするよ」
「約束ですからねっ、せんぱいっ」
結衣ちゃんはそう言って楽し気に笑う。いや~、なにこの天使様。小悪魔系じゃないな、もう天使様系ですよ。はぁ~……、春奈もこんな風に可愛く笑ってくれたら良いのになぁ~、って!?!?!?
春奈に視線を向けたら、ヤバいものを見てしまった。
ガルルルルルルルッッッ…………。
鬼の形相!! 小さな淡い口元から唸り声が聞こえそうな雰囲気で、春奈が両目を釣り上げて俺を睨んでいた。なぜ!? めっちゃ怒っている!? 俺、結衣ちゃんに親切なことしかしてないけど!? バ、バストを見る目付きなんてしてなかったよ!?!?
「せんぱい? どうしたんですか??」
「へっ!? な、なんでもないよ!」
俺は、にこりと作り笑い。結衣ちゃんには言えない! 後にいる春奈が、鬼の顔をしているなんて!!
結衣ちゃんは少し首をかしげた後、何か思い出した顔つきで口を開いた。
「せんぱいは、シャーベットかクリーム、どっちが好きですか??」
「へっ!? な、なにそれ?」
「もう~、アイスのことですよ。さっき、春奈せんぱいと話していた」
「あっ、あぁ~! アイスねっ!」
そんなこと、頭から吹っ飛んでいたぜ。だって、春奈が怒った顔で俺を凝視しているからねっ!!
「でっ、爽太せんぱいはどっちが好きですか??」
「えっ? シャーベットか、クリーム?」
「ですですっ!」
無邪気に聞いてくる結衣ちゃん。か、かわええ。クリーム、って言ったらめっちゃ喜んでくれるんだろうなぁ。うし、
「俺はそうだなぁ~」
クリームの、クを発音する寸前で、
「そ・う・た」
びくっ!?!?
冷たい、いや、冷徹な声音が、俺の全身を震わせる。
俺の視線は春奈の方へ。すっごく、笑っていた。でも、全然楽し気な雰囲気が感じられない。笑っているのに、すっごく恐いんですけど!?
「そうたは、どっち??」
ニコリと、目を細めて笑う春奈。こ、こえ~!! ぱっと見、すごく可愛いんだけど、なにこの変な威圧感、重圧感は!?!?
「爽太せ~んぱいっ、もちろんクリームですよねっ??」
と、温かく笑う結衣ちゃん。
「へっ!? いや、えっと!?」
「そうた、シャーベットだよねっ?」
と、冷たく笑う春奈。
「ひっ!? いや、えっと!?」
俺は、精神が凍り付いてく感じがした。なんだよこれ!?!? も、もっと、3人で和気あいあいと楽しく話そうよ!?
どっちを選ぶべきか。
結衣ちゃんと、春奈にじーっと見つめられ、答えられないでいた。
「爽太せんぱい」
「そ・う・た」
う、うおぉぉぉぉぉぉっ!?!?!? ど、どっちを選べば!!
ガラガラガラ。
突然、部室のドアが開く音がした。
俺はバッと、視線を音の方へ向けた。そこには、
「あら? もう3人とも来ていたのね。ごめんね、遅れちゃって」
「ほ、
俺が声を発すると、文芸部の部長こと、穂花先輩は、優し気に笑う。その慈愛に満ちた笑みに、俺は女神様を見た気がした。だから、もう託すしかないと思った。
「ほ、穂花さんは! アイスの、クリーム派! シャーベット派! ど、どっちです!?」
俺の鬼気迫る声音に、穂花さんは目を丸くする。とても不思議そうな感じだ。そりゃそうだ、いきなりそんなこと聞かれたら戸惑うだろ。
でも、そこは園芸部部長の、冷静沈着の穂花先輩。周囲を見渡し、結衣ちゃんや、春奈の様子を確認した後に、長い艶やかな髪を耳の後ろに少しかきわけながら、
「どっちも派♡ だ、だめっ?」
と、少し恥じらいながら、ためらいがちに微笑む。いや、もうこれ反則だろ……。
「「「は、はうっ……♡」」」
俺や結衣ちゃん、春奈は、大人女子な可愛らしさに、心溶かされて小さく吐息をこぼすのであった。
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