第7話 俺と放課後と河川敷
放課後、俺は手紙で指定されていた校舎裏の河川敷に来ていた。河川敷には桜が整然と並んでおり、満開の桜が校舎を囲むように咲き乱れる光景は、ここ青葉北高校の隠れた名物だ。
5月の中旬ともなった今では葉桜となっているわけだが、俺は桜色と緑色が入り混じった葉桜の方が好感が持てる。両極端な色が共存している様に安心感を覚えるからだが、そう思う俺はどこか歪んでいるのだろうか。
そうこうしているうちに、薄い茶髪を巻いた女子が駆け寄ってきた。薄くメイクをしているようで、短いスカートも相まってどこかギャルっぽい子だ。彼女が手紙をくれた亜由美だろう。
「ご、ごめんなさい。私が呼び出したのに……、待たせてしまいましたっ」
「ああ、だいじょぶ、だいじょぶ。てか、息整えたら?めっちゃ疲れてんじゃん」
「はぁはぁ……すみません。今日、掃除当番だったのを……忘れてましてっ」
おそらく大急ぎで駆けつけてくれたのだろう。肩で息を吸っている様子からも察せられる。
「部活前の貴重な時間を奪ってしまって、すみませんっ」
「ああ、いいよ。気にしなくて。校庭もすぐそこだし。それで、話って何?手紙には、この河川敷に来てってしか書いてなかったけど・・・・・・」
「あっ、はい。えっと・・・・・・、その・・・・・・」
亜由美が腕を後ろ手に組みながら、視線を泳がせ始める。上気した頬は、走ってきたからだけが理由ではないのだろう。
俺はこういう様子の女性の姿を、何度も見てきた。俺は今から告白されるのだろう。
「颯斗くん。・・・・・・私は、颯斗くんのことが・・・・・・好き、です。もしよかったら、私と付き合ってくれませんか?」
「・・・・・・悪い。俺は、君とは付き合えない」
俺は、後腐れが無いよう、突き放すような声色で返事をする。
「そう・・・・・・ですよね。理由くらいは・・・・・・聞いても良いですか?」
亜由美は泣きそうになるのを堪えながら、俺に聞いてくる。答える必要は無いのかも知れない。それでも、振った側の責任もある。俺は嫌われる覚悟で告げることにした。
「俺は、君のことをよく知らない。よく知りもしない相手と・・・・・・、好きでもなんでもないような相手と、付き合うなんてこと、俺には出来ない。ただ・・・・・・、それだけだよ。それに・・・・・・」
続きを言いかけて、俺はためらってしまった。あの日、あいつに言われたことが、心の真ん中に消えないシミとなって剥がれない。気持ちがざわめいて落ち着かない。
『結局貴方は、自分のことしか頭にないのよ・・・・・・』
自覚はあった。自覚があった分だけ、ダメージが大きかった。俺なりに、あいつに・・・・・・元カノに愛を向けていたと思っていたが、届かなかったのだろう。だから、俺は振られたのだ。
そして結局、失恋から立ち直れていない。
「颯斗くんは、私のことなんて覚えてるわけないですよね・・・・・・」
「えっ?」
「私、中学まで隣の県にいたんです。小学1年生のときまで、近所に住んでたんですよ?」
「ごめん・・・・・・。全然覚えていない・・・・・・」
「そっか・・・・・・」
小学1年生の記憶なんて、ほとんどなかった。俺にとって、思い出がキラキラと輝きだしたのは、朋希と出会ってからだったから・・・・・・。
俺は、やはりあいつの言うとおり、他人に興味が無い、薄情な人間なのだろうか?
「ねえ、颯斗くん。ちゃんと返事をしてくれてありがとう。ばいばい・・・・・・」
そう言って河川敷を後にした亜由美の目には、大粒の涙が滲んでいて。俺は、どうしようもない虚無感に、打ちひしがれながら、校庭へと足を動かした。
他の誰かになれない僕らは 護武 倫太郎 @hirogobrin
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