第4話 僕と朱莉と放課後

 僕と朱莉、そして葵彩が出会ったのは幼稚園の時だった。

 僕がすべり台で遊んでいたときに、砂場で遊んでいた2人に話しかけたのがきっかけだった。


「ねえ、君たちも一緒に遊ぼうよ・・・・・・って、あれ?同じ顔だ」


 水色のヘアピンを付けていた葵彩の大きく澄んだ瞳に涙がにじんできた。何も考えずに発言してしまったことを、こども心に後悔したのを覚えている。

 

「っ・・・・・・、違うもん。葵彩と朱莉ちゃんは同じじゃないもん」


 桃色のヘアピンを付けていた朱莉は、葵彩を守ろうと僕の前に立ちふさがり仁王立ちしていた。


「ちょっと、あんた。私のかわいい妹を泣かせないでよっ」


 あの頃の朱莉と葵彩は二人とも髪が肩口で切り揃えられていて、色違いの服やヘアピンくらいしか容姿の差違はなかった。


「ご、ごめん。泣かせるつもりは無かったんだよ。でも本当だ。よく見ると2人とも違う顔してる。目がちょっと違うんだね。それに2人ともすっごくかわいい」


 たれ目気味の朱莉と、釣り目気味の葵彩。よく見たら二人の顔は微妙に違う。とはいえ、そのことに気づいている人はどれだけいるのか、分からないくらいの差なのだが。

 でも、僕は気づいた。気づけたのだ。


「あ、ありがとぅ・・・・・・」

「むっ、むぅ。まあ、葵彩ちゃんが笑ったから、許してあげる。私は朱莉だよ。双子のお姉ちゃんなんだ」

「わ、私は葵彩です・・・・・・。朱莉ちゃんの双子の妹ですっ」

「僕は、朋希だよ。あっちで一緒に遊ぼう?すべり台、すっごく楽しいよ」


 双子という存在を知らなかったとはいえ、あんまり良い出会い方ではなかったなと思う。それでも、2人と打ち解けるのに時間はかからなかった。僕らはすぐに仲良しになったんだ。



 午後の授業の時間、集中できなかった僕は思わず居眠りをしてしまった。なんだか、懐かしい夢を見ていたような気がする。気づいたらもう放課後だ。

 あの後トイレから戻った僕が桜色の便せんを颯斗に渡すと、嬉しいような戸惑うような何とも言えない表情をしていた。

 拓弥はなぜだか誰よりもテンションが上がって、颯ちんばかりずりーぜ、なんて喚いていた。

 教室を見渡すと、もう颯斗の姿どころか数えるほどしかクラスメイトはいない。あの便せんの中身は知らないけど、今頃告白でもされているのだろうか。

 僕の眼前には黒板を消している朱莉がいて、思わず胸がチクリと痛んだ。出会ったばかりの頃の朱莉は、どこか生意気でお姉さん風を吹かせたがる子だったなあ、なんて考えながら席を立とうとすると、黒板を消していた朱莉と目が合った。


「あっ、朋希ー。ちょっと待って下さい」


 朱莉がパタパタと僕の机に近づきながら、少しためらいがちに話しかけてきた。


「あの、今日って放課後部活ありますか?」

「今日?陸上部だったら、普通にグラウンドで練習してると思うけど・・・・・・」

「何言ってるんですか?颯斗くんならともかく、朋希は写真部じゃないですか」

「あ、僕のこと?」

「もう、他に誰がいるんですか?変なの、ふふっ」


 そう言ってクスクスと笑う朱莉の顔が眩しくて、多分颯斗のことを聞きたいんだろうなと察しながらも、嬉しくなってしまう僕のことが恨めしかった。


「今日写真部は活動無しだよ。というより、基本写真部は開店休業中みたいなところがあるから」

「そうなんですね。実は生徒会も今日は活動がないので、もしよければ、放課後ご一緒できませんか?」

「・・・・・・放課後に遊ぶなんて、小学生ぶりかな?なんか懐かしいね」


 小学生の頃は、放課後毎日のように一緒に遊んでいたように思う。その場所は公園だったり、お互いの家だったり、様々だった。


「ふふっ、けど、ここに葵彩がいないなんて、小学生の頃にも無かったですよね」

「へ?それって・・・・・・」

「今日は私と朋希の二人きりですねっ」


 朱莉のからかうような言葉に、僕は頭をガツンと叩かれたかのような気持ちになってしまった。



 

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