第3話 僕と葵彩と昼休み

 突然のギャル3人の来訪が終わり、ようやくトイレにありつけると思った僕の背後から鈴のように軽やかな声がかけられる。葵彩だ。


「今の3人、なんだったわけ?」

「いやぁ、手紙を急に渡されて・・・・・・」


 そう言って先ほど手渡された桜色の便せんを見せると、葵彩は不機嫌な顔をしだした。そう思うのは僕のうぬぼれだろうか。うぬぼれに決まっているか・・・・・・。


「は?それでデレデレ鼻の下伸ばしてたってわけ?ふーん、よかったねラブレターもらえて。朋希ずっとモテたそうにしてたもんね」

「いや、ラブレターなのは多分あってるんだけど、これ僕向けじゃないんだよ・・・・・・」

「へ?」

「これ、颯斗に渡してくれってさ。直接渡された方が颯斗も喜ぶだろうにね。なんか、僕の方が気楽に頼みやすかったんだってさ・・・・・・。ははは、まあ話しかけやすい雰囲気は僕の唯一の長所なのかもね」

「・・・・・・そうやって誰にでも良いかっこするんだから・・・・・・」


 言っていて、少し悲しくなってきたせいで、葵彩が何か言っていたような気がするけど聞き取れなかった。女子からの話しやすい雰囲気なんて、男として見ていないって言われているようなものじゃないか。


「なんか言った?」

「別にっ、なんでもないっ。ま、朋希にラブレターなんてありえないわね」

「そりゃそうだよ。ま、そういうわけなんで、別に僕は鼻の下なんて伸ばしてないよ。むしろ、ちょっとへこんでいたまである・・・・・・」

「そ、そうだったのね。ごめん、ひどいこと言って」


 葵彩は、口調に反して心折れやすいところがある。今も僕を傷つけたと思ったのか、肩をしゅんと落としてしまっていた。


「いや、別に葵彩のせいじゃないよ。はぁ、なんで颯斗はあんなにもモテるんだろうな?」


 そんなことは僕には分かりきっていた。スポーツ万能で、顔もスタイルもよく、少しムッツリだが人当たりも悪くない。どちらかといえばクール系なところもカッコよさに拍車をかけているのだろう。それに友人びいきするようだが、あいつは良い奴だ。


「本当よね。私からしたらただの変態バカって感じなんだけど。なんで、朱莉もあんなやつのことが良いのかしら・・・・・・」

「・・・・・・うん、本当だよね」

「あっ・・・・・・、今のは・・・・・・」


 言って葵彩は、慌てて口に手を当てた。おそらく姉の想い人のことをくちにするつもりはなかったのだろう。とはいえ、僕は朱莉の気持ちには気づいていた。


「あー、大丈夫。なんとなくそうなんじゃないかって僕も気づいていたし。それに僕は口が堅い方だからね。朱莉の気持ちをバラしたりとかは絶対にしないから」


 そう、絶対に朱莉の気持ちを伝えたりなんかはしない。


「そ、そうよね。朋希のことは信頼できるもの。それに私たちの仲だものね」

「うん。あっ、ごめん、僕トイレに行きたかったんだ。もう授業始まっちゃう・・・・・・」

「ごめん、私こそ引き止めたりなんかして。遅刻しないでねっ」


 これ以上、この話題を広げたくなかった僕は慌てて葵彩から離れてトイレに向かった。心中穏やかではないままに。

 そうか、やはり朱莉は颯斗のことが好きだったのか・・・・・・。

 そうではないかとなんとなく察してはいたけど、葵彩の口ぶりからするときっと真実だろう。


「颯斗相手じゃ・・・・・・勝てるわけがない・・・・・・」


 思わず口から出た僕の弱音は、誰にも届かないまま廊下に消えていった。

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