16:昭和の不良
真新しい学生服に身を包んで登校するというのは、新入生のようで何だか気恥ずかしい。
馨も同じようで、糊がしっかり効いているブラウスが眩しくて初々しく、少しモジモジしている様子が男心を刺激する。
いつもならそれだけで下半身がムズムズし始めるのだが、今はいたって平穏だ。
それにしても……
俺が穿いているズボンはまさに昭和の不良そのもので、腰の部分が大きく膨らみ、そこからストンと太いまま下に落ちているシルエットをしている。
進学校であるウチの学校にはその様な格好の生徒はいない。校則では制服で寸法を変えて良いのはズボンの裾と袖の長さだと決められているので当然の話だ。今回は先輩が学校側にきちんと話を通しているらしい。
「「ぷふっ」」
二人して笑うことはないだろう。俺だって似合っているなんて思っていないのだから。
「まるで昭和の不良だね」
俺だってそう思っているのに先輩からストレートに言われると、誰のせいでこうなっているのかと少し怒りが湧いてくる。
「好きでこんな格好してるわけじゃないですからね」
「ごめんごめん。もしこれが気に入らないならジャージで登校できるように学校にかけ合うから」
できればそうしてほしい。ついでに馨も。
朝食後に搾乳をしたとは言え、馨の胸は特注のブラウスからもどれ程の大きさか良くわかる。
学校に行って、貧乳だった彼女がどういう眼で見られるのかと思うとちょっと不安だ。
「悠生、お前、それ…ぷっっ、ははは」
俺の格好を一目見て大笑いしている無礼な奴は
昼休みの軽妙なDJが特に人気で、一年生にして学校のアイドルとなっている。
「いつの時代の不良だよ。ははは、どういう心境の変化─ハハ、ハハハ─ああ、ごめ─ハハ─腹が痛い」
笑われるのは覚悟していたが、そこまで言われることはないだろう。
「そこまで笑うことはないだろ。俺だって仕方なくて…」
「仕方がないって、どんな事情があるんだよ。だいたいそんな格好校則違反─ハハハ、だめだ」
エルフ化したなんて言えるわけがない。その上で股間と尻尾の問題だなんて死んでも言えない。
「とにかく学校の許可は取ってある。事情があるんだよ」
先輩から間違いなく許可を取ってあるし、あとで担任の先生から証明書が渡されると連絡があった。学校にとって超有名人である先輩の威光はヘタな先生よりも絶大なものがある。
それにしてもあからさまに笑っているのは我孫子だけだが、クラスの視線が痛いのは事実だ。特に女子からの軽蔑したようなものが刺さる。
昨日までの俺も確かにこういう服装に嫌悪感を持っていた。でも実際に穿けば動きやすいし、涼しいし、それはそれなりに合理的だ。不良っぽい奴が着ていたからと言って全てを否定してはいけないと思う。これからは服装に対する見方を少し変えようと思うのはエルフ化した効果だろう。
朝のホームルームが終わると先生から廊下に呼ばれた。クラスメイトの視線が痛いけどその中を通り過ぎていく。
「校長先生から特例でその格好を許可すると言われている。これが証明書だ。だがなぁ……」
「だが、ですか」
「俺としては納得しがたい。どうしてそうなのか理由を聞かせてくれないか」
先生としては当然の言葉だ。この時のために先輩が理由を考えてくれている。
「腰に大きな腫れ物ができています。ズボンで擦れるのを防ぐためこの格好をしました。その診断書を提出していますが」
正確には巨大化したモノと尻尾だなんて絶対に言えない。
「それは見た。だったらジャージの方がまだマシじゃないか」
「校則には登下校時は制服着用と書かれているので」
「例外規定もあるだろ。診断書を盾にジャージにできるんじゃないか。買ったばかりだろうがその制服よりはずっとマシだと思うけどな。まあ、考えておいてくれ」
そう言われ、あとで先輩と話さないといけないと思った。
俺としても皆の目は結構堪えるから、何としてもジャージ登校にしてもらうよう頼まないと。
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