14:身体能力

 翌日の朝、普通に目覚めた。

 ハッとなり、下半身に手をやれば柔らかいままだ。薬の効果は大したものだとつくづく思う。


「おはようございます」


 ダイニングには既に朝食の支度ができていた。

 洋風のもので、パンの他に肉、魚、温かいスープまでセットしてある。もの凄く豪華だ。

 カトラリーもホテルもかくやという風にセットされているし、テーブルの上にはナプキンが立っている。


「おはよう、皆揃ったから食べましょう」


 あまりに綺麗で豪華なので、キチンと正しいマナー(詳しく知らないけど)で食べないといけないかと思ってしまう。


「あ、はい…いただきます」

「マナーなんか気にしないで、これはね、レミさんがお客様に出すならと気合いを入れすぎたのよ」


 レミさんとはこの家の家政婦さんだそうで、週二日ここで働いているとのこと。

 高校生でメイドを雇えるって、どれだけ金持ちなんだ。


「「美味しいです」」


 朝食はいつも摂っているけど、これだけの品数も量も普段は口に入れない。一皿一皿はとてもお上品な量であっても、まとまれば相当お腹に溜まる。


「今日は身体能力を測定します。場所はこのマンションにある上層階専用のジムです。ここを貸し切りにしてあるので誰にも見られることはありませんから安心して下さい」


 十時から三時まで貸し切りにしてあるのだという。お金持ちが集まるこのマンションの施設をそんな風にするなんていくら使ったのだろうか。スケールが違いすぎて着いていけない。



 巨大なガラスから地上が丸見えになる作りのジムにはありとあらゆるマシーンが備え付けられている。それも簡単なモノではない。誰が見ても本格的かつ豪華な仕様のモノだ。


 ここで様々なデータを取っていくとのこと。

 最初にベンチプレスから入ったが、以前なら絶対に無理だと思えるものが楽々持ち上がってしまう。筋力がもの凄く付いているのがわかる。馨だって、俺と同じくらいの重さのモノを持ち上げている。以前の華奢な彼女なら動かすことだって難しかったはずだ。


 腹筋をすれば何度やっても疲れない。十回やればお腹が痛くなっていたのが嘘のようだ。

 反復跳び、ランニング、バイク、縄跳び、更にはバッティングマシーンまで。どれもこれもあまり疲労を感じずに結構なスコアを出している気がする。

 エルフ化するとここまで身体能力が上がるものなのだろうか。特にバッティングマシーンはボールの動きがいつもよりとてもゆっくりに見えた。中学の時に馨とデートの流れで行った時は百キロのストレートに眼が着いていかなかったけど、今日はスローモーションのごとく動きを見切れ、結果殆どがヒットだった。その時に一球もボールに当てられなかった馨も今日は半分以上がヒット性の当たりだったから相当のものだ。


 ひょっとしたらドーピングの規定に禁止薬物としてエルフ変身薬が登録されるかも知れない。


「凄いね。エルフの身体って想像を遙かに超えている」


 呆れたような口調で話す先輩は些か興奮しているようで、いつもより少し早口だ。


「筋肉の性質が変わっているんだろうね。この辺り、小説に出てくるエルフの戦士は案外リアルなのかもね」


 俺の腕をさすりながら、そんなことを言う。

 さっきはスポーツ選手のことを考えていたが、これを軍隊が応用したら凄いことになると思う。この薬は絶対にオープンにしてはいけない奴だ。

 同じ事を先輩も馨も考えていたみたいで、エルフ化のことを知る人がいるのは仕方がないとして、身体能力については秘密にしておくことを決めた。因みに後日学校で内密に持久走やジャンプなどの能力測定をすることも決めておいた。

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